第361話 土ドラゴンの目的
土ドラゴン対策会議の翌日。
リオンたちは、まず精霊の都市へ向かった。
昨日の会議で話し合った通り、土ドラゴンについて昔から知っている者がいないか、古い精霊たちに話を聞くためだった。
精霊の女王が、長い年月を生きてきた古参の精霊を何人か集める。
「土ドラゴンについて、何か知っていることはありますか?」
女王が尋ねると、精霊たちは顔を見合わせた。
しばらく誰も口を開かない。
やがて、一人の精霊がぽつりと言った。
『土ドラゴン……』
『昔、聞いたことがある』
「何か知っているのか?」
リオンが思わず身を乗り出した。
『あれは、森を荒らすために動いているのではない』
「じゃあ、何のために動いてるんだ?」
リオンの問いに、精霊たちはまた黙り込む。
すぐには答えが出てこない。
そして、かなり年老いた精霊がゆっくりと口を開いた。
『……龍脈、かもしれぬ』
「龍脈?」
ゼオンが首を傾げた。
『大地の中を流れている、巨大な魔力の流れじゃ』
『土や大地に関係する龍は、その流れを感じ取ることがある』
「なるほど……」
リオンは腕を組んだ。
頭の中で昨日見た土ドラゴンの姿を思い出す。
あれだけ巨大な身体で、森の中をひたすら前へ進んでいた。
「つまり……土ドラゴンは龍脈に沿って移動している?」
『その可能性が高い』
「じゃあ、森を壊してるのも、わざとじゃないってことか」
『そうかもしれぬ』
リオンは地図を広げた。
「でも、それなら余計に気になるな」
ゼオンが地図を覗き込む。
「何が?」
「龍脈に沿って進んでるなら、その先に何かあるんじゃないかってことだ」
「目的地?」
「そう。何も考えずに歩いてるわけじゃなさそうだからな」
精霊の女王も考え込んだ。
「確かに……。あれほど大きな身体で、同じ方向へ進み続けているのですから」
「問題は、その目的地がどこなのかだな」
リオンがそう言ったところで、通信魔道具が反応した。
『リオン陛下、日本側から連絡です』
「はいはい。ちょうど調査の話をしてたところだ」
映像が展開され、日本側の担当者が映し出される。
『こちらでも土ドラゴンについて調べてみます』
「何か方法があるのか?」
『ドローンを飛ばします』
リオンは一瞬だけ黙った。
「……やっぱり便利だな、日本」
ゼルファが小さく笑う。
「魔法とは違う方法で空から調べられるのは大きいな」
「俺たちが飛んで追いかけるより安全だしな」
「それはそうだな」
北部森林地帯。
木々の上空を、小型のドローンが静かに進んでいく。
カメラに映し出された森の映像を、日本側の担当者たちが確認していた。
『土ドラゴンを発見しました』
画面の中央に、巨大な姿が映る。
山のような身体。
木々を押し分け、地面を踏み固めながら、ゆっくりと進んでいる。
『速度は昨日とほぼ変わっていません』
『進行方向も一定です』
映像はそのままリオンたちのいる精霊の都市へ送られてくる。
「本当に迷ってる様子がないな」
リオンが画面を見ながら呟いた。
ゼオンも隣から覗き込む。
「何かを目指してるのかな?」
「たぶんな」
「じゃあ、どこに行くんだろう」
「それを今から調べるんだ」
ドローンがさらに高度を上げる。
森全体が少しずつ見渡せるようになっていく。
すると、日本側の担当者が声を上げた。
『……少し待ってください』
「どうした?」
『土ドラゴンの進行方向に、妙な光があります』
画面が拡大される。
しかし、森の奥には強い光が見えるだけだった。
『輝きが強すぎて、現在の映像だけでは正確に判別できません』
「何かの施設じゃないのか?」
『可能性は低いと思います。自然現象か、魔力反応のようにも見えます』
ゼルファがすぐに自分たちの調査道具を確認する。
「……少し待て」
魔力測定器の数値を確認する。
「これ、昨日から調べている龍脈の反応と似ている」
リオンが振り返る。
「本当か?」
「完全に同じとは言えませんけど、反応の出方がかなり近いです」
精霊の女王も画面を見る。
「やはり……龍脈なのでしょうか」
「まだ断定はできない。でも、可能性は高そうだな」
リオンは地図を広げ、土ドラゴンの進行方向と龍脈の位置を重ねてみる。
すると、ほぼ一直線に重なった。
「……本当に龍脈に沿ってる」
ゼオンが画面を見る。
「じゃあ、土ドラゴンは龍脈を探してるの?」
「それとも、龍脈の流れに沿ってどこかへ向かっているのかもしれない」
「どこへ?」
「そこまでは、まだ分からない」
リオンは腕を組んだ。
精霊の女王が静かに言う。
「少なくとも、土ドラゴンに悪意があるとは限りませんね」
「ああ」
リオンも頷く。
「むしろ、あいつは自分の目的に従って動いてるだけなのかもしれない」
その時、リオンの頭に昨日の会話が蘇った。
何を聞いても、あの土ドラゴンは一言しか答えなかった。
『前進』
「……なるほど」
「どうしたの?」
ゼオンがリオンを見る。
「いや。あいつが言ってた『前進』って言葉な」
「うん」
「もしかしたら、あれは『前へ進め』っていう命令じゃないのかもしれない」
ゼオンが少し考える。
「じゃあ……?」
「『前進する』ことそのものが、あいつの目的なのかもしれない。いや……目的地へ向かってる、って意味なのかもな」
「目的地……」
ゼオンが呟く。
「だったら、その場所を見つければいいんだね」
「そういうことだ」
リオンはドローンの映像を見る。
画面の中では、土ドラゴンが相変わらずゆっくりと歩いている。
森を抜け。
土を踏みしめ。
何も気にする様子もなく、ただ前へ進んでいる。
『前進』
昨日と同じ言葉が、なぜか今は少し違って聞こえた。
「……どこに行きたいんだ、お前は」
リオンが小さく呟く。
ゼオンが笑う。
「じゃあ、追いかけよう」
「ああ。ただし、近づきすぎるなよ」
「分かった」
日本側のドローンは、一定の距離を保ちながら土ドラゴンを追跡する。
精霊たちは龍脈の流れを調べ始める。
そして、リオンたちもまた、土ドラゴンが向かっている先に何があるのかを突き止めるため、調査を続けることになった。
まだ、土ドラゴンの目的は分からない。
だが一つだけ、はっきりしてきたことがある。
あの巨大な龍は、ただ森を壊しているわけではない。
何かを目指している。
その先に何が待っているのか。
リオンたちは、土ドラゴンの後を追うことにした。




