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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第353話 世界樹の木の実とラミ


 王城の宝物庫。


 普段なら、許可を受けた者しか入ることのできない場所だ。


 貴重な魔道具や金貨、宝石などが厳重に保管されている。


 その一角には、昨日収められたばかりの世界樹の葉と木の実があった。


 そして、「……これ、食べられるのかな?」なぜかラミがいた。


 ラミは箱の中を覗き込む。「世界樹の木の実かぁ……」


 昨日、リオンたちが「絶対に勝手に触るな」と言っていた気がする。


 だが、ラミは少し考えてから周囲を見回した。


「誰もいない」


 もう一度、左右を見る、本当に誰もいない。


「……一個くらいなら」


 ラミは木の実を一つ手に取った。


「いただきます」


ぱくっ。


「……」ラミは目を丸くした。「甘い」普通に美味しかった。「もう一個……」


 手を伸ばしかけて、ラミは止まった。


「いや、一個だけって言ったもんね」


 自分に言い聞かせるように呟く、そして、木の実を元の場所へ戻そうとした、そのときだった。


「……あれ?」身体に妙な変化を感じる。「なんだろう?」


 身体が軽い、いつもより、ずっと軽い。


「なんか……凄く調子がいい!」


 ラミは嬉しくなって、その場で軽く跳ねた。


ぴょん。


「おお!」


 もう一度。


ぴょん。


「もっと高く跳べそう!」


 そして、ラミは試しに一歩踏み出した。


ダッ!


「うわっ!」自分でも予想していなかった勢いで走り出した。


「え?」ラミは慌てて足を止めようとする。


「止まって!」止まらない。「えっ、ちょっと!」


 そのまま宝物庫から飛び出していった。

「止まれない!」


 王城の廊下。


ドタドタドタドタッ!


「ラミ!」向こうからリオンが叫んだ。「待て!」


「無理!」ラミが走りながら振り返る。

「止まれない!」


「どういうことだ!」


「分かんない!」


「何をした!」


「木の実を食べた!」


「……は?」一瞬、リオンの足が止まった。

「まさか……」


 ラミはそのまま走り続ける。「世界樹の木の実!」


「お前、何をやってるんだ!」リオンは慌てて追いかける。


 しかし、速い、とにかく速い。


「くそっ!」リオンは必死に走る、だが、距離が縮まらない。


「陛下!」


 前方から護衛兵たちが駆けてきた。


「ラミを止めろ!」


「了解!」


 兵士たちはすぐに横一列に並んだ。


「ラミ!止まれ!」


「ごめん!」


「え?」


「止まれない!」


ヒュンッ!


「うわぁ!」


 ラミは兵士たちの間を一瞬ですり抜けていった。


「速すぎる!」


「何なんだ、あの速度!」


「陛下! どうしますか!」


「追うしかない!」リオンも走り続ける。


 廊下を曲がる、ラミは階段へ飛び込んだ。


「待て!」

 

ダダダダダッ!


 階段を駆け下りていく、しかも普通に降りるのではない。


「そこ、三段飛ばし!?」


 ラミが階段を一気に駆け下りていく。


「なんであんなに速いんだ!」リオンは息を切らしながら追いかける。「木の実一個でここまでになるのかよ!」


「リオン!」ラミが振り返る。


「捕まえてみて!」


「言われなくても捕まえる!」リオンは速度を上げる。「よし……!」少しずつ距離が縮まる。「あと少し……!」手を伸ばす。


「捕まえた!」と思った瞬間、ラミが身体をひねった。


「甘い!」

 

スッ。


「なっ!」リオンの手が空を切る。


「陛下!」護衛兵たちも追いついてくる。


「囲め!」


「はい!」左右から兵士が迫る。


 しかし、「ヒャッホー!」ラミは嬉しそうに叫びながら、さらに加速した。


「楽しむな!」リオンの叫び声が王城に響いた。


 しばらくして舞台は王城の中庭へ移っていた。


「そっちに行ったぞ!」


「囲め!」


「無理です!」


「速すぎます!」護衛兵たちが必死に走り回っている。


 その中心を、ラミが楽しそうに駆け回っていた。「速い!」「凄い!」


「ラミ! 喜んでる場合じゃない!」リオンも息を切らしながら追いかける。「……世界樹の木の実……」


 昨日、あれほど慎重に宝物庫へ収めたばかりだった。


 そして、今日、その木の実を一個食べたラミを、王城中の兵士が追いかけている。


「だから勝手に食べるなと言っただろ!」

 リオンが叫ぶ。


「聞いてない!」


「聞け!」


「だって美味しかったんだもん!」


「そういう問題じゃない!」


 ラミは笑いながら走り続ける。「でも凄いよ!」


「何が!」


「身体が軽い!」


「だからって王城を走り回るな!」


「だって楽しい!」


「楽しくない!」リオンの叫び声が響く。


 しかし、ラミは止まらない。


「ラミ、そっちじゃない!」


「こっち?」


「そっちは噴水だ!」


「わぁ!」


「わぁじゃない!」


 ラミはギリギリで方向を変えた、護衛兵たちは完全に振り回されている。


 それからしばらく。


「……もう駄目だ」


 リオンは中庭の地面に座り込んだ、肩で息をする。


「陛下、大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃない……」


 護衛兵たちも疲れ切っている。


「俺たち、何人いた?」


「十人以上です……」


「それで捕まえられないのか……」


「無理です……」


 その横をビューン!ラミが猛スピードで通り過ぎる。「リオン!」


「…………」


「頑張って!」


「お前のせいだ!」


 ラミは楽しそうに笑いながら、また走っていった。


 リオンはその背中を見送る。「……世界樹の木の実、恐ろしいな」


 ゼルファがいたら、きっと研究者として大喜びするだろう。


 だが、今のリオンにはそんな余裕はなかった。「とりあえず……捕まえたら説教だ」


 その日の夕方。


 ようやくラミが疲れて眠ってしまい、騒動は終わった。


 宝物庫では、管理担当者が新しい注意書きを作っていた。


 昨日の注意書きは、『世界樹の木の実、勝手に食べないこと』だった。


 しかし、それだけでは不十分だった。


 担当者は少し考えたあと、紙に大きく書き直した。『世界樹の木の実、絶対に食べるな』


 さらに、その下へ一文を追加する。


『特にラミ。』


「……これでよし」


 翌日。


 その注意書きを見つけたラミが首を傾げた。「なんで私だけ?」


 少し離れた場所で、リオンが腕を組む。


「昨日のことを思い出せ」


「……」ラミは少し考えた。「楽しかった!」


「反省しろ!」

 



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