閑話 作者からの感謝の言葉(Part2かな?)
ガルリオン共和国、王城。
リオンは執務室で、見慣れない一枚の紙を手にしていた。
紙の一番上には、大きな文字でこう書かれている。
『作者からの感謝の言葉』
「…………何だ、これは?」
リオンは紙を裏返した。
何もない。
もう一度、表に戻す。
やはり、書いてあるのは『作者からの感謝の言葉』だった。
「父上、何をしているのですか?」
部屋に入ってきたゼオンが、不思議そうに尋ねた。
「俺にも分からん。だが、どうやら読めということらしい」
「誰からですか?」
「作者」
「……作者?」
ゼオンは首を傾げた。
リオンも首を傾げたい気分だったが、紙にはご丁寧に『リオン朗読』と書き添えられている。
「仕方ない。読むぞ」
「えっ、読むのですか?」
「そう書いてあるからな」
リオンは一度咳払いをすると、紙に目を落とした。
「読者の皆様へ」
リオンは、やや事務的な声で読み始めた。
「いつも本作を読んでくださり、本当にありがとうございます」
「…………」
ゼオンは黙って聞いていた。
「気がつけば、この物語も四百話に到達しました。ここまで長く続けてこられたのは、読んでくださる皆様のおかげです。心より感謝申し上げます」
リオンは一度、紙から顔を上げた。
「四百話か。ずいぶん長くなったものだな」
「四百話……。父上、そんなに冒険をしていたのですか?」
「俺が聞きたいくらいだ」
「?」
リオンは再び紙に目を落とした。
「そして、作者から皆様に謝罪があります」
「謝罪?」
ゼオンが不安そうに尋ねた。
「何か悪いことでもしたのでしょうか?」
「さあな。続きを読めば分かるだろう」
リオンは読み進めた。
「最近、作者はある重大な事実に気づきました」
リオンはそこで一拍置いた。
「……重大な事実?」
紙には、その先も書かれている。
「書き慣れてきたせいか、最近の一話あたりの文字数が、以前の倍ほどになっていたのです」
「…………」
リオンの声が止まった。
ゼオンがそっと顔を上げる。
「父上?」
「いや……作者も、ようやく気づいたらしい」
「何にですか?」
「自分の書く文章が、長くなっていたことにだ」
「それは……気づかなかったのですか?」
「らしいな」
リオンは、どこか遠い目をした。
そして、紙に書かれた続きを読み上げる。
「読者の皆様には、以前よりも読む量が増えてしまい、申し訳ありません。作者自身、最近になってようやく気づいたため、今さらの謝罪となってしまいました。本当にすみません」
リオンは紙を少し下げた。
「なるほど。書き慣れると、そういうこともあるのか」
「父上も長い報告書を読むとき、途中で嫌になったりしますか?」
「お前は今、作者の謝罪を聞いているのだぞ」
「す、すみません……」
ゼオンは慌てて口を閉じた。
リオンは小さく息を吐き、再び朗読を続けた。
「それでも、ここまで物語を続けてこられたのは、読んでくださる皆様がいてくださったからです。途中から読み始めてくださった方も、最初から追いかけてくださっている方も、たまたまこの作品を見つけてくださった方も、すべての皆様に感謝しています」
その言葉を読むリオンの声は、先ほどよりも少し柔らかくなっていた。
「四百話という節目を迎えられたことを、作者はとても嬉しく思っています。皆様、本当にありがとうございます」
リオンは紙を見つめた。
そこには、まだ文章が続いている。
「なお、今回の四百話記念の感謝祭は、作者の思いつきによる突発的なものです」
「突発的……?」
ゼオンが小さく呟いた。
「つまり、何も準備していなかったということか?」
「そういうことらしい」
「父上、そんなことで感謝祭を開いてもいいのでしょうか?」
「俺に聞くな」
リオンは淡々と読み進めた。
「しかも、次回も閑話となります。物語の続きを楽しみにしてくださっている皆様には、重ねてお詫び申し上げます。すみません」
リオンはそこで一度、紙を持つ手を止めた。
「……おい、作者」
当然、返事はない。
「感謝を伝えるのはいい。だが、次も閑話なのか?」
返事はない。
「せめて、次回の内容くらい教えてくれてもいいだろう」
やはり返事はない。
ゼオンは父親の様子を見て、困ったように笑った。
「父上……紙に話しかけても、作者には聞こえないと思います」
「分かっている。少し言いたくなっただけだ」
「そうですか……」
リオンは気を取り直し、最後の文章を読み上げた。
「これからも、皆様に楽しんでいただける物語を書いていきたいと思っています。更新を追いかけてくださる皆様、感想を寄せてくださる皆様、そして、静かに読んでくださっている皆様。本当にありがとうございます」
リオンはゆっくりと、最後の一文を読んだ。
「これからも、どうぞよろしくお願いいたします。作者より、心からの感謝を込めて」
朗読が終わった。
しばらく、執務室には沈黙が流れた。
ゼオンは父親を見つめていた。
「…………」
「…………」
「父上」
「何だ?」
「今のは……何だったのでしょうか?」
「作者から読者への感謝の言葉だそうだ」
「それは分かりました。でも、どうして父上が読んだのでしょう?」
「俺にも分からん」
「……そうですか」
ゼオンは困惑した顔で頷いた。
王国の外交問題でも、古き邪神の調査でも、父親はいつも落ち着いて対応している。
ところが、今回ばかりは何をどう考えればいいのか分からないらしい。
リオンは紙を丁寧に畳んだ。
「まあ、いいじゃないか」
「いいのでしょうか?」
「感謝を伝えること自体は、悪いことじゃない」
「それは……そうですね」
ゼオンは少し考えたあと、笑顔を浮かべた。
「では、僕からも読者の皆様にお礼を言います。いつも読んでくださって、ありがとうございます!」
「そうだな。俺からも礼を言っておこう」
リオンは真面目な顔で頷いた。
「皆様、四百話までお付き合いいただき、ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いします」
そして、畳んだ紙を机に置いた。
「さて、仕事に戻るか」
「はい!」
ゼオンは元気よく返事をした。
だが、部屋を出る直前、ふと立ち止まった。
「父上」
「今度は何だ?」
「次回も閑話だそうですが……僕たちは、また何かを読まされるのでしょうか?」
リオンはしばらく考えた。
「……知らん。作者に聞いてくれ」
「そんなぁ……」
ゼオンの困惑した声が、王城の廊下に響いた。
こうして、四百話記念の感謝祭は、何とも締まらない形で幕を閉じた。
作者から読者の皆様へ。
四百話まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
そして、突発的な感謝祭にお付き合いいただき、重ねて感謝いたします。
次回も閑話です。
……すみません。
それでも、読んでくださる皆様に、心からの感謝を。
ありがとうございます!




