第350話 世界樹の力は?
世界樹の葉と木の実の研究を始めて、数日が経った。
魔力の量や性質、葉と木の実の違い、保存状態による変化。
ゼルファたちはできる限り調べていた。
「……分からないな」
研究室の机に並べられた資料を見ながら、ゼルファが唸った。
「魔力が凄いことは分かった。でも、それがどういう効果につながるのかが全然見えてこない」
リオンも腕を組む。
「実際に回復するのか、確かめたいな」
「それはそうなんだけど……」ゼルファが困った顔をする。
「誰で試す?」
「そこなんだよな」
ガルヴァンも難しい顔をした、効果が分からないものを、誰かに試す。
簡単には決められない。
特に世界樹の葉と木の実は、普通の薬とは違う。
何が起こるのかさえ分からないのだ。
そんなときだった、医療関係者から、一人の老人について話が出た。
長い間、病を患っている老人だった。
治療を続けてきたものの、回復は難しく、残された時間も長くないと考えられている。
「……そうか」話を聞いたリオンは、しばらく黙っていた。
そして、静かに口を開く。
「本人が納得してくれるなら……試せるかもしれない」
「そうだな」ゼルファも頷く。「でも、あくまで本人の意思が最優先だ」
「分かってる」リオンはすぐに決めた。「まず本人に全部説明しよう」
三人は老人のもとを訪れた、世界樹の葉と木の実についてまだ効果が確認されていないこと。
場合によっては何も起こらない可能性もあること。
そして、未知のものを使う以上、安全だとは断言できないこと。
隠さず、すべて説明した、老人は黙って話を聞いていた。
しばらく考えたあと、穏やかな笑顔を浮かべる。
「わしにできることなら、協力しよう」
「……本当にいいんですか?」リオンが念を押す。
「ああ」老人はゆっくり頷いた。
「長いこと病気と付き合ってきたからな。今さら怖がっても仕方がない。それに……」
老人は少し笑った。「何か役に立てるなら、やってみたいじゃないか」
リオンは頭を下げた。「ありがとうございます」
ただし、一つ問題があった、リオンたちが直接動けば、周囲が騒ぐ。
何より、世界樹の葉と木の実の存在が知られれば、研究どころではなくなる可能性もある。
そこで三人は、簡単な変装をすることになった。
リオンは白衣を着る、ゼルファも眼鏡をかけ、いかにも研究者らしい格好になった。
「……俺まで医者なのか?」ガルヴァンが白衣を見つめる。
「三人で行った方が怪しまれないだろ」リオンが答える。
「いや、俺、医者に見えるか?」
「見えない」
「即答するなよ」
ゼルファが吹き出した。「でも、その体格で医者っていうのも、なかなか面白いな」
「お前ら、人を何だと思ってるんだ」
「護衛付きの医者」
「それ、もう医者じゃないだろ」
三人は小声で笑いながら、老人のもとへ向かった。
老人の前に、加工した世界樹の葉と木の実が用意された。
「これが世界樹の葉です」ゼルファが説明する。
老人は興味深そうに眺めた。「これが……世界樹か」
「はい」
「話には聞いたことがあるが、本当に存在するんだな」
「僕たちも、実物を見るまでは半信半疑でした」
ゼルファが苦笑する、老人も笑った。
「そうか」
そして、葉と木の実を見る。
「それじゃあ……いただこうか」
「無理はしないでください」リオンが声をかける。
「分かっている」老人はゆっくりと口にした。
三人は黙って見守る。
「…………」
「…………」
「…………」
数分が過ぎた、特に変化はない、老人はいつも通り座っている。
「……どうですか?」ゼルファが尋ねる。
「うん?」老人は少し首を傾げた。
「特に何もないな」
「そうですか……」
ゼルファは測定器を確認する。「魔力反応にも、大きな変化はない」
ガルヴァンも老人の様子を見る。「顔色も変わってないな」
「体調は?」
「いつもと同じだ」
リオンは腕を組んだ。「……駄目だったか」
さらに時間を置いて様子を見る、しかし、何も起こらない。
突然、元気になるわけでもない、魔力が爆発的に増えるわけでもない。
目立った変化は何一つなかった、ガルヴァンが首を傾げる。「世界樹の力って、もっとこう……分かりやすいものじゃないのか?」
「僕に聞かれても困るよ」ゼルファも苦笑する。「そもそも、本当に回復効果があるのかすら分かってないんだから」
「伝説だからな」
「そうなんだよ」
三人は顔を見合わせる。
「……困ったな」リオンが頭を掻いた。
老人はそんな三人を見て、申し訳なさそうに笑う。
「すまんな。役に立てなかったようだ」
「そんなことありません」リオンはすぐに答えた。「協力していただいただけでも十分です」
「そう言ってもらえるなら助かるよ」
その日はそれ以上の変化が見られなかった。
三人は老人に十分な休養を取ってもらい、研究室へ戻ることになった。
王城の研究室。
三人は机を囲んで黙り込んでいた、目の前には、研究中の世界樹の葉と木の実がある。
「……何も起きなかったな」ガルヴァンが呟く。
「うん」ゼルファも頷いた。
「世界樹の葉と木の実が偽物ってことはないよな?」
「それは絶対にない」ゼルファが即答する。
「魔力の量は間違いなく普通の植物とは違う。あれだけの魔力を持った植物なんて、他に見たことがない」
「じゃあ、どうして効果が出ない?」
「そこが分からないんだよ」ゼルファは椅子に背を預けた。「もしかしたら、回復効果が出るまで時間がかかるのかもしれない」
「あるいは、別の条件が必要なのかもしれないな」リオンが続ける。「世界樹の魔力を受けた人間にしか効果がない、とか」
「それも考えられる」
ガルヴァンが腕を組む。「じゃあ、まだ結論は出せないってことか」
「ああ」
リオンは椅子に座り、深く息を吐いた。
「世界樹の葉と木の実……まだまだ分からないことだらけだな」
「だからこそ、もう少し調べる必要がある」ゼルファが葉を見つめる。
「焦らず、条件を一つずつ確認していこう」
「だな」ガルヴァンも頷いた。
三人はしばらく黙って、机の上の世界樹の葉と木の実を眺めていた。
本当に伝説通りの力があるのか、それとも、何か別の条件が必要なのか。
今のところ、答えは出ていない。
ただ一つ分かっているのは世界樹の恵みには、まだ誰も知らない何かが隠されている。
「……もう少し付き合ってもらうぞ」リオンが葉を見つめながら呟く。
ゼルファとガルヴァンも静かに頷いた、研究は、まだ始まったばかりだった。




