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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第373話 単独では行かせない


 マサラ王国の情報が判明した翌朝。


 リオンは、まだ人の少ない時間から執務室にいた。


 机の上には、マサラ王国周辺の地図と資料が広げられている。


 必要になりそうな道具をまとめ、装備を確認する。


「……よし」


 一通り確認を終えると、リオンは立ち上がった。


 そして、何でもないことのように言った。


「ちょっとマサラ王国まで行ってくる」


「待て」


 背後から即座に声が飛んできた。


 リオンが振り返る。


「……何だ?」


 そこには腕を組んだガルヴァンが立っていた。


「一人で行く気か?」


「そうだけど」


「駄目だ」


「即答かよ」


「当たり前だ」


 ガルヴァンは呆れたように息を吐いた。


「一つの国から住民が全員消えたんだぞ。しかも神から『神をも超える力』なんて話まで出てる」


「だから、現地を見たいんだよ」


「それは分かってる」


 ガルヴァンは机の資料を一冊手に取った。


「だが、そんな場所にお前一人で行かせられるか」


「俺なら!!」


「何かあったら?」


「……」


 リオンが黙る。


「お前一人で調査に行って、そこで何か起きたらどうする?」


 ガルヴァンは資料を机に戻した。


「誰が調査を続ける?」


「……」


「それに、お前がいなくなったら共和国の仕事も止まる」


「それは……まあ」


「まあ、じゃない」


 ガルヴァンが睨む。


「お前、最近ちょっと焦りすぎだぞ」


 リオンは何も言わなかった。


 自分でも分かっていた。


 フィーナから神の啓示を聞いてから、ずっと気になっている。


 土ドラゴンの件が終わったばかりなのに、今度は一つの国から人が消えた。


 原因も分からない。


 消えた人々がどこへ行ったのかも分からない。


 だったら、一刻も早く現地を見たかった。


「……でも、時間がないかもしれない」


 リオンが呟く。


「だからこそ、勝手に動くな」


「……」


「日本側とも相談する」


 ガルヴァンは地図を指差した。


「合同調査にするぞ」


「合同調査?」


「ああ」


「時間がかかるぞ」


「かけるんだよ」


 ガルヴァンは迷いなく答えた。


「急いで全員消えた国に突っ込んで、こっちまで人数を減らしたら意味がないだろ」


「……それはそうだけど」


「だったら準備する」


 リオンはしばらく黙っていた。


 やがて、大きく息を吐く。


「……分かった」


「最初からそう言え」


「お前、最近俺への扱いが雑じゃないか?」


「今に始まったことじゃないだろ」


「そうだけどさ」


 リオンは苦笑した。


 こうして、マサラ王国への調査準備が始まった。


 ガルリオン共和国からは、魔法研究者、精霊関係の専門家、護衛兵などを選出する。


 日本側からも調査員や技術者が参加することになった。


 さらに、マサラ王国周辺の地図や古い記録を集める。


 過去にマサラ王国と交易していた商人の記録も確認する。


 日本側では、追加の航空画像や過去の衛星画像の解析も進められた。


「……思ったより大掛かりになったな」


 数日後。


 リオンは机の上に積み上げられた資料を見て呟いた。


「最初からこれくらいやるべきだったんだよ」


 ガルヴァンが答える。


「……分かってるよ」


「本当に分かってるか?」


「分かってるって」


「昨日も同じこと言ってたぞ」


「……」


 リオンは何も言い返せなかった。


 準備には思った以上に時間がかかった。


 その間、リオンは何度も、


「もう行けるんじゃないか?」


「まだだ」


「そろそろいいだろ?」


「まだだ」


「じゃあ明日は?」


「明日も駄目だ」


 とガルヴァンに止められた。


「焦るな」


「分かってるって」


「その台詞、昨日も聞いたぞ」


「……俺、そんなに焦ってるか?」


「かなりな」


「そうか……」


 リオンは頭を掻いた。


 自覚している以上、何も言えない。


 そして、数日後。


 ようやく合同調査隊の準備が整った。


 ガルリオン共和国と日本。


 二つの国の人間が、それぞれの知識と技術を持ち寄り、マサラ王国へ向かう。


 出発前。


 リオンはもう一度、地図を見つめた。


 そこには、静かにマサラ王国の名前が表示されている。


 その国には、かつて何千、何万という人々が暮らしていたはずだ。


 今は、その姿がない。


「……何が起きたのか」


 リオンは小さく呟いた。


「絶対に突き止める」


 その隣で、ガルヴァンが頷いた。


「ああ」


 そして少しだけ口元を緩める。


「今度は一人じゃないからな」


 リオンはガルヴァンを見る。


「……ありがとな」


「礼は帰ってきてからでいい」


「分かった」


 リオンは地図を畳んだ。


「じゃあ、行くか」


「ああ」


 二人は仲間たちの待つ場所へ向かった。


 そして、合同調査隊はマサラ王国へ向けて出発した。




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