第354話 ガルヴァンの説教
翌日。
王城の一室に、妙に緊張した空気が漂っていた。
部屋の中央には、ラミ、リオン、宝物庫の警備兵、それからラミの護衛兵たちが並んでいる。
全員、背筋を伸ばしていた。
その前に立っているのは、腕を組んだガルヴァン。
「……。」
誰も口を開かない、ガルヴァンが一人ずつ顔を見ていく。
その視線に耐えきれなくなったのか、ラミが小さく身じろぎした。
「……あの。」
「何だ?」
「怒ってる?」
「怒っている。」
「やっぱり……。」ラミは小さく肩を落とした。
ガルヴァンはため息をついてから、ラミの前に立つ。「まず、ラミ。」
「はい……。」
「宝物庫に勝手に入ったな?」
「……はい。」
「そこで世界樹の木の実を勝手に食べたな?」
「……はい。」
「その結果、城の中をものすごい勢いで走り回ったな?」
「……はい。」
そこまで確認したところで、ガルヴァンの眉間に皺が寄った。「……ふざけるな!」
「ひっ!」
ラミの肩が跳ねる。
「世界樹の木の実がどれだけ貴重なものか、少しは考えろ!」
「ご、ごめんなさい……。」
「何か分からないものを見つけたからって、すぐ食べるんじゃない!」
「だって……美味しそうだったから。」
「理由になってない!」
「はい……。」ラミは完全にしょんぼりしている。
ガルヴァンは頭を抱えそうになったが、まだ終わりではない。
「次!」
今度は宝物庫の警備兵へ視線を向ける。
「お前たちは何をしていた?」
「……申し訳ありません。」
「世界樹の恵みを保管している場所に、どうしてラミが入れるんだ?」
「警備の確認が不十分でした。」
「不十分どころじゃないだろ!」
兵士たちは一斉に頭を下げた。
「今後は保管場所を変更し、鍵の管理も含めて二重、三重に確認します!」
「当然だ!」ガルヴァンは腕を組み直す。
「国宝級のものを保管しているんだぞ。『誰かが勝手に入るとは思いませんでした』では済まないからな。」
「はい!」
「次!」
今度はラミの護衛兵たち。
「お前たちもだ。」
「はい……。」
「ラミが宝物庫に入ったことにも気付かなかったな?」
「……面目ありません。」
「その後、木の実を食べたラミを捕まえることもできなかった。」
「……はい。」
「何か言い訳はあるか?」
護衛兵の一人が、おそるおそる口を開く。「……世界樹の木の実を食べた後のラミ様が、あまりにも速くて……。」
「それは分かっている。」ガルヴァンは少しだけ表情を緩めた。
「俺だって、あの速さを見たら捕まえられる自信はない。」
「ありがとうございます……。」
「褒めてないぞ。」
「はい!」即答だった。
ガルヴァンは額を押さえる、そして、最後にリオンを見る。
「……。」
「……。」
嫌な予感しかしない、リオンは視線を逸らした。
「リオン。」
「はい。」
「お前もだ。」
「……やっぱり?」
「『やっぱり』じゃない!」
ガルヴァンが机を軽く叩く。
「お前が国王だろうが!」
「はい。」
「世界樹の葉と木の実を持ち帰って、宝物庫に入れたのもお前だろう!」
「はい。」
「それなのに、ラミに食べられているじゃないか!」
「……返す言葉もない。」
リオンは素直に頭を下げた。
「しかもその後、城中を護衛兵と一緒になって走り回ったそうだな?」
「……それについては、ラミを止めようとした結果で。」
「管理がなってない!」
「はい……。」リオンも完全に反省していた。
隣ではラミも小さく頭を下げている、警備兵も護衛兵も同じだった。
部屋の中には、怒られている人間がずらりと並んでいる。
しばらく説教を続けたあと、ガルヴァンは大きく息を吐いた。「……もういい。」
全員が少しだけ顔を上げる。
「今回のことは、全員が悪い。だが、同じことを二度と起こすな。」
「はい。」
「世界樹の葉と木の実は、今後、許可なく触ることも禁止する。」
「はい。」
ガルヴァンはラミを見る。
「ラミ。」
「はい。」
「特にお前だ。」
「……はい。」ラミはしょんぼりと頷いた。
ようやく説教が終わった、リオンは疲れたように椅子から立ち上がる。
「……世界樹の木の実より、ガルヴァンの方が怖かったな。」
「聞こえてるぞ。」
「……。」リオンは何も言わず、視線を逸らした。
隣ではラミが笑いを堪えている。「……ぷっ。」
「ラミ。」
「はい!」
ガルヴァンが二人を交互に見る。「何か言いたいことがあるのか?」
「ありません。」「ありません!」
二人の返事が、見事に重なった。
ガルヴァンは呆れたようにため息をつく。「……本当に分かってるんだろうな。」
「はい……。」「はい!」
今度はリオンとラミの返事が、少しだけ違っていた。
こうして、世界樹の木の実を巡る騒動はひとまず収まった。
ただし、宝物庫の管理体制はこの日を境に大きく見直されることになった。
そして、ラミの護衛兵たちには、新たな仕事が一つ増えた。
ラミが勝手なことをしないよう、以前より注意して見張ること。
「ラミ、今日は宝物庫に行ってないだろうな?」
「行ってないよ!」
「本当か?」
「本当!」
「……ならいい。」
その数分後、「ねえ、リオン。」
「何だ?」
「世界樹の葉って、食べたらどうなるのかな?」
「……。」
リオンは頭を抱えた。「ガルヴァンを呼んでくる。」




