第407話 神剣グランディアとの会話
淡い光を放っていた、精神だけ神界に飛ばされたらしい。
その中央に置かれているのは、神剣グランディア。
そして俺の目の前には、神様であるヘリオスがいる。
「では、神剣グランディアとの接続を試みよう」
ヘリオスがそう言うと、神剣の光が少し強くなった。
俺は剣を見つめた。
「…………」
剣は何も言わない。
「…………」
やっぱり何も言わない。
「…………」
沈黙が続く。
おい。
まさかとは思うが、こいつ、本当に喋らないんじゃないだろうな?
「ヘリオス。これ、どうやって会話するんだ?」
「私にも分からん。そもそも、神剣が人間と直接会話できるとは知らなかったのだからな」
「神様なのに?」
「その話はもうよい」
ヘリオスは少し不機嫌そうに答えた。
俺だって、神様が管理している剣の秘密を、神様自身が知らなかったという事実を、まだ受け入れられていない。
しかし、いくら待っても剣から返事はなかった。
「……帰るか」
「待て。まだ何も試していないぞ」
「いや、だって喋らないじゃないか。俺は忙しいんだ」
そう言って、俺は神剣に背を向けた。
その瞬間。
ふと、頭の中にある人物の顔が浮かんだ。
ラミだ。
あいつなら、こういうときどうするだろうか。
間違いなく、何も考えずに大声を上げる。
そして、相手の反応を見て楽しむに違いない。
……いや、待てよ。
もしかすると、それが正解なのか?
俺はゆっくりと神剣に振り返った。
そして、腹の底から声を張り上げた。
「おい、起きろぉぉぉぉっ!」
『ひゃ~~~んっ!』
女性の声だった。
しかも、ただの返事ではない。
驚きと恐怖が混ざったような、見事な叫び声だった。
「うおっ!?」
俺も思わず驚いて、一歩後ずさった。
喋った。
いや、喋ったというより、叫んだ。
神剣グランディアが、女性の声で叫び声を上げたのだ。
「……おいおい、本当に喋るのかよ」
「リオン?」
背後からヘリオスの声がした。
「どうした?」
俺は振り返った。
「聞こえなかったのか?」
「何がだ?」
ヘリオスは心底わけが分からないといった顔をしていた。
俺は神剣を見た。
そして、もう一度ヘリオスを見た。
……まさか。
「異世界特典!!」
思わず小声で呟いてしまった。
俺は異世界から来たわけではないが、前世の記憶を持っている人間として、こういう理不尽な現象には妙な心当たりがある。
俺にだけ聞こえる声。
神様ですら知らない秘密。
そして、なぜか俺が大声を上げたら反応した神剣。
これはもう、そういうことなのではないだろうか。
「おい、リオン。さっきから何を言っている?」
「悪い、今は忙しい」
「私との話はまだ終わっていないぞ!」
ヘリオスの抗議を無視し、俺は神剣グランディアへと向き直った。
そして、できるだけ穏やかな声で話しかけた。
「……叫び声が聞こえたぞ」
『…………』
剣は沈黙した。
「おい、聞こえているんだろ?」
『…………』
「さっき、確かに叫んだよな?」
『…………』
返事はない。
だが、先ほどの叫び声は間違いなく聞こえた。
俺は腕を組み、剣をじっと見つめた。
「別に怒っているわけじゃない。話がしたいだけだ」
『…………』
「少女のことを知っているんだろう?」
その言葉を口にした瞬間。
祭壇の光が、わずかに揺らいだ。
俺は目を細める。
「……反応したな」
剣から返事はない。
しかし、何かが変わった。
先ほどまでの沈黙とは違う。
まるで、こちらの言葉を聞いて、どう返事をするべきか迷っているような気配があった。
俺はゆっくりと息を吐いた。
「大丈夫だ。無理に話せとは言わない。ただ、あの少女を助けるために、お前の知っていることを教えてほしい」
『…………』
「それとも、俺がもう一度叫んだほうがいいか?」
『ひゃっ!?』
今度は小さな悲鳴が返ってきた。
俺は思わず口元を緩めた。
「やっぱり聞こえているじゃないか」
「リオン! 誰と話しているのだ!?」
ヘリオスが叫んだ。
俺は振り返らずに答えた。
「神剣グランディアだ」
「だから、剣は何も喋っていないだろう!」
「いや、喋っている。俺には聞こえる」
「…………」
今度はヘリオスが沈黙した。
神様が、自分の管理する神剣と会話できない。
その一方で、俺には剣の声が聞こえる。
この状況をどう説明すればいいのか、俺にも分からない。
ただ一つだけ、はっきりしていることがある。
この剣には、まだ俺たちが知らない秘密がある。
そして、その秘密は、マサラ王国で見つかった少女と深く関係している可能性が高い。
俺はもう一度、神剣に向き直った。
「さて、グランディア。今度こそ、ゆっくり話をしようか」
『…………』
「逃げても無駄だからな」
『ひゃ~~~んっ!』
「おい、だから叫ぶなって!」
教会に、俺の声が響き渡った。
その横で、神様ヘリオスは完全に置いてけぼりになっていた。




