第414話 正体を見抜かれた女
「お客様! いったい何をなさるんですか!」
リオンが神剣を突き出した瞬間、奴隷商の会長が慌てて声を上げた。
すぐに、同行していた自衛隊特殊作戦群の隊員たちも動いた。
「陛下! お待ちください!」
一人がリオンの腕を押さえ、もう一人が前に出て制止する。
「何を考えているんですか! 相手は奴隷ですよ!」
奴隷商の会長も顔を青くしていた。
「そうです! いきなり剣で刺すなんて、何かの間違いではありませんか!」
周囲の誰もが、リオンの行動に困惑していた。
しかし、リオンは神剣を下ろそうとしなかった。
その視線は、檻の中にいるエルフの女に向けられたままだ。
「こいつがアマンダだ」
「……え?」
奴隷商の会長が、間の抜けた声を漏らした。
自衛隊員たちも一瞬、リオンの顔を見た。
「陛下、それは本当ですか?」
「間違いない」
リオンは短く答えた。
檻の中のエルフは、手にしたカップを口元に運ぼうとしていた。
だが、その動きがわずかに止まる。
「何を…おっしゃっているのかしら? 私はただの奴隷よ」
彼女はすぐに穏やかな笑みを浮かべた。
声も表情も落ち着いている。先ほどまでと何も変わらない。
けれど、リオンはその言葉に反応しなかった。
「まだそんなことを言うか」
神剣を握る手に力がこもる。
そのとき、神剣の声が響いた。
『リオン、間違いありません。この者です』
「やっぱりか」
リオンが小さく呟いた。
次の瞬間だった。
神剣が、リオンの手からふわりと離れた。
「なっ!」
自衛隊員たちが驚きの声を上げる。
神剣はそのままエルフの身体へ入っていった。
「待て!」
隊員の一人が声を上げたが、止めることはできなかった。
神剣はエルフの身体に吸い込まれるように消えていった。
刃が身体を貫いたように見えたにもかかわらず、血は流れない。
まるで神剣そのものが、彼女の中へ溶け込んでいったかのようだった。
「……っ!」
エルフの表情が初めて崩れた。
手にしていたカップが指から滑り落ち、テーブルにぶつかる。紅茶がこぼれ、白い布を濡らしていった。
彼女はそんなことにも気づかない様子で、リオンを見つめていた。
「なぜ? わかった!?」
その声には、もう先ほどまでの余裕はなかった。
驚きと戸惑いが、はっきりと表れている。
リオンは彼女を見据えたまま、静かに答えた。
「目だ……」
「目?」
「そうだ。お前、正体がわかるわけがないと思って、俺たちを舐めてただろ」
リオンは一歩も引かない。
「いくら姿を変えても、その薄汚い目までは隠せなかったな」
エルフの顔から、優雅な笑みが消えた。
その目に浮かんだのは、怒りだった。
だが、それだけではない。
なぜ見破られたのか理解できないという驚きと、隠し通せると思っていた正体を暴かれた動揺が混じっていた。
「あなた……どうして……」
彼女が何かを言いかけたとき、リオンは黙ってその様子を見ていた。
奴隷商の会長は、檻の中の女とリオンを交互に見ている。
「アマンダ……? まさか、この女が……?」
先ほどまで自分が扱っていた奴隷が、リオンたちの追っていた人物だという。
会長にとっても、すぐには受け入れられない話だった。
自衛隊員たちも警戒を続けている。
彼らはリオンの行動を止めようとしていたが、今の状況を見れば、ただの思いつきで剣を向けたわけではないことは分かる。
檻の中にいるのは、ただの奴隷エルフではなかった。
長い間、リオンたちが追い続けていた女。
アマンダだった。




