閑話 リゼの一人ごと
ガルリオン共和国の王城。
リゼは窓から外を眺めていた。
「……遅い」
ぽつりと呟く。
リオンとゼオンがマサラ王国へ調査に向かってから、しばらく経っていた。
二人とも大丈夫だとは思っている。
リオンは無茶をすることがあるが、最近はガルヴァンや周囲の者たちが止めてくれる。
ゼオンも強い。
精霊の王になってからは、以前とは比べものにならないほど魔力も増えた。
それでも。
「心配なものは心配なのよ……」
リゼは窓から離れると、近くにいた精霊を見た。
「あなたたちもそう思うでしょう?」
精霊は何も言わず、ふわふわとリゼの周りを飛んでいる。
「……分かってるわよ。ゼオンは強くなったって」
リゼは椅子に座った。
「精霊の王なんだから、精霊たちから頼られるのも分かる」
少しだけ間を置く。
「でもね」
リゼは頬杖をついた。
「私からすれば、まだ子供なのよ」
精霊たちが集まってくる。
「小さい頃は、私の後ろをついてきて……何か怖いことがあると、すぐにリオンのところへ行って」
思い出して、少し笑う。
「それが今じゃ、危険な場所にも自分から行くようになって」
笑顔が少しずつ曇る。
「精霊の女王から頼まれたら、嫌とは言わない」
「……」
「リオンと一緒だから大丈夫って言われても、私は安心できないの」
精霊の一匹がリゼの肩に乗った。
「それにリオンもリオンよ」
「……」
「自分が行くならともかく、ゼオンまで連れていくんだから」
リゼはため息をついた。
「二人とも、もっと私を心配させないようにしてよ」
もちろん、そんなことを言っても二人には聞こえない。
分かっている。
リオンがゼオンを危険にさらしたいわけではない。
ゼオン自身も、自分ができることをしたいと思っている。
それでも、「ゼオンには……もう少し子供でいてほしい」
リゼは小さく呟いた。
「もっと遊んで、もっと甘えて、くだらないことでリオンと喧嘩して……」
少し考える。
「ラミと一緒になって悪さして、私に怒られて……」
そこまで言って、リゼは苦笑した。
「それはそれで大変だけど」
精霊たちがくすくすと笑うように揺れる。
「……何よ」
リゼは精霊たちを睨む。
「私だって、ゼオンが成長したことは嬉しいわよ」
それは本心だった。
ゼオンが多くの精霊たちに認められたこと。
困っている者を助けようとすること。
自分の力を誰かのために使おうとすること。
母親として、嬉しくないわけがない。
「でも……」
リゼは窓の外を見る。
「嬉しいのと、寂しいのは別なのよ」
遠くを見る目が、少しだけ母親らしい寂しさを帯びた。
「私の知らないところで、どんどん大きくなっていくんだもの」
精霊が一匹、リゼの頬に触れる。
「……そうね」
リゼは小さく笑った。
「私のワガママよね」
そして、もう一度窓の外を見る。
「だから……二人とも、早く帰ってきて」
声には出さず、心の中でもう一度願う。
ゼオン。
あなたが立派になっていくのは嬉しい。
でも……、「たまには、母さんに甘えてちょうだいね」
誰もいない部屋で、リゼは一人でそう呟いた。




