第365話 土ドラゴンを止めるために
土ドラゴン討伐を決めた翌日。
リオンは朝から日本側との協議に入っていた。
会議室のモニターには、土ドラゴンの推定サイズ、地中での移動速度、これまでの観測から予想された防御力などが表示されている。
数字だけを見ても、普通の魔物とは桁が違う。
リオンはしばらくモニターを眺めていたが、意を決して口を開いた。
「まず確認したい……」
日本側の担当者を見る。
「日本の兵器で、あいつを止められるか?」
担当者はすぐには答えなかった、少し言いにくそうに視線を落とし、それから口を開く。
「……正直に言います」
「うん」
「通常の兵器では、効果が期待できません」
「……え?」
リオンの表情が固まった。
「対地ミサイルでは?」
「土ドラゴンの体表の硬さ、それと地中を移動しているという条件を考えると、決定的なダメージを与えられる可能性は低いです」
「……」
リオンは黙ってモニターを見る、予想していなかったわけではない。
だが、実際に日本側からそう言われると、かなりきつい。
「じゃあ……」
リオンが頭を掻く。
「俺は何を使って討伐すればいいんだ?」
「現状では、確実な手段はありません」
「……困ったな」
隣で話を聞いていたゼルファも腕を組んだ。「魔法でも、あれだけ巨大だと簡単じゃないね」
「だよなぁ……」リオンは椅子に深く座り込んだ。
昨日、討伐すると決めた、王として国を守るために。
それなのに、一晩経ったら肝心の方法がない。
「どうするかな……」
その時だった、通信機から別の声が入った。
『リオン』
「……Jか?」
『そうだ』
武器商人Jだった。
『一つだけ考えある』
リオンが顔を上げる。
「何だ?」
『バンカーバスターを調達することが出来るぜ』
「バンカーバスター……」
聞き慣れた言葉に、リオンは少し希望を見いだした。
『地中深くにある目標を攻撃するための大型の貫通爆弾だ。米国製になるが金を積めば何とかなる』
その言葉を聞いた瞬間、会議室の空気が少し変わった。
リオンはモニターを見る、地上を進む土ドラゴン。
「……それなら、届くのか?」
『可能性はある』
「可能性……か」
『確実とは言えん。ただ、今ある手段の中では一番、効きそうだ』
「……そうか」
リオンは腕を組んだ、頭の中で何度も考える。
土ドラゴンを止めなければならない、そのためには、強力な兵器が必要になる。
だが、それを使えば土ドラゴンを傷つけることになる。
そもそも、土ドラゴンは何も悪いことをしていない。
ただ、自分の目的地へ向かっているだけだ。
「……」
リオンは目を閉じた、しばらくして、ゆっくりと目を開ける。
「……分かった」
声は重かった。
「J。頼む」
『了解した、金の用意を頼む』
通信が切れた、会議室に静けさが戻る。
リオンは椅子の背もたれに身体を預け、大きく息を吐いた。
「……本当に、嫌な選択ばかりだな」
誰かに聞かせるというより、自分に言い聞かせるような声だった。
その隣では、ゼオンがずっと黙っていた、父が何を考えているのか、たぶん、ゼオンにも分かっていた。
しばらくして、ゼオンが立ち上がる。
「父さん」
「ん?」
リオンが顔を向ける。
「僕も、土ドラゴンを止めたい」
「ゼオン……」
「だから、僕にできることを探してみる」
ゼオンは真っ直ぐ父を見る。
「精霊の王として、できることがあるかもしれない」
リオンは少し驚いた、だが、すぐに小さく笑った。
「……そうだな」
ゼオンの肩に手を置く。
「頼む」
その言葉に、ゼオンは頷いた、すると、精霊の女王も立ち上がった。
「私も協力します」
「女王様も?」
「もちろんです」
精霊の女王は静かに微笑んだ。
「できることがあるのなら、試してみるべきでしょう」
「うん」ゼオンも頷く。
二人はそのまま精霊の都市へ向かった。
土ドラゴンを傷つけずに止める方法がないか、精霊たちに協力を求めるためだ。
ゼオン自身も、自分が精霊の王としてどこまでできるのか、まだ分かっていない。
それでも何か方法があるかもしれない。
そう信じるしかなかった。
精霊の都市に到着すると、ゼオンと精霊の女王はさっそく精霊たちへ呼びかけた。
「みんな、お願いがあるんだ」
ゼオンの周囲に、少しずつ精霊たちが集まってくる。
風の精霊。
土の精霊。
水の精霊。
木の精霊。
その他にも、さまざまな精霊たちが姿を現した。
ゼオンは集まった精霊たちを見回す。
「土ドラゴンを止めたい」
精霊たちがざわめく。
「できれば……」
ゼオンは少し迷ってから続けた。
「傷つけたくないんだ」
その言葉に、精霊たちが一斉に反応した。
どうすればいいのか精霊たちも考え始める。
龍脈に干渉できないか土ドラゴンに意思を伝えられないか。
進む方向を変えられないか一つずつ試していく。
しかし、「……駄目だね」しばらくして、ゼオンが疲れたように呟いた。
簡単にはいかなかった、龍脈はあまりにも巨大で、精霊たちだけで動かせるようなものではない。
土ドラゴンも、こちらの呼びかけに反応する様子がない。
「……難しいな」
ゼオンは地面に座り込みそうになる、精霊の王になった、そう言われても何でもできるわけではない。
むしろ、できないことの方が多い。
「ゼオン様」
精霊の女王が声を掛ける。
「まだ終わっていません」
「でも……」
「精霊の王なのですから」
女王は微笑んだ。
「諦めるのは、もう少し後でもいいでしょう?」
ゼオンは少し驚いた顔をして、それから笑った。
「……うん」
そして、もう一度立ち上がった。
「もう少しやってみる」
その頃、王城では、リオンが日本から届いた資料を眺めていた。
机の上には、土ドラゴンの資料。
兵器の資料。
作戦の候補。
討伐の準備は、少しずつ進んでいる、だが、リオンの表情は晴れなかった。
「……」
資料を閉じる、そして、窓の外を見る。
できることなら、戦いたくない。
できることなら、あの巨大な土ドラゴンを傷つけずに済ませたい。
そんな気持ちは、まだ消えていなかった。
「……ゼオンが、何とかしてくれればいいんだけどな」誰にも聞こえないように呟く。
王としては、兵器を頼るしかない。
でも父親としては兵器よりも、息子の力を信じたかった。




