第409話 神剣が示すアマンダの居場所
俺は神剣グランディアを握ったまま、教会を出た。
その後ろから、フィーナが慌てて追いかけてくる。
「リ、リオン様! お待ちください! どうして神剣グランディアを持っているのですか!?」
「持っていくことになったからだ」
「説明になっていません!」
フィーナは頭を抱えた。
そりゃそうだ。
神様との会話を終えたと思ったら、俺が神剣を持って教会から出てきたのだから、パニックになるのも無理はない。
「それより、城に戻るぞ。緊急の会議を開く」
「会議!? 神剣を持ったままですか!?」
「そうだ」
「なぜそんなに落ち着いていられるのですか!」
「俺だって、いろいろ驚いているんだぞ」
ただ、驚いている暇がないだけだ。
神剣から聞いた話は、マサラ王国で起きた事件の全容に関わる重要な情報だった。
アマンダの居場所も分かる。
ならば、すぐに動くべきだ。
俺はフィーナを連れて城へと戻った。
もちろん、神剣グランディアも一緒だ。
城に到着すると、すぐにガルヴァン、ゼルファ、ゼオン、精霊の女王を集めた。
緊急会議の始まりである。
「……で、リオン。なんでお前、神剣を持って帰ってきたんだ?」
席に着くなり、ガルヴァンが俺の手元を見て尋ねた。
「話せば長い」
「短く話せ」
「神剣と会話できた」
「……は?」
ガルヴァンが固まった。
ゼルファも目を丸くしている。
フィーナに至っては、まだ落ち着きを取り戻していない。
「ま、待ってください! 神剣グランディアと会話できたというのは、本当なのですか!?」
「本当だ。なあ、グランディア」
『はい。リオンと話をしていました』
俺の頭の中に女性の声が響いた。
もちろん、ほかの連中には聞こえていない。
「……リオン様。今、何か聞こえましたか?」
「俺には聞こえた」
「私には何も聞こえません!」
フィーナが悲鳴に近い声を上げた。
まあ、そうなるよな。
神剣の声が聞こえるのは、今のところ俺だけらしい。
「なら、ゼオンにも試してもらおう」
俺はゼオンに目を向けた。
「ゼオン、ちょっとこの剣に話しかけてみてくれないか?」
「うん。分かった」
ゼオンは素直に頷き、神剣に向き直った。
「こんにちは。僕はゼオン。君とお話しできる?」
『……こんにちは、ゼオン』
その瞬間、ゼオンの顔がぱっと明るくなった。
「聞こえた!」
「何だと!?」
ガルヴァンが椅子から立ち上がった。
ゼオンは嬉しそうに神剣を見つめている。
「すごいね。君、女の人の声なんだね」
『はい。そういう声で話しています』
「へえ……」
ゼオンは少し考えてから、俺の方を振り返った。
「父さん、もしかして異世界特典って便利だね」
「…………」
俺は黙った。
異世界特典。
またその言葉か。
しかも、息子にまで言われた。
俺は異世界から来たわけではない。少なくとも、自分ではそう思っている。
なのに、神様にも聞こえない神剣の声が俺には聞こえ、ゼオンにも聞こえる。
いったい、どういう仕組みなのだろうか。
「……便利と言われても、俺にも理由は分からん」
「でも、父さんが最初に話せたんでしょ?」
「そうだが」
「やっぱり、異世界特典かな?」
「ゼオン。父さんは今、少し複雑な気分なんだ」
「そうなの?」
「ああ」
息子にまで不思議な力の理由を異世界特典で片づけられる。
父親として、なんとも言えない気持ちになった。
まあ、今はそんなことを考えている場合ではない。
「よし。会話できることは確認できた。ここからが本題だ」
俺は神剣に尋ねた。
「グランディア。アマンダについて、もう少し詳しく教えてくれ」
『分かりました』
神剣の声を聞きながら、俺は皆に説明を始めた。
アマンダは、ヘリオス教の信徒だと偽って、いくつもの国を渡り歩いていたらしい。
目的は、神剣グランディアと適応できる少女を探すこと。
そのために、何千人もの少女を調べていた。
「ヘリオス教の信徒を名乗っていたのか……」
フィーナの表情が険しくなった。
グランディアの話は続く。
アマンダは少女を見つけるまで、各地で人を探し続けていた。
そして、神剣と適応できなかった者たちは、禁忌の魔法によって違法な薬物へと変えられていたという。
「……待て」
俺は思わず、神剣の言葉を遮った。
「人間を薬物に変えたってことか?」
『はい。適応できなかった人間は、禁忌の魔法によって変化させられていました』
会議室が静まり返った。
マサラ王国で発見された大量の塩。
違法な薬物。
そして、住民が消えた事件。
これらが、一本の線でつながっていく。
俺は一度、深呼吸した。
そして、神剣から聞いた話を皆に伝えた。
アマンダがヘリオス教の信徒を装い、各国を渡り歩いていたこと。
神剣と適応できる少女を探していたこと。
適応できなかった人間を、禁忌の魔法で違法な薬物へ変えていたこと。
少女を神剣と融合させ、禁忌の魔法のコアにしたこと。
そして、少女の辛い記憶を、神剣が消していたこと。
話し終えると、ガルヴァンが吐き捨てるように言った。
「カスが」
短い言葉だった。
だが、その声には隠しようのない怒りがこもっていた。
「人間を何だと思ってやがる。何千人も調べて、使えなければ薬物に変えるだと? ふざけるのも大概にしろ」
ガルヴァンは拳を握りしめた。
フィーナも、唇を噛んでいた。
「ヘリオス様の名前を使うのは許せない……」
その声は震えていた。
信仰を利用し、人々を騙し、残酷な行為を繰り返した。
フィーナにとって、これほど許しがたいことはないだろう。
「ヘリオス様を信じている人々まで、疑われることになってしまいます。アマンダの行為は、ヘリオス様の名を汚すものです」
「そうだな」
俺は頷いた。
アマンダは、ただ人を傷つけただけではない。
神の名を騙り、人々の善意や信頼まで利用していたのだ。
ゼルファは険しい顔で腕を組んだ。
「禁忌魔法の使用は許せない。人間を薬物に変えるなど、研究者としても認められん」
「研究者として、か?」
「何だ、その顔は」
「いや。お前なら、魔法の仕組みが気になるとか言い出すかと思った」
「仕組みを調べることと、使用を認めることは別だ! そもそも、人間を材料扱いするような魔法など、研究以前の問題だ!」
ゼルファは珍しく声を荒らげた。
それだけ、今回の話が許せないのだろう。
一方、ゼオンは青ざめた顔で俯いていた。
「……何千人も?」
「ああ」
「その人たちは、何も悪いことをしていなかったかもしれないのに……」
ゼオンの声は小さかった。
俺は息子の肩に手を置いた。
「そうだな。だからこそ、これ以上同じことをさせるわけにはいかない」
ゼオンは黙って頷いた。
その隣では、精霊の女王が心配そうにゼオンを見つめていた。
優しいゼオンには、今回の話は重すぎるのかもしれない。
だが、知らないままでいい話でもなかった。
俺たちは、こうした事件が二度と起きないようにしなければならない。
「……さて」
俺は神剣グランディアに目を向けた。
「アマンダの居場所は分かるんだったな?」
『はい。おおよその方向なら分かります』
「どこだ?」
『南です。南にある街の近くにいます』
俺はすぐにガルヴァンを見た。
「地図を出してくれ」
「分かった」
ガルヴァンは机の上に簡易地図を広げた。
ガルリオン共和国周辺の国々と主要な街が記された地図だ。
ガルヴァンは指で南側をたどり、いくつかの街を確認した。
「南にある街……。この辺りか?」
『もう少し南です』
神剣の返答を聞き、ガルヴァンは指を移動させた。
やがて、一つの国の名前の上で指が止まる。
「……アマル王国か?」
ガルヴァンが呟いた。
会議室に緊張が走った。
アマル王国。
そこにアマンダが潜伏しているのだろうか。
俺は神剣に尋ねた。
「グランディア。アマル王国で間違いないのか?」
『国の名前までは分かりません。ただ、私が感じる方向からすると、その国の可能性はあります』
「なるほどな」
まだ確定ではない。
しかし、十分に調べる価値はある。
俺は地図を見つめた。
マサラ王国で起きた事件は、終わっていなかった。
アマンダが生きている限り、同じことが別の国で繰り返される可能性がある。
そして、その先には邪神ヴァルガディアがいる。
「よし。アマル王国を中心に調査を始める。アマンダの潜伏先を突き止めるぞ」
俺の言葉に、皆が頷いた。
神剣グランディアが、俺の手の中で静かに輝いた。
今度こそ、アマンダを見つけ出す。
そして、あの少女に何をしたのか。
何千人もの人々に何をしたのか。
その責任を、必ず取らせてやる。




