第359話 動く山の正体
動く山の正体を確かめるため、リオンたちは少しずつ距離を詰めていた。
アレリーナは上空へ上がり、土砂に埋もれている巨大な何かを確認する。
『……何、あれ?』
その声に、リオンとゼオンも顔を上げた。
ズズズ……。
土が崩れる、木々が押し倒される。そして、山のような巨体がゆっくりと姿を現した。
岩のように硬そうな皮膚、巨大な四本の足。そして、地面を引きずる長い尾。
その姿を見たアレリーナが、目を見開いた。『土ドラゴン……!』
「土ドラゴン?」ゼオンが驚く。
リオンも、目の前に現れた巨大なドラゴンを見上げた。「……本当に山みたいだな。」
ドラゴンというより、動く山そのものだった。しかも、その巨体が一歩進むたびに地面が揺れる。
ズズズズ……。
「これは放っておいたら大変だぞ。」リオンは土ドラゴンを見ながら呟いた。
しかし、土ドラゴンにはこちらを攻撃する様子がない。
ただひたすら、前へ進んでいる。
「おーい!」リオンが声を張る。「ちょっと聞きたいんだが!」
土ドラゴンの動きが止まった、ゆっくりと首がこちらへ向く。
そして、『前進。』
「……。」リオンは一瞬、黙った。「今、しゃべったよな?」
『前進。』
「そこじゃない。」リオンは頭を掻いた。
「お前はどこへ行こうとしてるんだ?」
『前進。』
「……目的地は?」
『前進。』
「何のために?」
『前進。』
「…………。」リオンは黙ってゼオンを見る。
ゼオンも困ったような顔をしている。
「父さん……。」
「うん。」
「会話にならないね。」
「俺もそう思う。」
アレリーナが呆れたように翼を揺らした。『何を聞いても『前進』しか言わないわね。』
「そうなんだよ。」リオンはもう一度、土ドラゴンに向き直った。
「なあ。俺たちに危害を加えるつもりはあるのか?」
『前進。』
「森を壊してる自覚は?」
『前進。』
「精霊の都市まで行くつもりなのか?」
『前進。』
「……だから質問に答えてくれ!」
『前進。』
「…………。」リオンは額を押さえた。「駄目だ。全然分からん。」
ゼオンが少し笑った。「父さん、困ってるね。」
「困ってるよ。」
だが、笑ってばかりもいられない、土ドラゴンは再び歩き始めた。
ズズズズ……。
巨体が動くたびに木々が倒れていく、森の中に一本の道ができるほどだった。
アレリーナの表情が険しくなる。
『リオン。このまま進ませて大丈夫?』
「……分からない。」
『精霊の都市に近づけば、被害が出るかもしれないわ。』
リオンは黙って土ドラゴンを見つめた、敵意は感じない。
むしろ、何も考えずに歩いているように見える。
「でも、悪意がないなら倒していいって話でもないよな。」
『そうね。』
ゼオンも不安そうに土ドラゴンを見る。
「このドラゴン、僕たちを襲おうとしてないよ。」
「ああ。」
リオンは銃から手を離した。「だから余計に困るんだ。」
倒せば話は早い。
だが、相手に敵意がないのなら、それは最後の手段にしたい。
リオンは大きく息を吐いた。「まずは、もう一度話してみよう。」
「話が通じるかな?」
「さあな。」
リオンは土ドラゴンの前へ出る。「おい、土ドラゴン!」
『前進。』
「だから、ちょっと待て!」
『前進。』
「俺の話を聞いてくれ!」
『前進。』
「お前、本当にそれしか言えないのか!?」
『前進。』
「…………。」リオンは完全に言葉を失った。
隣ではゼオンが笑いを堪えている。
「父さん……。」
「笑うな。」
「ごめん。」
アレリーナまで小さく笑っていた。
『リオン、頑張って。』
「お前まで……。」
そんな三人を気にすることもなく、土ドラゴンは再び歩き出す。
ズズズズ……。
巨大な足が地面を踏みしめる、森が揺れる。
リオンは真剣な顔で、その背中を見つめた。「……何でこいつは、こんなにひたすら前へ進んでるんだ?」
その答えは、まだ誰にも分からなかった。




