閑話 子供たちの異世界特典
これは、まだ子供たちが今ほど大きくなる前の話。
ある日の北部森林地帯。
ゼオン、リオナ、アレン、そしてラミは、いつものように森の中で遊んでいた。
木々の間を走り回ったり、見つけた木の実を集めたり。
特に目的があるわけでもない。
ただ、森で遊ぶことが楽しかった。
「見て!」
リオナが突然、足を止めた、指差した先には、小さな鳥が一羽。
木の枝にちょこんと止まり、こちらをじっと見ている。
「かわいい!」
リオナが嬉しそうに近づく。
その時だった。
『そこの人間たち、何してるの?』
「……え?」
リオナの動きが止まった。
「今、誰か喋った?」
ゼオンも周囲を見回す。
「誰?」
『僕だよ』
鳥が首を傾げた。
「…………」
子供たちは一斉に鳥を見る。
「鳥が喋った!」
アレンが目を丸くした。
「本当に喋ってる!」
「うん。僕にも聞こえる」
ゼオンが頷く。
そこへ、少し離れた場所で遊んでいたラミが走ってきた。
「どうしたの?」
「ラミお姉ちゃん、この鳥さん喋るよ!」
「え?」
ラミが鳥を見る。
鳥もラミを見る。
『こんにちは』
「…………」
ラミは黙ったまま鳥を見つめた。
数秒後。
「……私には聞こえない」
「え?」
ゼオンたちが顔を見合わせる。
「僕には聞こえるよ」
「リオナにも聞こえる!」
「僕にも!」
アレンも元気よく手を上げた。
「…………」
ラミの表情が少しずつ曇っていく。
「なんで?」
「えっと……」
ゼオンも困った顔をする。
「分からない……」
「なんでみんな聞こえるの?」
ラミは鳥を見た。
鳥は何も知らない顔で首を傾げている。
「……ずるい」
「ラミお姉ちゃん?」
「なんでもない!」
ラミはぷいっと顔を背けた。
その後、子供たちは城へ戻った。
そして、当然のように大騒ぎになった。
「動物や魔物の言葉が分かる?」
リオンが子供たちを見ながら聞き返す。
「うん!」
ゼオンが頷く。
「鳥も?」
「喋るよ!」
「狼は?」
「喋る!」
「魔物は?」
「喋る!」
三人が次々に答える。
リオンはしばらく黙った。
そして、頭を抱える。
「……また異世界特典か」
「その可能性が高い」
ゼルファが子供たちを調べていた。
「どうやら本当に能力として発現しているみたいだな」
「凄いわね」
リゼが嬉しそうにゼオンを見る。
「うん!」
ゼオンも嬉しそうに笑った。
ルナもリオナを抱きしめる。
「便利な力ね。森の動物たちとも話せるなんて」
「うん!」
子供たちは楽しそうに話している。
ただし。
部屋の隅には、明らかに元気のない子が一人いた。
「…………」
ラミだった、壁際に座り込み、膝を抱えている。
「ラミ?」
リオンが声をかける。
「どうした?」
「……別に」
「別にって顔じゃないぞ」
「なんでもない」
どう見ても拗ねている、リオンは苦笑しながらラミの隣に座った。
「お前にも何か特別な力があるかもしれないぞ」
「ない」
即答だった。
「まだ分からないだろ」
「みんな喋れるのに、私だけ喋れない」
ラミは頬を膨らませた。
「ずるい」
「ラミお姉ちゃん……」
ゼオンが心配そうに近づく。
「一緒に遊ぼうよ」
「……いい」
「ラミ?」
「私、普通の人だから」
完全に拗ねていた、リオンは困ったように頭を掻く。
「まあ……異世界特典なんて、人それぞれだろ」
「でも……」
ラミが小さな声で言う。
「みんなだけ特別なの、ずるい」
その時だった。
窓の外から、小さな声が聞こえてきた。
『ラミー!』
「……え?」
ラミが顔を上げる。
『早く遊ぼうよ!』
ラミはゆっくりと窓の外を見る。
そこには、森でいつも遊んでいる小動物たちがいた。
「…………」
ラミはしばらく動かなかった。
「……今の、聞こえた?」
リオンが笑う。
「うん。どうやらお前にも、何か起きたみたいだな」
「……私にも?」
「たぶんな」
ラミは恐る恐る窓を開けた。
『ラミ、早く!』
「……今行く!」
さっきまでの不機嫌そうな顔が嘘のように明るくなる。
ラミはそのまま外へ飛び出していった。
「ねえ! みんな喋れるの!?」
『喋れるよ!』
「すごい!」
楽しそうな声が森へ消えていく。
リオンは窓からラミの背中を見送った。
そして、小さく笑う。
「……よくやったな、精霊たち」
ゼルファも窓の外を見て笑った。
「ラミが一番喜んでるな」
「さっきまであんなに拗ねてたのにな」
リゼも微笑む。
「きっと、精霊たちがラミのために手伝ってくれたのね」
リオンは頷いた。
「たぶんな」
その頃、森では。
「ねえねえ! もっと話して!」
『いいよ!』
「それで? 森の中には他にどんな動物がいるの?」
『いっぱいいるよ!』
「じゃあ案内して!」
『こっちこっち!』
ラミの楽しそうな声が森の中に響いていた。
その少し離れた場所では、精霊たちが顔を見合わせていた。
『ラミ、元気になったね』
『よかった』
『これなら大丈夫そう』
誰にも気づかれないように精霊たちは、ラミが寂しい思いをしないように、そっと手を貸していた。




