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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第402話 邪神調査とイザベラの罰


 ガルリオン共和国に帰還してから、三ヶ月が経過した。


 リオンは城に戻るなり、邪神ヴァルガディアについて調査を始めた。


 フィーナに古い宗教書を調べさせ、ゼルファには魔法道具の記録を洗わせた。暗部部隊も各地に散り、古い神殿や遺跡、過去の事件に関する情報を集めていた。


 しかし、成果はほとんどなかった。


「……何も出てこないな」


 執務室の机に積み上がった報告書を眺め、リオンは深いため息をついた。


「邪神ヴァルガディアという名前自体が、ほとんど記録に残っていません。意図的に消された可能性もあります」


 報告に来ていたフィーナが答えた。


「存在そのものが隠されているのか、それとも名前が違うのか……」


「どちらも考えられます。ですが、今の段階では断定できません」


「分かった。引き続き調べてくれ」


「承知しました」


 結局、三ヶ月が過ぎても邪神についての確かな情報は得られなかった。


 それでも、時間を無駄にするわけにはいかない。


 イザベラの処刑の日が来たのだ。


 処刑は、ガルリオン共和国の法に従って執行された。


 イザベラは最後まで、自分が間違っていたとは認めなかった。


「エドワードが生きていれば……こんなことにはならなかった!」


 彼女はそう叫び、最後までリオンを睨みつけていた。


 リオンは何も答えなかった。


 彼女の行いは許されるものではない。多くの人間を苦しめ、邪神に関わる事件に手を貸し、取り返しのつかない結果を招いた。


 それでも、彼女はかつて自分の家族だった人間だ。


 その事実だけは、どれほど憎んでも消えなかった。


 処刑が終わると、リオンはイザベラの遺体を火葬するよう命じた。


 そして、その日のうちに別の命令も出した。


「首の模型を作れ」


「……模型、ですか?」


 命令を受けた部下が、聞き返した。


「ああ。イザベラの首を模したものだ。城の前に飾っておけ」


「承知しました」


 数日後、城の正門前にイザベラの首を模した模型が設置された。


 実物ではない。あくまで模型だ。


 しかし、誰が見ても処刑された人物が誰なのか分かるように作られていた。


 それは、権力を振りかざし、人々から財産を奪い、罪を犯した者への警告だった。


 城の前を通る人々は、足を止めて模型を見上げた。


 ある者は恐れ、ある者は憎しみを込めた目を向け、またある者は無言で通り過ぎていった。


 リオンは執務室の窓から、それを眺めていた。


「……これで終わりか」


 口にした言葉は、自分でも驚くほど空虚だった。


 イザベラは死んだ。


 もう二度と、自分の前に現れることはない。


 それなのに、胸の中には怒りだけでは説明できない感情が残っていた。


 憎しみ。後悔。安堵。そして、かつて家族だった人間を自分の手で裁いたことへの、割り切れない思い。


 リオンは目を閉じ、しばらく黙っていた。


 だが、いつまでも過去に引きずられているわけにはいかない。


「……切り替えるか」


 リオンは椅子から立ち上がり、机の上に置かれた次の資料を手に取った。


 邪神ヴァルガディア。


 今度の相手は、個人の憎しみだけで片付けられる存在ではない。


 数日後、城の会議室には日本側の調査チームが集まっていた。


 リオンのほか、ガルヴァン、フィーナ、ゼオン、ゼルファ、精霊の女王も同席している。


 会議の議題は、邪神ヴァルガディアへの対策だった。


「まず、現状を整理しよう」


 リオンが資料を広げた。


「マサラ王国の住民が消えた事件。地下の巨大な礼拝堂。龍脈に干渉する魔法陣。そして、シスターの口から現れた黒い煙。どれもヴァルガディアに関係している可能性が高い」


「ですが、肝心の邪神については、いまだに情報がありません」


 フィーナが補足する。


「相手の目的も、居場所も、どの程度の力を持っているのかも分からない。これでは、こちらから攻めるのは難しいですね」


 日本側の担当者が腕を組んだ。


「正体が分からない相手を探し回るだけでは、後手に回る可能性があります。まずは、こちらの被害を防ぐ手段を考えた方がいいかもしれません」


「具体的には?」


 ガルヴァンが尋ねる。


 担当者は少し考えてから、口を開いた。


「結界とかどうですか?」


「……結界?」


 リオンが聞き返した。


「はい。魔法による防御が可能なら、国全体を覆うような結界を設置できないでしょうか。外部からの侵入や、精神に干渉するような術への対策になるかもしれません」


「なるほどな」


 リオンは腕を組んだ。


 確かに、ヴァルガディアの手下が再び国内に入り込み、住民を操ったり、何らかの儀式を行ったりする可能性はある。


 何も分からない以上、まずは守りを固めるのも一つの手だ。


「ゼオン。できそうか?」


「うーん……国全体を囲うとなると、僕だけじゃ難しいと思う。でも、精霊の女王様とゼルファさんが一緒なら、できるかもしれない」


 ゼオンは隣に座る精霊の女王を見上げた。


「そうですね。精霊たちの力を借りれば、広範囲を覆う結界を構築することは可能でしょう。ただし、長期間維持するには仕組みを工夫する必要があります」


 精霊の女王は落ち着いた口調で答えた。


 ゼルファも資料を受け取り、魔法陣の図面を眺めた。


「魔力を供給し続けるだけでは効率が悪い。土地に流れる魔力を利用して、結界そのものが維持される仕組みにすればいい。精霊の力を中継に使えば、負担も減らせるはずだ」


「できるんだな?」


「まだ設計してみないと分からん。だが、やってみる価値はある」


 ゼルファは図面を机に置いた。


「ただし、国全体を覆うとなると、相当な規模になるぞ。設置場所の選定も必要だし、結界の内側にいる人間や魔物を誤って弾かないように調整しなければならない」


「そこは任せる。必要な人員や資材があれば、すぐに用意する」


 リオンは即座に答えた。


「ゼオン、精霊の女王。ゼルファと協力して、ガルリオン共和国を囲う巨大な結界を作ってくれ。目的は防御だ。国内の住民が普通に生活できることを最優先にしてくれ」


「分かった、父さん!」


「承知しました」


「よし。設計から始めるぞ」


 ゼルファは、すでに頭の中で構想を組み立て始めているようだった。


「では、フィーナには別の仕事を頼みたい」


 リオンが話を切り替えた。


「ガルリオン共和国の宗教を調べてくれ」


「国内の宗教、ですか?」


「ああ。うちには一つの宗教だけじゃなく、いろいろな宗教があるだろう。古い信仰もあれば、地方だけで信じられているものもある。ヴァルガディアについての記録が見つからないなら、宗教そのものを調べる必要がある」


 フィーナは納得したように頷いた。


「確かに、古い宗教の中には、公式な記録に残っていない伝承もあります。神々の名前が変わって伝わっていたり、禁忌とされて記録から消されていたりする可能性もありますね」


「特に、邪神や禁忌の神を祀っていた形跡がないかを調べてほしい。今は普通に見える宗教でも、過去に何があったかは分からないからな」


「承知しました。各地の神殿や教会に協力を求め、古い文献や伝承を集めます」


「頼んだ」


 会議室の空気が、少しずつ引き締まっていく。


 結界の構築。宗教の調査。日本側による情報分析。そして、暗部部隊による各地の監視。


 できることは限られている。


 相手の姿も、目的も、まだ見えていない。


 だが、何も分からないからといって、何もしないわけにはいかなかった。


 リオンは窓の外に目を向けた。


 城の前には、イザベラの首の模型が今も飾られている。


 過去の清算は終わったわけではない。


 それでも、前に進むしかなかった。


「ヴァルガディア……」


 リオンは、誰にも聞こえないほど小さな声で、その名を呟いた。


「次は、好きにはさせない」


 ガルリオン共和国を覆う巨大な結界の計画が、動き始めた。




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