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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第352話 世界樹の恵み


 病院で大騒ぎが起きた翌日。


 リオンは朝から執務室にいた、机の上には、昨日の研究記録。


 その横には、世界樹の葉と木の実について書かれた古い資料が積み重なっている。


「……一個で、あれか」


 昨日の老人の姿を思い出す、病気で弱っていたはずの老人が、一晩で元気になった。


 それだけなら喜ばしい、問題は、その後だ。


「ヒャッハー!」


 壁を叩きながら病院を修理し始めた老人の姿が、どうしても頭から離れない。


「……もう少し詳しく調べておく必要があるな」


 リオンはそう呟くと、以前、世界樹について説明してくれた魔法使いの貴族を呼んだ。


「お呼びでしょうか、陛下」


「聞きたいことがある」


「はい。何なりと」


 貴族が頭を下げる、リオンは机の上に置かれた世界樹の木の実を指差した。


「世界樹の葉と木の実は、どのくらい使えば効果が出る?」


「そうですね……」


 貴族は少し考え込んだ。


「古い伝承によれば、ほんの少量で十分だとされています」


「ほんの少量?」


「はい」貴族は頷いた。「そもそも世界樹の葉や木の実は、人間が手に入れられるようなものではありません。実際に使用した記録そのものが非常に少ないのです」


「なるほど……」リオンは腕を組んだ。


「じゃあ、昨日の老人にはどのくらい使った?」


「確認する」ゼルファが研究記録をめくる。「世界樹の葉は少量。木の実は……一個だ」


「一個……」貴族の顔が引きつった。「……それだけですか?」


「そうだけど?」


「それで十分すぎると思います」


「…………」リオンは黙った。


 隣にいたガルヴァンも腕を組む。「ということは……」


「うん」ゼルファが頷く。「あの爺さんがあそこまで元気になったのは、木の実一個の効果だろうね」


「……怖いな」ガルヴァンが素直な感想を漏らした。


 リオンも同じ気持ちだった。


「回復薬としては、とんでもないな」


「しかも、効果が強すぎる」ゼルファが苦笑する。


「普通の人に使ったら、どうなるか分からない」


「そこが問題だな」リオンは深く息を吐いた。「下手に使ったら、本当に大変なことになる」


 その後。


 三人は研究室へ戻った、机の上には、残された世界樹の葉と木の実が並べられている。


 改めて見ると、何の変哲もない植物にも見える。


 だが、その一つ一つが、とてつもない価値を持っている。


 リオンは木の実を眺めながら、ふと思った。「……これ、売ったら凄い金額になるんじゃないか?」


「まあ、間違いなく高値になるだろうね」ゼルファも木の実を眺める。「欲しがる国は多いと思うよ」


「治療に使えるなら、なおさらだな」ガルヴァンも頷いた。「でも、売るのか?」


 ガルヴァンの言葉に、リオンは黙り込んだ。


 確かに金になる、共和国の財政を考えれば、売却するという選択肢もある。


 だが、しばらく考えたあと、リオンは静かに首を横に振った。「……やめよう」


「どうして?」ゼルファが尋ねる。


 リオンは一枚の葉を手に取った。「これはゼオンが世界樹に魔力を分けたことで、もらったものだからな」


 葉を傷つけないよう、そっと指先で持つ。「金にするために持って帰ってきたわけじゃない」


「……そうだな」ゼルファが頷いた。


「研究に必要な分だけ使う」リオンは残った葉と木の実を見る。「それ以外は保存する」


 ガルヴァンが笑った。「それがいいと思うぞ」


「だろ?」リオンも少し笑う。


「こういうものは、後になって『もっと残しておけばよかった』ってなるからな」


「陛下らしいな」


「何だよ、それ」


「いや、悪い意味じゃない」三人は顔を見合わせて笑った。


 その日の午後。


 王城の宝物庫、金貨や宝石、貴重な魔道具などが厳重に管理されている場所に、ひとつの箱が運び込まれた。


「ここでいいか?」リオンが確認する。


「問題ないと思う」ゼルファが答える。


 ガルヴァンは箱の中を覗き込んだ。「本当にここに入れるんだな」


「ああ」


 箱の中には、世界樹の葉と木の実、量だけを見れば、大したものには見えない。


 しかし、その価値を知る者なら、絶対に粗末には扱わない。


 リオンは最後に蓋を閉じた。「……よし」

鍵を掛ける、さらに管理担当者へ向き直った。


「これは絶対に勝手に持ち出さないようにしてくれ」


「承知しました」


「それと…」リオンは少し迷ってから言った。「間違って食べたりしないように、目立つ場所に注意書きを貼っておいてくれ」


「……食べる人なんているか?」ガルヴァンが呟く。


「分からないぞ」


 ゼルファが真顔で返した。「世の中には、珍しい物を見ると『とりあえず食べてみよう』って考える人間がいるから」


「……」


 三人の頭に、ラミの姿が浮かんだ。


「……絶対にいるな」


「いるね」


「いると思う」三人とも同時に頷いた。


 宝物庫を出たところで、リオンは一度だけ振り返った。


「……世界樹の恵みが、共和国の宝物庫に入る日が来るとはな」


「しかも、ゼオンがきっかけなんだよな」

 ゼルファが笑う。


「あいつ本人は、そんな大変なことをしたなんて思ってないだろうけど」


「たぶん『葉っぱがいっぱい落ちてきた』くらいにしか思ってないぞ」ガルヴァンが言う。


「……ありそうだな」リオンは苦笑した。


 世界樹の葉と木の実、それは金貨より価値があるかもしれない。


 病に苦しむ人々を救う可能性を秘めた、貴重な恵み。


 そして、何より息子であるゼオンが、世界樹に力を分けたことで生まれたものだ。


「大切にしよう」リオンはそう呟いた。

「いつか、これが誰かの命を救うことになるかもしれないからな」


 三人は王城の廊下を歩いていく。


 その背後では、宝物庫の奥で世界樹の葉と木の実が静かに眠っていた。


 ガルリオン共和国に、新たに加わった一つの宝として。




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