閑話 精霊のひとりごと
最近、僕たち精霊は忙しい。
とにかく忙しい。
朝から晩まで、あちこちを飛び回っている。
「この場所を調べて」
ゼオン様に頼まれれば、すぐに飛んでいく。
「この魔力の流れを見てきて」
精霊の女王様に言われれば、もちろん飛んでいく。
「誰か怪しい人を見なかった?」
またゼオン様だ。
「地下に何かないか探して」
女王様だ。
『分かりました!』
『任せてください!』
僕たちは笑顔で返事をする。
正直に言えば、かなり疲れる。
でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ嬉しい。
僕たちを頼ってくれる。
それだけで、胸がいっぱいになる。
『ゼオン様に頼られた!』
『女王様から直接お願いされた!』
『さっき私、ゼオン様に名前を呼ばれた!』
精霊たちの間では、そんな話で盛り上がる。
僕も同じだ。
ゼオン様に名前を呼ばれると、それだけで嬉しくなる。
何か特別なことをしたわけじゃない。
ただ、ちょっとした報告をしただけ。
それでも、「ありがとう」と言ってもらえる。
それが嬉しい。
だから、もっと頑張ろうと思う。
女王様も、最近は僕たちにいろいろ頼む。
昔なら、こんなに頻繁に精霊を使うことはなかった。
でも今は違う。
ゼオン様が困っていれば、女王様も動く。
ゼオン様が調べたいと言えば、僕たちも動く。
そして僕たちは、それを楽しんでいる。
『今日も忙しいね』
『うん。でもゼオン様の役に立てるならいいよ』
『女王様にも頼られてるしね』
そんな会話をしながら、僕たちは飛び回る。
きっと僕たちは、少し変なのだと思う。
普通なら、『もう少し休ませて』と言ってもいいはずなのに。
僕たちは、『次は何をすればいいですか?』と聞いてしまう。
頼られるのが嬉しいからだ。
必要としてもらえるのが嬉しいからだ。
でも。
ひとつだけ。
どうしても慣れないことがある。
ゼオン様が泣くことだ。
あの姿を見ると、胸が苦しくなる。
ゼオン様は普段、強い。
僕たちよりずっと大きな力を持っている。
精霊たちから見ても、ゼオン様は特別な存在だ。
だからこそ。
ゼオン様が泣いていると、どうしていいのか分からなくなる。
以前、ゼオン様が悲しそうに俯いていたことがあった。
僕は遠くから見ていた。
声を掛けようと思った。
でも、何も言えなかった。
僕にできることなんて、ほとんどない。
だから、そっと近くにいた。
何も言わずに。
ただ、そばにいた。
するとゼオン様が顔を上げた。
「……みんな、いるの?」
『はい』
『いるよ』
『ここにいます』
僕たちが返事をすると、ゼオン様は少しだけ笑った。
その笑顔を見た瞬間。
胸の苦しさが、ほんの少しだけ消えた。
だから僕は思う。
もっと頼ってほしい。
もっと僕たちを使ってほしい。
どんなに忙しくてもいい。
どんなに遠くへ飛ばされてもいい。
ゼオン様が笑ってくれるなら。
女王様が安心してくれるなら。
僕たちは何度だって飛んでいく。
ただし。
ゼオン様。
泣くのだけは、できればやめてほしい。
僕たちは、あなたの涙を見るのが一番つらいから。
……まあ。
泣いてしまったときは。
そのときは、そのときだ。
僕たちはきっと、また集まる。
何百、何千という精霊が集まって。
何もできなくても、そばにいる。
だって僕たちは。
ゼオン様に頼られることが、大好きなのだから。




