第349話 世界樹の恵みを調べる
議会に飾られていた世界樹の葉と木の実。
その日の仕事が一段落すると、リオンは昨日、世界樹について説明してくれた魔法使いの貴族を執務室へ呼んだ。
「もう少し詳しく教えてくれ」
「はい」
貴族は机の上に置かれた世界樹の葉を見ながら、慎重に言葉を選ぶ。
「古い文献によれば、世界樹の葉や木の実には、非常に強い回復効果があるとされています」
「回復効果っていうのは?」
「傷を癒やすだけではありません。かなり重い傷や、長く患っていた病まで回復させたという記録があります」
「病気まで……?」
リオンの表情が変わった。
「ただし、古い文献に書かれているのは、ほとんどが伝承です。実際にどこまでの効果があるのかは……正直なところ、分かりません」
「なるほどな」
リオンは机の上の葉を手に取った。
見た目は普通の葉っぱに近い。
だが、これが本当に病気まで治せるのなら。
「……調べる価値は十分にあるな」
リオンは迷うことなく決めた。
「ゼルファを呼んでくれ。それとガルヴァンも」
「分かりました」
貴族が頭を下げ、部屋を出ていく。
リオンはもう一度、世界樹の葉を見つめた。
「ゼオンがもらってきたものが、まさかこんなものだったとはな……」
しばらくして、ゼルファとガルヴァンが執務室へやって来た。
「リオン、呼んだか?」
「何か面白いことでも見つかったのか?」
二人とも、普段と変わらない気軽な調子だった。
「まあな。これだ」
リオンが机を指差す。
二人の視線が葉と木の実へ向く。
「……世界樹?」
ゼルファが目を丸くした。
「そうだ」
「どうしてここにあるんだ?」
「ゼオンが世界樹に魔力を注いだら、突然、大量に落ちてきた」
「……相変わらず、とんでもないことするな。あいつ」
ゼルファは呆れたように笑った。
ガルヴァンも木の実を手に取ろうとする。
「それで?」
「世界樹の葉と木の実には、かなり強い回復効果があるらしい」
「本当か?」
「あくまで古い記録の話だ。だから、実際にどれほどの効果があるのか調べたい」
ゼルファの目が輝いた。
「それは面白そうだな」
「だろ?」
「魔力の性質も気になる。普通の植物とは明らかに違うんだろ?」
「そこも含めて調べてくれ」
「任せろ」
ガルヴァンも腕を組んで頷く。
「俺も手伝うぞ」
「頼む」
三人はそのまま研究室へ移動した。
研究室へ入るなり、ゼルファは研究者の顔になった。
「まずは魔力の測定からだな」
世界樹の葉を慎重に測定器へ乗せる。
機械が低い音を立てて動き始めた。
「…………」
ゼルファが測定結果を見つめる。
「……凄いな」
「どうだ?」
「普通の植物とは、まるで違う」
ゼルファは表示された数値を確認しながら呟く。
「葉そのものに、かなり強い魔力が蓄えられてる。しかも魔力の流れが安定している」
「安定してる?」
「ああ。普通の魔力とは少し違うな」
続いて木の実を測定器へ乗せる。
しばらくすると、ゼルファがさらに目を見開いた。
「こっちは……もっと凄い」
「木の実の方が強いのか?」
「魔力の濃度だけなら、明らかにこっちが上だ」
ガルヴァンが木の実をじっと見つめる。
「じゃあ、食べれば分かるんじゃないか?」
「…………」
「…………」
リオンとゼルファが同時にガルヴァンを見る。
「なんだよ?」
ガルヴァンは不思議そうな顔をする。
リオンは呆れたようにため息をついた。
「いきなり食べるなよ」
「いや、手っ取り早いだろ?」
「そういう問題じゃない」
ゼルファも吹き出した。
「ガルヴァン、お前は本当に変わらないな」
「だって気になるだろ」
「まあ……気持ちは分かるけどな」
リオンも思わず笑った。
「でも、貴重なものだからな。まずは安全を確認してからだ」
「分かったよ」
ガルヴァンは少し残念そうに木の実から手を離した。
笑っていた三人だったが、研究を始めるとすぐに表情が変わった。
世界樹の葉。
世界樹の木の実。
どちらも今までの常識では説明できないほどの魔力を秘めている。
もし文献に書かれている回復効果が本当なら。
怪我の治療だけではない。
病気の治療にも使える可能性がある。
そうなれば、この世界の医療そのものが変わるかもしれない。
ゼルファが測定器を操作しながら口を開く。
「慎重にやろう」
「ああ」
リオンも頷いた。
「ゼオンが世界樹からもらってきた、大切なものだからな」
「分かってる」
ゼルファは真剣な顔で頷く。
「無駄にはしない。できるだけ多くのことを調べてみる」
ガルヴァンも腕を組み、真面目な顔になった。
「なら、俺は実験の手伝いをする」
「頼む」
リオンは机の上に並べられた葉と木の実を見つめる。
「さて……どんな力を持っているのか、調べてみよう」
「ああ」
「始めるか」
三人は顔を見合わせる。
そして。
世界樹の恵みを解明するための研究が始まった。




