第345話 精霊の女王、再び
数日後。
北部森林地帯には、いつもと変わらない穏やかな時間が流れていた。
子供たちは森の中で遊び、大人たちはそれぞれの仕事をしている。
ゼオンも精霊たちと話しながら、森の中を歩いていた。
「この辺りは、前より精霊が増えたね。」
『ゼオン様がいるからです!』
「僕が?」
『はい!』
ゼオンは照れくさそうに笑った。
その時だった。
森の上空から、淡い光が降りてくる。
精霊たちが一斉に騒ぎ始めた。
『女王様だ!』
『精霊の女王様が来た!』
ゼオンが空を見上げる。
「女王様?」
光の中から、精霊の女王が姿を現した。
「こんにちは、ゼオン様。」
「えっ……。」
ゼオンは少し驚いた。
「どうしてここに?」
「あなたに会いに来ました。」
「僕に?」
「はい。」
女王は微笑む。
「精霊王であるあなたが、普段どのように暮らしているのか知りたくて。」
「そ、そうなんだ……。」
ゼオンの顔が少し赤くなる。
その様子を遠くから見ていた二人がいた。
リオンとリゼである。
「……。」
「……。」
二人とも無言。
リオンの眉が少し動く。
「リゼ。」
「何?」
「女王が来たな。」
「ええ。」
「ゼオンと二人で話してるな。」
「ええ。」
「……。」
「……。」
二人の間に妙な沈黙が流れる。
リオンが小さく呟いた。
「なんか嫌だな。」
「私も。」
親としての、どうしようもない嫉妬だった。
しかし…。
リオンは深呼吸する。
「……我慢だ。」
「そうね。」
「ゼオンも成長していくんだからな。」
「そうよ。」
二人は自分に言い聞かせるように頷いた。
一方、ゼオンは女王を森の中へ案内していた。
「ここが僕たちがよく遊ぶ場所。」
「素敵ですね。」
「こっちは精霊たちが集まる泉。」
「綺麗です。」
「それから、あっちが…」
ゼオンは少し緊張しながらも、一生懸命説明している。
女王は楽しそうに耳を傾けていた。
「ゼオン様は、この森が好きなのですね。」
「うん。」
ゼオンは笑った。
「家族がいるから。」
「家族……。」
「父さんも母さんも、ルナおばさんも、アレリーナおばさんもいるし。」
「そうですか。」
女王は微笑む。
「あなたが大切にしている場所なのですね。」
「うん。」
ゼオンは少し照れながら頷いた。
その後ろ。
少し離れた場所から、リオンとリゼが見守っている。
「……楽しそうだな。」
「ええ。」
「ゼオン、あんなに照れてるぞ。」
「ええ。」
「……。」
「……。」
リオンが拳を握る。
「……俺は父親だ。」
「私は母親よ。」
「だから我慢する。」
「私も我慢する。」
二人は必死に耐えていた。
そこへラミがやって来た。
「リオン、リゼ、何してるの?」
「何でもない。」
「何でもないわ。」
二人とも即答した。
ラミは二人の視線を追う。
「……ゼオンと女王様?」
「……。」
「もしかして嫉妬してる?」
「してない。」
「してないわ。」
二人の声が重なった。
ラミはニヤニヤする。
「してるじゃん。」
「ラミ。」
リオンが睨む。
「はい。」
「余計なことを言うな。」
「はーい。」
ラミは笑いながら走っていった。
リオンは再びゼオンを見る。
女王と話しながら笑っている息子。
「……まあ。」
リオンは小さく笑った。
「ゼオンが楽しそうなら、それでいいか。」
リゼも頷く。
「そうね。」
二人は少し寂しそうに、そして嬉しそうに息子を見守った。
精霊王として。
そして、一人の少年として。
ゼオンは少しずつ、自分の世界を広げ始めていた。




