第377話 地下のドーム
掘削を始めてから、しばらく経った。
「……止めろ」
リオンが声を上げる。
巨大な掘削機が停止し、地下に静寂が戻った。
「何か見えたのか?」
隣にいたゼオンが覗き込む。
「ああ。どうやら、ただの空洞じゃない」
掘削された穴の先。
土の壁の向こうに、人工物らしきものが見えていた。
兵士たちが慎重に周囲の土を取り除いていく。
すると、少しずつその全貌が見えてきた。
「……なんだ、これ」
誰かが呟いた。
そこにあったのは、巨大なドーム状の建物だった。
地下深くに、まるで丸ごと埋め込まれたように存在している。
外壁は金属とも石とも判断できない材質で覆われていた。
「建物……だよな?」
ガルヴァンが腕を組む。
「たぶんな」
リオンも慎重に答える。
「問題は、誰が何のためにこんな場所に作ったのかってことだ」
入り口らしき場所も見つかった。
ただし、そこまで直接降りる道はない。
「ロープを使う」
ガルヴァンが即座に判断した。
「俺たちが先に行く。安全を確認するまで、リオンとゼオンは上で待ってろ」
「分かった」
リオンは素直に頷いた。
ガルヴァンは兵士たちに指示を出し、太いロープを穴の上から垂らす。
「行くぞ」
「はい!」
ガルヴァンを先頭に、数人の兵士がロープを使って地下へ降りていく。
リオンとゼオンは、その様子を上から見守った。
「父さん……」
「どうした?」
「なんだか嫌な感じがする」
ゼオンが地下を見つめる。
「俺もだ」
リオンは短く答えた。
しばらくすると、下から通信が入った。
『こちらガルヴァン。内部に入った』
「どうだ?」
『今のところ異常なし。床も崩れる様子はない』
少し間があった。
『……ただ、かなり広いぞ。これ』
ガルヴァンの声に、わずかな驚きが混じっている。
「危険なものは?」
『今のところ見当たらない。兵士を分散させて確認してる』
さらに数分。
通信が途切れた。
リオンが無言で待っていると、再び声が聞こえた。
『リオン』
「なんだ?」
『安全は確認した。降りてこい』
「本当に大丈夫なんだな?」
『ああ。少なくとも、今すぐ襲ってくるようなものはない』
リオンはゼオンを見る。
「行くか」
「うん」
二人はロープの前まで歩いた。
リオンが先にロープを握る。
「ゼオン、俺の後ろから来い」
「分かった」
二人はゆっくりと地下へ降りていく。
やがて足が床についた。
「……」
リオンは言葉を失った。
地下のドーム内部は、想像していたよりも遥かに広かった。
壁沿いには見たことのない装置が並び、中央には巨大な空間が広がっている。
そして何より妙だった。
これだけの施設があるというのに、人の気配がまったくない。
「ガルヴァン」
「ああ」
少し離れた場所にいたガルヴァンが振り返る。
「ここ……本当に、マサラ王国の施設なのか?」
リオンの問いに、ガルヴァンは首を横に振った。
「分からん」
その時だった。
「父さん」
ゼオンが小さな声を出した。
「どうした?」
「これ……」
ゼオンが壁の一角を指差す。
そこには、他の場所とは違う奇妙な紋様が刻まれていた。
リオンが近づく。
「……何だ、これ」
ゼオンはじっと紋様を見つめた。
「魔力が残ってる」
その一言で、全員の表情が変わった。
誰もいない地下施設。
そして、まだ消えていない魔力。
マサラ王国の人々が消えた夜。
その夜に、この場所で何かが起きた。
そんな予感だけが、リオンの胸に残った。




