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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第347話 世界樹の恵み


 数日後。


 北部森林地帯を訪れていたゼオンの前に、精霊の女王が姿を現した。


「ゼオン様」


「女王様?」


 ゼオンが振り返る。


 精霊の女王は、いつもの穏やかな笑顔を浮かべていた。


「今日は、少しお願いがあって参りました」


「僕に?」


「はい。世界樹のところまで来ていただけませんか?」


 ゼオンは少し考えたあと、素直に頷いた。


「分かった」


「ありがとう」


 そのやり取りを聞いていたリオンが立ち上がる。


「俺たちも行こう」


「そうね。私も一緒に行くわ」


 リゼもゼオンの隣へ並んだ。


「ありがとうございます」


 こうして三人は、精霊の女王と一緒に精霊の都市へ向かうことになった。


 しばらく歩くと、木々の向こうに巨大な存在が見えてきた。


 世界樹だった。


「……大きい」


 ゼオンは思わず足を止め、首が痛くなるほど上を見上げる。


 何本もの巨木を束ねたような太い幹。


 枝は空いっぱいに広がり、その先では無数の葉が淡い光を放っている。


 何度見ても圧倒される光景だった。


 リオンも感心したように息を吐く。


「何度見ても、すごいな」


「ええ。本当に綺麗……」


 リゼも世界樹を見上げる。


 精霊の女王は、少しだけ寂しそうな顔をしていた。


「ですが……最近、世界樹の力が少し弱くなっているのです」


 ゼオンの表情が変わる。


「元気がないの?」


「はい」


 女王は世界樹を見つめながら答える。


「そこで、お願いがあります」


「何?」


「精霊王であるゼオン様の魔力を、少しだけ分けていただきたいのです」


 ゼオンは世界樹を見上げた。


「僕の魔力でいいの?」


「はい。ゼオン様の魔力なら、きっと世界樹も喜ぶでしょう」


 リオンはすぐにゼオンの肩へ手を置いた。


「ただし、無理はするなよ」


「うん」


 リゼも優しく微笑む。


「少しずつでいいからね」


「分かった」


 ゼオンは世界樹へ近づき、太い幹に両手を当てた。


「……」


 目を閉じる。


 体の中にある魔力を意識しながら、少しずつ外へ流していく。


 淡い光がゼオンの体から溢れ、世界樹の幹へ吸い込まれていった。


「おお……」


 周囲の精霊たちから感嘆の声が漏れる。


 ところが。


 ズズズ……。


 世界樹の幹がわずかに震えた。


「……え?」


 ゼオンが目を開ける。


 次の瞬間。


 ザァァァァァ……!


 世界樹の枝が大きく揺れ始めた。


「ゼオン、離れろ!」


 リオンが叫ぶ。


「えっ?」


 だが、遅かった。


 サラサラサラ……。


 大量の葉が空から降り始めた。


「わぁ……」


 ゼオンは思わず空を見上げた。


 太陽の光を受けた葉が、キラキラと輝きながら舞い落ちてくる。


 とても綺麗な光景だった。


 ただ。


「……ん?」


 葉っぱに混じって、何かが落ちてくる。


 ぽとっ。


「痛っ!」


 ゼオンの頭に木の実が直撃した。


「ゼオン!」


 リゼが慌てて駆け寄る。


「大丈夫!?」


「うん……」


 ゼオンが頭をさする。


 すると今度は。


 ぽと。


 ぽとぽと。


 ぽとぽとぽとぽと。


「ちょっと待って!」


 木の実の数がどんどん増えていく。


 さらに葉まで降り続け、ゼオンの足元を埋め始めた。


「ゼオン、こっちへ来い!」


 リオンが手を伸ばす。


「うん!」


 ゼオンも走ろうとした。


 しかし。


「うわっ!」


 足が葉に埋まった。


「ゼオン!」


 リオンとリゼが同時に駆け寄る。


「今、助ける!」


「頑張って!」


「うん!」


 二人が左右からゼオンを引っ張る。


 だが、葉は容赦なく降り続けた。


「まだ降ってくるのかよ!」


 リオンが思わず叫ぶ。


 あっという間にゼオンの腰まで葉が積もった。


「父さん! 母さん!」


「もう少しだ!」


「ゼオン、手を伸ばして!」


「うん!」


 二人が力を合わせ、ようやくゼオンを引っ張り出した。


「よし!」


 ゼオンは地面に転がり込む。


 頭から足まで葉っぱだらけ。


 しかも頭の上には、大きな木の実が一つ乗っていた。


「…………」


 リオンは息を切らしながらゼオンを見る。


「……大丈夫か?」


「うん」


「どこか痛くないか?」


「大丈夫」


「本当に?」


「うん」


 ようやく安心したリオンは、大きく息を吐いた。


「よかった……」


 リゼもゼオンの髪についた葉っぱを一枚ずつ取っていく。


「びっくりしたわね」


「うん……」


 ゼオンは少し恥ずかしそうに頷いた。


 その様子を見ていた精霊の女王も、驚いた顔で世界樹を見上げていた。


「……まさか、ここまで反応するとは」


 リオンは大量に積もった葉っぱを見回す。


「少しだけって言ってたよな?」


「はい……」


「これで?」


 女王は困ったように微笑む。


「……世界樹が、かなり喜んでいるようです」


「喜びすぎだろ」


 思わずリオンが呟く。


 リゼも苦笑した。


「ゼオンの魔力がよほど嬉しかったのね」


 ゼオンは世界樹を見上げる。


 先ほどまでどこか弱々しかった世界樹は、今では眩しいほどの光を放っていた。


 枝も葉も力強く揺れている。


『ありがとうございます!』


『精霊王様、ありがとう!』


『世界樹が元気になったよ!』


 周囲の精霊たちが一斉に喜び始める。


 ゼオンは少し照れながら笑った。


「これで元気になったなら、良かった」


 その言葉に、リオンとリゼも笑顔になる。


 しかし。


 足元には大量の葉っぱ。


 その上には大量の木の実。


 どう見ても大変な量だった。


 リオンはそれを眺め、ぽつりと呟く。


「……なあ」


「何?」


「これ、帰る前に片付けるのか?」


 精霊の女王は少し困ったような顔をした。


「いえ。これは世界樹の恵みですので、そのままで大丈夫です」


「……そうか」


 リオンは心の底からホッとした。


 自分たちで全部片付けることになったら、かなりの重労働だった。


 その横でリゼがゼオンの頭に残っていた木の実を取る。


「ほら、取れたわよ」


「ありがとう、母さん」


「どういたしまして」


 三人は笑いながら、もう一度世界樹を見上げた。


 精霊王となったゼオン。


 その最初の仕事は、弱っていた世界樹を元気にすることだった。


 そしてゼオンは、この日一つの大切なことを学んだ。


 魔力を注ぎすぎると、世界樹は元気になる。


 ただし。


 自分が葉っぱと木の実に埋まるほど、元気になることもある。


「……次は、もう少しだけにしよう」


 ゼオンが呟く。


 リオンとリゼは顔を見合わせ、笑った。


「そうだな」


「それがいいわね」


 世界樹の葉が、三人の頭上で優しく揺れていた。




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