第393話 森の教会
翌朝、リオンたちは農民の少女の捜索を再開した。
暗部部隊は領都周辺の街道を調べ、イザベラ配下の兵士たちの動きを追っていた。
リオンは宿の一室で、集まった報告を確認していた。
「少女を乗せた馬車は見つかったか?」
「馬車そのものは見つかっていません。ただ、イザベラ配下の兵士が領都の西にある森へ向かったことが分かりました」
暗部部隊の隊員が答えた。
「森?」
ガルヴァンが眉を上げる。
「その森には古い教会がある。何十年も前に使われなくなった場所だ。最近になって、イザベラの配下が何度も出入りしているらしい」
リオンの表情が変わった。
「古い教会か……」
フィーナが不安そうに口を開いた。
「もしかすると、ヴァルガディアの信仰と関係しているのかもしれません」
「可能性は高いな」
リオンは立ち上がった。
「場所を案内しろ。現地で確認する」
ガルヴァンは腰の装備を確かめながら、口元を歪めた。
「ここ数日、調べるだけで我慢してたんだ。お前がいつ飛び出すか、賭けでも始めようかと思ってたぜ」
「勝手に賭けるな」
「俺が勝つに決まってるからな」
「……お前、少し黙ってろ」
そんなやり取りをしながらも、リオンたちはすぐに出発した。
今回は目立たないように少人数で森へ向かい、暗部部隊が周囲を警戒することになった。
森に入ってしばらく進むと、木々の間に古びた建物が見えてきた。
石造りの教会だった。
屋根の一部は崩れ、壁には蔦が絡みついている。遠目には、長い間放置された廃墟にしか見えなかった。
しかし、リオンは入口付近に新しい馬車の轍があることに気づいた。
「使われてるな」
「しかも、つい最近だ」
ガルヴァンが地面を見ながら言った。
暗部の隊員が戻ってくる。
「確認できた範囲では、入口に見張りが二人。裏手にも人影があります。内部の様子は分かりません」
「中に何人いるか分からないまま突っ込むのは危険だな」
リオンは日本側から持ち込んだ機材を取り出した。
サーモセンサーだった。
建物の外から内部の熱源を調べ、人のいる場所とおおよその人数を確認するためのものだ。
リオンは機材を操作し、教会の壁越しに内部を確認していく。
しばらくして、画面に複数の熱源が映し出された。
「……いた」
リオンが呟く。
「何人だ?」
ガルヴァンが横から画面を覗き込んだ。
「入口付近に二人。奥の部屋に三人。地下へ続いているらしい場所にも、熱源がある」
「地下だと?」
フィーナの顔が曇った。
「古い教会には、礼拝のための地下室が設けられていることがあります。もし邪神の儀式に使っているのなら……」
「少女がそこにいる可能性もある、か」
リオンは画面を見つめた。
熱源の数を慎重に確認する。
建物内部にいるのは、少なくとも十人ほど。さらに、地下に複数の人影が確認できた。
ただし、壁の厚さや建物の構造によって、正確な人数までは断定できない。
「全員が敵とは限らない。だが、少女が捕まっている可能性がある以上、時間はかけられないな」
ガルヴァンが頷く。
「どうする? 外から様子を見るか、それとも踏み込むか」
リオンは教会を見つめた。
あの中に、連れ去られた少女がいるかもしれない。
イザベラが信仰しているという邪神ヴァルガディア。その手掛かりも、あの教会にある可能性が高かった。
「突入する」
リオンは即座に決断した。
「少女の安全を最優先にする。相手が武器を持っていても、必要以上に傷つけるな。抵抗する者は制圧しろ」
「了解だ」
ガルヴァンが短く答えた。
「暗部は裏口を押さえろ。逃げ道を塞ぐ。ただし、地下へ向かう連中がいたら、そちらを優先して追え」
リオンはフィーナへ視線を向けた。
「フィーナ、お前は俺たちと一緒に来い。邪神に関係するものを見つけたら、勝手に触るなよ」
「分かっています。リオン様こそ、妙なものを見つけても不用意に近づかないでください」
「善処する」
「そこは約束してください!」
「……分かった、約束する」
フィーナは納得していない様子だったが、今は言い争っている場合ではなかった。
ガルヴァンが小さく笑う。
「さて、行くか。せっかく隠れて調べてやったんだ。中にいる連中には、少し驚いてもらおうぜ」
「余計なことはするなよ」
「分かってるって」
リオンは最後にもう一度、サーモセンサーの画面を確認した。
教会の内部には、まだ複数の熱源が動いている。
少女がそこにいるのか。
イザベラは何を企んでいるのか。
そして、古い邪神ヴァルガディアは本当に関係しているのか。
その答えを確かめるため、リオンたちは森の教会へ踏み込んでいった。




