第363話 地中深くにあるもの
土ドラゴンの最終目的地。
そこへ向かうため、リオンたちはアレリーナに乗って移動していた。
リオン、ゼオン、そしてアレリーナ。
三人は土ドラゴンより先に目的地へ到着し、地上から周囲を確認する。
アレリーナがゆっくりと着地した。
「……ここ?」
リオンは周囲を見回した。
「たぶん、ここだ」
そこは森の一角だった、大きな建物もない、遺跡もない、特別な魔法陣があるわけでもない。
見た目だけなら、何の変哲もない森だった。
「……何もないな」
リオンが呟く。
アレリーナも首を傾げた。
「本当に土ドラゴンが目指している場所なの?」
「日本の調査では、龍脈が地下で大きく合流している場所らしい」
「地下……」
ゼオンが地面を見る。
「だったら、地上から分からなくてもおかしくないよ」
「まあ、そうだな」
リオンも頷いた。
しかし、表情は晴れない。
ここが本当に土ドラゴンの目的地なら、話はかなり深刻だ。
土ドラゴンは、ここへ向かっている。
そして、ここへ到着するということは。
「精霊の都市と共和国の地上を通って、ここまで来るんだよな」
「うん」
ゼオンが答える。
「もし、ここで何か起きたら……」
リオンは言葉を止めた。
精霊の都市。
ガルリオン共和国。
どちらも、この龍脈と無関係ではない。
土ドラゴンが目的地へ到着した時、地下の龍脈に何かが起きれば、その影響は地上にも及ぶ可能性がある。
最悪の場合、都市そのものが崩れる。
共和国の地盤まで巻き込まれれば、被害は取り返しのつかないものになる。
「……やっぱり、何としても調べないとな」
リオンは地面を見つめた。
ゼオンは精霊の女王から預かってきた調査用の魔道具を取り出した。
「これを使ってみる」
「頼む」
ゼオンが魔道具を地面に置く。
そして、ゆっくりと魔力を流した。
ブゥン……。
装置が淡く光る、三人が覗き込む。
「どうだ?」
「……すごい」
「何が?」
「魔力がものすごく高い」
リオンが眉を寄せる。
「それだけ?」
「うん」
「……それだけか」
「この道具じゃ、そこまでしか分からないみたい」
リオンは思わず空を見上げた。
「ここまで来て、それだけか……」
「ごめん」
「いや、ゼオンが悪いわけじゃない」
アレリーナも装置を覗き込む。
「地下にある魔力の量が多すぎて、測りきれないのかしら?」
「たぶん、それに近いと思う」
ゼオンが答える。
「反応そのものは、かなり深いところから出てる」
「どれくらい深い?」
「分からない」
「……また分からないか」
リオンは苦笑した、とはいえ、笑っていられる状況でもない。
土ドラゴンがこの場所へ来る、それだけでも国家存亡の危機だ。
問題は、その後に何が起きるのかだ。
「少し掘ってみよう」
リオンが地面を見る。
「でも、慎重にね」
アレリーナが言う。
「分かってる。龍脈そのものを壊したら、それこそ何が起きるか分からない」
三人は慎重に地面を掘り始めた。
少しずつ。
土を崩し、穴を深くしていく。
十メートルほど掘ったところで、ゼオンが魔道具を確認した。
「……まだ遠い」
「まだ?」
リオンが穴の底を見る。
「十メートルだぞ?」
「うん。でも、魔力反応はまだ下」
ゼオンは地面の奥を見つめる。
「かなり深いところにあると思う」
「どれくらいだ?」
「分からない」
「……」
リオンは黙った、アレリーナも困った顔をする。
「ここまで掘っても、まだ届かないの?」
「うん」
「それじゃ、土ドラゴンが到着するまでに調べきれないじゃない」
「そうなるな……」
リオンは穴の底を見つめた、そして、ふと顔を上げる。
「もし、この下にあるものが土ドラゴンの目的なら……」
「うん」
「こいつが到着した瞬間に何か起きる可能性がある」
ゼオンが黙る。
「……何かって?」
「分からない」
今度はリオンが答えた。
「でも、普通じゃないことは確かだ」
地下深くから、異常なほど強い魔力が湧き上がっている。
そこへ、山のような土ドラゴンが向かっている。
しかも、その龍脈は精霊の都市を通り、ガルリオン共和国の中心部へも繋がっている。
「もし龍脈が土ドラゴンの到着で変化したら……」
アレリーナが呟く。
「何もかも危ないわね」
「ああ」
リオンが頷く。
「共和国も無事じゃ済まない」
ゼオンが不安そうにする。
「父さん……土ドラゴンを止める?」
リオンはすぐには答えなかった、土ドラゴンを止めれば、龍脈に影響が出るかもしれない。
しかし、止めなければ土ドラゴンはここへ到着する。
そして、その結果がどうなるか分からない。
「……まだ決められない」
リオンは正直に答えた。
「でも、時間はない」
遠くから、かすかな地響きが聞こえる。
ズズズ……。
三人が顔を上げる。
「……もう近い」
アレリーナが呟く。
リオンは地面を見る。
「急いで調べないとな」
ゼオンは魔道具を握り直した。
「もっと深く調べる?」
「いや」
リオンは首を横に振る。
「俺たちだけじゃ無理だ」
「じゃあ?」
「日本にも連絡する。精霊の女王にも、もっと詳しく調べてもらう」
そしてリオンは、地図を取り出した。
「ここが本当に龍脈の合流地点なら、土ドラゴンが到着する前に、何があるのか突き止める」
「うん」
「分からないまま土ドラゴンを迎えるわけにはいかない」
リオンは地面を見つめた。
地上には、何もない。
だが、その遥か下には、異常なほど強い魔力が眠っている。
そして、その場所へ向かって土ドラゴンが進んでいる。
ズズズ……。
地響きが、また一段と大きくなった。
リオンは拳を握る。
「……頼むから、間に合ってくれ」
その言葉に答えるように、地面の奥から一瞬だけ強い魔力反応が走った。
ブゥン……。
ゼオンが驚いて魔道具を見る。
「父さん……」
「どうした?」
「今、一瞬だけ……魔力が跳ね上がった」
「土ドラゴンのせいか?」
「分からない」
リオンは顔をしかめた。
「……分からないことが多すぎるな」
それでも、もう時間は待ってくれない。
土ドラゴンの到着までに、この地下深くにあるものを突き止めなければならない。
もし間に合わなければ精霊の都市もガルリオン共和国もすべてが大きな災厄に巻き込まれる可能性があった。




