第379話 地下に残された塩
地下ドームの調査は、その後も続いていた。
日本側の研究員たちは、壁に刻まれた魔方陣を撮影し、文字や記号を一つずつ記録していく。
「この部分、同じ記号が何度も出てきますね」
「こっちの線は、魔力の流れを示しているのかもしれません」
研究員たちは資料を広げながら、少しずつ魔方陣の意味を読み解こうとしていた。
リオンもその様子を眺めていたが、すぐには答えが出そうになかった。
「これだけ複雑だと、時間がかかりそうだな」
「仕方ないですよ」
フィーナが答える。
「この魔方陣を作った人たちが何を考えていたのか分かりませんから」
ゼオンも魔方陣をじっと見ていた。
その時だった。
「……あれ?」
ゼオンが顔を上げる。
「どうした?」
リオンが振り向く。
「フィーナ」
「はい」
「ここだけじゃない」
ゼオンが少し離れた場所を指差した。
フィーナもそちらを見る。
「……本当ですね」
二人が歩いていく。
そこには、小さな白い山があった。
「何だ、これ?」
リオンも近づく。
白い粒が床に盛られている。
よく見ると、そこだけではなかった。
「こっちにもあります」
フィーナが別の場所を指差す。
さらに奥にも。
壁際にも。
部屋の隅にも。
地下ドームのあちこちに、同じような白いものが盛られていた。
「……塩?」
ゼオンが呟く。
フィーナが少しだけ指先で確認する。
「たぶん、塩です」
リオンは首を傾げた。
「塩をこんなところに?」
日本側の研究員たちも集まってくる。
「これ、塩ですよね?」
「成分を調べれば確実ですが、見た感じは食塩に近いですね」
リオンは周囲を見回した。
「何のために置いてあるんだ?」
「……盛り塩?」
日本側の研究員が言った。
「盛り塩?」
リオンとガルヴァンが同時に首を傾げる。
「日本では、厄除けとか、清める意味で塩を盛ることがあります」
「へえ……」
ガルヴァンが塩を見る。
「じゃあ、これは魔物避けか?」
「可能性はあります。ただ、この場所に大量にある理由は分かりません」
研究員が答える。
フィーナは魔方陣と塩を交互に見ていた。
「……もしかすると」
「何か分かった?」
リオンが聞く。
「まだ分かりません。でも、この魔方陣と塩は無関係ではない気がします」
ゼオンも頷いた。
「僕もそう思う」
「根拠は?」
「魔力の流れが、塩のある場所を避けてる」
「え?」
研究員たちが一斉に反応した。
「本当ですか?」
ゼオンが頷く。
「うん。薄いけど、魔力が線みたいに流れてる」
日本側の研究員が慌てて計測器を持ってくる。
「少し待ってください。確認します」
地下ドームに、再び緊張が走った。
ただの塩だと思っていたものが、魔方陣と関係している可能性が出てきた。
リオンは白い山を見つめる。
「……マサラの人たちは、ここで何をしてたんだ?」
誰も答えられなかった。
そして、その疑問はさらに大きくなっていった。




