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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第360話 土ドラゴン対策会議


 森の奥で土ドラゴンを見つけたものの、結局、リオンたちは何も分からないまま戻ることになった。


 何を聞いても返ってくる言葉は、


『前進。』


 それだけだった。


 敵意があるわけではない。


 こちらを襲おうとする様子もない。


 ただ、ひたすら前へ進んでいる。


 問題は、その身体があまりにも大きいことだった。


 一歩進むたびに木々が倒れ、地面が盛り上がる。


 このまま放っておけば、北部森林地帯だけでは済まないかもしれない。


 精霊の都市にまで被害が及ぶ可能性もある。


 リオンは土ドラゴンを見つめながら、大きく息を吐いた。


「……一度、戻ろう。」


「止めないの?」


 ゼオンが尋ねる。


「まだだ。」


 リオンは首を横に振った。


「何者なのかも、何を考えているのかも分からない。そんな相手と、いきなり戦うのは避けたい。」


「私もその方がいいと思う。」


 アレリーナも頷いた。


「あれだけ大きいと、戦うだけで森が滅茶苦茶になるわ。」


「だよな……。」


 リオンもそれは分かっていた。


 敵なら倒せばいい。


 だが、今回の相手は敵なのかどうかすら分からない。


「だったら、みんなで考えるしかないな。」


 リオンたちはアレリーナの背に乗り、いったん王都へ戻ることにした。


 数時間後。


 ガルリオン共和国の王城では、急遽、会議が開かれていた。


 長い机を囲んでいるのは、共和国の重臣たち。


 ガルヴァン、ゼルファ、聖女フィーナ。


 そして精霊の女王も席についている。


 さらに今回は、日本側にも協力を求めることになった。


 《家移転》を利用して連絡を取り、大型の投影魔導具には日本側の担当者たちが映し出されている。


 リオンは地図を机の上に広げた。


「北部森林地帯のかなり奥で、巨大な土ドラゴンを見つけた。」


 その瞬間、会議室がざわついた。


「土ドラゴン?」


「そんなものが森の奥に……?」


 リオンは地図の一点を指差す。


「大きさは……そうだな。」


 少し考えてから答える。


「山くらいある。」


「…………。」


 何人かの議員が固まった。


 ゼルファが苦笑する。


「陛下。その説明だと、余計に分からないと思いますよ。」


「俺だって、どう説明すればいいのか分からないんだよ。」


 リオンは困ったように頭を掻いた。


「とにかく、とんでもなく大きい。歩くだけで木が倒れる。」


 ゼオンが調査道具を机の上に置く。


「魔力もすごく大きかったよ。」


 精霊の女王が静かに続ける。


「精霊たちも、その存在を非常に警戒しています。」


 アレリーナも腕を組んだ。


「私もあんな土ドラゴンは見たことがないわ。」


 ガルヴァンがリオンを見る。


「敵なのか?」


「分からない。」


「襲ってきたのか?」


「それもない。」


「なら、話はできるんだな?」


「ああ。」


 リオンは一度頷いた。


「一応、話はできる。」


「一応?」


 ガルヴァンが眉をひそめる。


 リオンは少し遠い目をした。


「何を聞いても『前進』としか言わない。」


「……。」「……。」「……。」


 会議室が静まり返った。


 ゼルファが耐えきれず吹き出した。


「ははっ……!」


「笑うなよ。」


「いや、だって……。」


 ゼルファは口元を押さえながら笑っている。


「それは確かに困るな。」


「こっちは真剣なんだぞ。」


 リオンが呆れた顔をする。


 ガルヴァンは笑わなかった。


「つまり、進む理由が分からない。」


「ああ。」


「止める方法も?」


「分からない。」


「……厄介だな。」


 ガルヴァンが腕を組む。


 日本側の担当者からも質問が飛んできた。


『その土ドラゴンの大きさを、もう少し具体的に教えてもらえますか?』


 リオンは少し考えた。


「……山。」


『……山、ですか?』


「山。」


『分かりました。』


 日本側の担当者も、それ以上聞くのを諦めたようだった。


『もし敵対した場合、通常の兵器では対処が難しい可能性があります。』


「だから、できるだけ戦いたくないんだ。」


 リオンは真剣な顔で答えた。


「下手に攻撃して怒らせたら、それこそ取り返しがつかない。」


 精霊の女王も静かに頷いた。


「古くから生きている精霊たちなら、何か知っているかもしれません。」


「昔の記録を調べることはできる?」


「はい。少し時間をいただければ。」


 ゼオンが顔を上げる。


「じゃあ、僕も精霊たちに聞いてみる。」


「頼む。」


 リオンが頷いた。


 その時だった。


 ずっと黙っていたガルヴァンが口を開く。


「一つ、確認したい。」


「何だ?」


「その土ドラゴンは、どっちへ向かっている?」


 リオンが地図を見る。


 ゼオンも調査道具を確認した。


「……こっち。」


 ゼオンが指を動かす。


「精霊の都市の方向だと思う。」


 会議室の空気が変わった。


 精霊の女王の顔からも、さっきまでの穏やかさが消える。


「精霊の都市へ……。」


 リオンも地図を見つめる。


「そして、その先には……。」


「世界樹。」


 精霊の女王が呟いた。


 誰も口を開かなかった。


 もし土ドラゴンが世界樹を目指しているのなら、何か理由があるのかもしれない。


 偶然、そちらへ向かっているだけなのか。


 それとも。


「……気になるな。」


 リオンが呟いた。


 ガルヴァンも頷く。


「少なくとも、ただ森を歩いているだけとは思えない。」


 ゼルファが地図を覗き込む。


「だったら、まず目的を調べるべきだな。」


「そうだな。」


 リオンは会議に集まった全員を見回した。


「戦うのは最後だ。」


 そして、はっきりと言った。


「まずは情報を集めよう。」


「土ドラゴンが何者なのか。」


「なぜ、あそこまでひたすら前へ進んでいるのか。」


「そして、本当に世界樹を目指しているのか。」


 リオンは地図を見つめた。


「それが分からないうちは、こっちから動くのは危険だ。」


 ガルヴァンが頷く。


「了解した。」


 精霊の女王も立ち上がる。


「精霊たちにも調査を命じます。」


 ゼオンも頷いた。


「僕も調べるよ。」


「頼んだ。」


 こうして。


 土ドラゴンを止めるための大規模な調査が始まった。


 まだ誰も知らない。


 あの巨大な土ドラゴンが、なぜ森を進み続けているのか。


 そして、その「前進」の先に何が待っているのか。


 ただ一つ分かっているのはあの巨体が、今日も変わらず前へ進んでいるということだった。


『前進。』




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