第358話 動く山
巨大な亀が繰り返していた「怖い」という言葉。
その原因を確かめるため、リオンたちは周囲を調べていた。
「何かを怖がってるなら、近くに原因があるはずなんだけどな……。」
リオンは周囲の木々を見回す。
アレリーナも少し高いところまで飛び上がり、森の中を確認していた。
『こっちには何もないわ。』
「ゼオン、調査道具は?」
「調べてるけど……変な魔力はないよ。」
「本当に?」
「うん。少なくとも、さっき見つけた異常な魔力以外は。」
リオンは腕を組んだ。「……参ったな。」
念のため、巨大な亀にも聞いてみる。
「なあ。」
『……怖い。』
「いや、それは分かった。」リオンは苦笑した。「お前が怖がっているものは、どこにある?」
『怖い。』
「場所を教えてくれ。」
『怖い。』
「……。」リオンは黙った。
アレリーナも困ったように首を傾げる。
『やっぱり『怖い』しか言わないわね。』
「そうなんだよ。」
ゼオンも亀を見ながら言った。「何を聞いても同じだね。」
「意思疎通ができてるような、できてないような……。」
結局、それ以上のことは分からなかった。
三人はしばらく森の中を飛び回った、だが、怪しいものは見つからない。
「……何もないな。」リオンが額の汗を拭う。
「うん。」ゼオンも疲れた様子だった。
アレリーナも翼を畳む。『ちょっと休まない?』
「そうするか。」
三人は巨大な亀の近くで休憩することにした。
ゼオンは木の根元に座り、リオンは水筒から水を飲む。
「ふぅ……。」
「結構、飛んだからね。ゼオンも疲れるよね」
「それにしても、何なんだろうな。」
リオンは巨大な亀を見る、亀は相変わらず、そこにじっと座っている。
「何か知ってるなら教えてくれればいいんだけどな。」
『……怖い。』
「……そうか。」もう突っ込む気力もなくなっていた。
アレリーナが周囲を見回す。「この辺りには、本当に何もないわよ。」
ゼオンも調査道具を確認する。「反応も変わってない。」
「なら、もう少し休んでから戻るか。」
リオンがそう言った、そのときだった。
ズズズ……。
「……?」
地面がわずかに揺れた、リオンが顔を上げる。「今、揺れたか?」
「うん。」
アレリーナも立ち上がる。「地震?」
「かもしれないな。」
ズズ……。
ズズズズ……。
今度は、はっきり分かるほど地面が揺れた、木々の葉が一斉に揺れる。
「父さん!」ゼオンが立ち上がった。「森の向こう!」
「どうした?」ゼオンが指差した方向を見る。
「……あれ、山じゃない?」リオンは目を細めた。
確かに、森の向こうに大きな山が見える。
「こんなところに山なんてあったか?」
「分からない。」
アレリーナも目を凝らす。「……待って。」
「どうした?」
「山が……動いてる。」
「……え?」
リオンはもう一度見る、最初は気のせいだと思った、だがゆっくり、本当にゆっくりと山のようなものが動いている。
「……。」
土が崩れ落ちる、木々が倒れていく。
ズズズズ……。
地面から巨大な岩のようなものがせり上がってくる。
「……山じゃない。」リオンが呟いた。「何かが動いてる。」
ゼオンも口を開けたまま、その光景を見ている。「父さん……。」
「ああ。」
「あれ……ものすごく大きい。」
「分かってる。」
リオンも思わず後ずさった、そのときだった。
『……怖い。』
今までほとんど動かなかった巨大な亀が、身体を震わせていた。
リオンは亀を見る、そして、もう一度“動く山”を見た。「……まさか。」
アレリーナも気付いたようだった。「これが……この子が怖がっていたもの?」
巨大な影が、ゆっくりとこちらへ向きを変える。
ズズズズズ……。
森全体が揺れた、鳥たちが一斉に飛び立つ、木々が大きく揺れる。
リオンは反射的に銃へ手を伸ばした。「どうやら……原因を見つけたみたいだな。」
「父さん。」
「どうした?」
ゼオンが調査道具を握りしめる。「魔力が、すごい勢いで上がってる。」
リオンの表情が変わった。「やっぱり、ただの山じゃないな。」
アレリーナもドラゴンに変化し翼を広げる。『どうする?』
「まずは正体を確認する。」リオンは巨大な影から目を離さない。「いきなり攻撃するのは、それからだ。」
「分かった。」ゼオンも頷く。
巨大な影は、ゆっくりとこちらへ身体を向けていく。
土砂が崩れ、木々が倒れる、その姿はまるで山そのものが立ち上がったようだった。
『……怖い。』巨大な亀が、また小さく呟く。
リオンはその声を聞きながら、銃を握り直した。「……お前がそこまで怖がる相手か。」
森の奥から現れた巨大な存在、その正体は、まだ分からない。
ただ一つだけ確かなことがあった、これは、普通の魔物ではない。
そして、リオンたちは今、とんでもなく大きなものと向き合おうとしていた。




