第390話 神の剣と神
少女が目を覚ました翌日。
リオンの執務室では、フィーナが一本の剣を前にして頭を抱えていた。
「……どうしましょう」
「何が?」
リオンが書類から顔を上げる。
「この剣です」
机の上には、少女の身体から取り出された剣が置かれていた。
精霊たちによって取り出された、神の剣。
フィーナは慎重に柄へ手を伸ばし、すぐに離した。
「私には扱えません」
「持てないのか?」
「持つこと自体はできます。でも、どう扱えばいいのか分かりません」
フィーナは困った顔をする。
「教会の伝承では、神の剣は神から授けられた特別な剣とされています。でも、こんなものを私が勝手に使っていいのか……」
「俺に言われてもな」
リオンは剣を見る。
「そもそも、なんで少女の身体の中に入ってたんだ?」
「それが分からないから困っているんです」
「……だよな」
二人で剣を見る。
沈黙が続く。
「神に聞くか」
「え?」
フィーナが顔を上げた。
「教会に行けば、神と話せる可能性があるんだろ?」
「それは……そうですが」
「じゃあ聞いてみよう」
リオンは立ち上がった。
「剣の持ち主に返せばいい」
「神様に?」
「ああ」
こうしてリオンは教会へ向かった。
教会の奥。
静かな場所でリオンは目を閉じた。
「……神様」
しばらくして、意識が遠のいていく。
気がつくと、そこは白い空間だった。
「よう、リオン」
目の前に神が現れる。
「久しぶりだな」
「久しぶり」
リオンは早速、手にしていた剣を差し出した。
「これ、返す」
「……」
神は剣を見た。
そして目を見開く。
「なぜ……? この剣、グランディアが……」
「グランディア?」
「そうだ。この剣の名だ」
神は驚いたように剣を受け取る。
「神剣グランディア。私が長い年月をかけて作り、神界で管理していたはずなのだが……」
「その剣が、人間の女の子の身体の中に入ってた」
「……何?」
神の表情が固まった。
「しかも、その子はマサラ王国の事件に関係してる可能性がある」
「……」
神は剣を見つめる。
「これは……おかしい」
「だろ?」
リオンは腕を組む。
「だから返す」
「しかし、なぜグランディアが地上へ……」
「それを俺が聞きたい」
神が困ったように頭を掻く。
「うーむ……」
リオンはため息をついた。
「神様」
「なんだ?」
「管理体制を何とかしろ」
「……」
「迷惑だ」
「……」
神はしばらく黙った。
そして、苦笑する。
「まさか、神が人間に管理体制を説教されるとはな」
「こっちは少女の身体から剣を取り出す羽目になったんだぞ」
「それは……すまなかった」
「次から気をつけてくれ」
「ああ」
神は苦笑しながら頷いた。
「しかし、グランディアが地上に落ちた理由は私にも分からない。そこは調べよう」
「頼む」
リオンは神から剣を手放した。
「じゃあ、俺は戻る」
「ああ、リオン」
「ん?」
「その少女のことも、こちらで調べてみよう」
「助かる」
リオンの意識が、ゆっくりと現実へ戻っていく。
教会の中。
リオンは目を開けた。
「……戻ってきたか」
そして、フィーナを見る。
「剣は?」
「神に返した」
「……」
フィーナはしばらく呆然としていた。
「神剣グランディアは?」
「神のところ」
「神様と……話したんですか?」
「ああ」
「何を話したんです?」
リオンは少し考えた。
「管理体制を何とかしろって」
「……」
フィーナは頭を抱えた。
「リオンさん……」
「何だ?」
「神様に説教したんですか?」
「説教じゃない。注意だ」
フィーナは深いため息をついた。
こうして、神剣グランディアは神のもとへ戻った。
だが、なぜ神の剣が少女の身体に入り込んでいたのか。
そして、誰がそれを地上へ持ち出したのか。
謎はまだ残っていた。




