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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第394話 邪神の洗礼

 森の教会。


 リオンたちは入口の見張りを制圧すると、教会内部へ踏み込んだ。


 暗部部隊が左右に分かれ、残っていた兵士たちを次々と拘束していく。


「抵抗するな! 武器を捨てろ!」


「な、何者だ、お前たちは!」


「質問はあとだ。大人しくしろ!」


 ガルヴァンの怒鳴り声が、古びた教会に響いた。


 兵士たちは突然の襲撃に混乱し、まともな抵抗もできないまま捕らえられていった。


 リオンは周囲を見回す。


「地下への入口はどこだ?」


「こちらです!」


 暗部の隊員が、祭壇の裏にある扉を指さした。


 扉の隙間から、かすかに人の声が聞こえる。


 リオンは表情を引き締めた。


「少女がいるかもしれない。俺が先に行く」


「おい、待て。罠だったらどうする?」


 ガルヴァンが呼び止める。


「その時は、その時だ」


「お前なあ……。少しは俺たちを頼れ」


「頼ってるから、一緒に来てもらうんだろ」


「そういう意味じゃねえ!」


 ガルヴァンは文句を言いながらも、リオンの後に続いた。


 石造りの階段を下りていくと、空気が変わった。


 地下は妙に暖かく、鼻につく香の匂いが漂っている。


 壁には見慣れない紋様が刻まれ、床には黒い石で描かれた大きな魔法陣があった。


「これは……」


 フィーナが足を止めた。


「間違いありません。ヴァルガディアに関係する紋様です」


「本当に復活させるつもりなのか?」


「まだ分かりません。ただ、普通の礼拝堂ではありません」


 リオンは銃を構え直し、奥へ進んだ。


 やがて、広い地下礼拝堂に出た。


 中央には祭壇があり、その前に一人の少女が立っていた。


 先ほど連れ去られた農民の少女だった。


 その傍らには、イザベラがいた。


 そして、イザベラの隣にはシスター服を着た女が立っていた。


 女は両手を胸の前で組み、リオンたちを見つめている。


 その口元には、妙に薄気味悪い笑みが浮かんでいた。


「あらあら……。招かれざるお客様ですわね」


 シスターが楽しそうに言った。


 イザベラはリオンの顔を見た瞬間、目を見開いた。


「リ、リオン……!」


「久しぶりだな、イザベラ」


 リオンは銃口を向けたまま、冷たい声で言った。


「ずいぶんと好き勝手やっているらしいじゃないか」


「な、何を言っているのです! ここは神聖な場所です。無断で立ち入るなど、許されることではありません!」


「神聖な場所?」


 リオンは床の魔法陣を見た。


「少女を連れ去って、こんな場所に閉じ込めておいてか?」


 イザベラの顔が引きつった。


「この子は、選ばれたのです!」


「何に選ばれたんだ?」


「それは……」


「答えられないのか」


 リオンは一歩前に出た。


「イザベラ。お前には聞きたいことが山ほどある。グスタフのことも、領民に重税を課していることもな。大人しく捕まれ」


 ガルヴァンが剣を抜く。


「シスター姿のお前もだ。妙な真似をすれば、容赦しねえぞ」


 暗部部隊が左右から二人を取り囲んだ。


 フィーナも警戒しながら、祭壇と魔法陣を観察していた。


 イザベラは唇を震わせた。


「どうして……どうして、あなたがここにいるのよ!」


「質問に答えるのは、お前のほうだ」


 リオンが告げる。


「連行する」


 暗部の隊員が踏み出した、その瞬間だった。


 シスターが、くすくすと笑った。


「ふふ……あはははは!」


 その笑い声が地下礼拝堂に響く。


「まさか、こんなところまで邪魔をしに来るとは。イザベラ様も、ずいぶんと運が悪いですわね」


「何をする気だ?」


 リオンが銃口を向け直す。


 シスターは答えず、両手をゆっくりと広げた。


「それでは皆様……ヴァルガディア様の祝福を、お受けください」


 次の瞬間、床の魔法陣が不気味な光を放った。


「全員、下がれ!」


 リオンが叫んだ。


 だが、間に合わなかった。


 魔法陣から黒い霧のようなものが立ち上り、礼拝堂全体へ広がっていく。


「うっ……!」


 フィーナが胸元を押さえ、その場に膝をついた。


「この魔力……! 普通の魔法じゃありません!」


「フィーナ!」


 リオンが駆け寄ろうとした時、暗部の隊員たちが次々と苦しみ始めた。


「ぐあっ……頭が……!」


「体が、勝手に……!」


 ガルヴァンも剣を取り落とし、片膝をついた。


「くそっ……何をしやがった……!」


 歯を食いしばりながら立ち上がろうとするが、体が思うように動かない。


 シスターは、その様子を楽しそうに眺めていた。


「心配はいりませんわ。皆様の中にある感情を、少しばかり刺激しているだけですもの」


「感情を……?」


 リオンは意味を理解しかねた。


 その時、祭壇のそばにいた少女が震え始めた。


「いや……いやぁ……!」


 少女は頭を抱え、苦しそうに声を上げた。


 そして、ゆっくりと顔を上げる。


 その目には涙が浮かんでいた。


「……た、すけ……」


 少女はかすれた声を漏らした。


 次の瞬間、少女はリオンたちへ向かって走り出した。


「なっ……!」


 リオンはとっさに身構えた。


 少女は泣きながら、必死の形相でリオンに飛びかかってきた。


 リオンは少女を傷つけないように受け止めようとしたが、少女は力任せに暴れ続けた。


「やめろ! 君を助けに来たんだ!」


 しかし、少女にはリオンの声が届いていないようだった。


 同時に、暗部部隊の隊員たちも立ち上がった。


 彼らは苦しそうに顔を歪めながら、味方であるはずのリオンへ武器を向ける。


「おい、正気に戻れ!」


 ガルヴァンが叫ぶ。


 だが、次の瞬間にはガルヴァン自身も剣を拾い、リオンへ向かって踏み出していた。


「ガルヴァン!」


 リオンは驚きの声を上げた。


 ガルヴァンは歯を食いしばり、苦しそうに呻いていた。


「リオン……逃げ……ろ……!」


 それでも、彼の体は意思に逆らうように動いていく。


 フィーナもまた、顔を歪めながら立ち上がった。


「リオン様……近づかないで……!」


 彼女は必死に抵抗していたが、やがてリオンへ向かって手を伸ばした。


 リオンは銃を握ったまま、動けなくなった。


 目の前にいるのは、敵ではない。


 自分の仲間たちだ。


 そして、助けるために来た少女までが、涙を流しながら襲いかかってくる。


「くそっ……!」


 リオンは攻撃をかわしながら、仲間たちを傷つけないよう必死に距離を取った。


 その様子を、シスターは満足そうに眺めていた。


「素晴らしいでしょう? 人の心とは、なんと扱いやすいものなのでしょう」


 彼女は祭壇に手を置いた。


「恐怖、怒り、憎しみ……。それらを少し強くしてあげるだけで、人は大切な相手にさえ牙をむくのです」


 イザベラは震えながらも、シスターを見つめた。


「こ、これが……ヴァルガディア様の力……」


「ええ。まだほんの一端にすぎませんけれど」


 シスターはリオンへ視線を向けた。


「さあ、どうなさいますか、リオン様? 大切なお仲間を傷つけずに、私を捕まえられるのでしょうか?」


 リオンは答えなかった。


 ガルヴァンの剣が迫り、暗部の隊員たちが包囲を狭めてくる。


 フィーナも少女も、苦しみながらリオンへ向かっていた。


 リオンは銃を握りしめ、シスターを睨みつけた。


「……ふざけやがって」


 その声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。


「仲間を操って、何が神の力だ」


 シスターの笑みが、わずかに深くなる。


「その怒りもまた、ヴァルガディア様への供物となるのですわ」


 リオンは歯を食いしばった。


 仲間を撃つことはできない。


 少女を傷つけることもできない。


 だが、このままでは全員がシスターの思いどおりになってしまう。


 リオンは、仲間たちを救う方法を必死に考え始めた。




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