第343話 ラミの知ったかぶり
精霊の都市。
ゼオンが精霊王だと判明したことで、街は大騒ぎになっていた。
精霊たちはゼオンの周りを飛び回り、次々と話しかけている。
『精霊王様!』
『こっちにも来てください!』
『一緒に遊びましょう!』
「ちょ、ちょっと待って!」
ゼオンは完全に困っていた。
その様子を見ていたラミは、楽しそうに笑っている。
しかし…。
その隣では、リオンが腕を組んでラミを見ていた。
「……ラミ。」
「なに?」
「お前。」
「うん。」
「勝手に森の奥まで行ったことについて、まだ話が終わってないよな?」
「…………。」
ラミの笑顔が消える。
「……あ。」
思い出した。
リオンの説教タイムである。
「いや、その……。」
「帰ったらしっかり話を!」
「リオン!」
「なんだ?」
ラミは慌てて周囲を見回した。
そして突然、精霊の都市を指差す。
「この街ってすごいんだよ!」
「……。」
リオンが怪訝そうな顔をする。
「どうした、急に。」
「私、精霊の都市について詳しいよ!」
「ほう?」
リオンの怒りが少しだけ逸れた。
ラミは心の中でガッツポーズをする。
(よし!)
とにかく話題を変えればいい。
ラミは適当なことを言い始めた。
「まず、この街の家は精霊さんが寝るために作ったんだよ!」
「……本当か?」
「うん!」
もちろん知らない。
「それから、あの大きな木は!」
ラミが聖樹を指差す。
「あれは……精霊王専用の巨大な家!」
「…………。」
リオンが聖樹を見る。
「……家?」
「そう!」
ラミは勢いに任せる。
「ものすごく大きい家だから、精霊王が何千年でも住めるんだよ!」
ゼオンが振り返る。
「ラミ、それ本当?」
「たぶん!」
「たぶんって……。」
ゼオンが苦笑する。
リオンは少し考え込む。
「なるほどな。」
「信じた!」
ラミは心の中で喜ぶ。
しかし、ここで終わらせるわけにはいかない。
「あとね!」
「まだあるのか?」
「もちろん!」
ラミはさらに適当な説明を続ける。
「あの泉は、精霊さんが毎朝ジュースを作ってる場所!」
「ジュース?」
「うん!」
「……。」
リオンが泉を見る。
透明で美しい水が流れている。
「本当に?」
「うん!」
「じゃあ、誰のジュースだ?」
「精霊王!」
即答だった。
ゼオンが目を丸くする。
「僕?」
「そう!」
リオンが腕を組む。
「精霊王専用のジュースか……。」
リオンの顔から、さっきまでの怒りが完全に消えていた。
ラミは小さくガッツポーズをする。
(成功!)
だが…。
「ラミ。」
「なに?」
後ろから声がした。
精霊の女王だった。
「先ほどから聞いていましたが……。」
ラミの顔が引きつる。
「はい。」
「それは全部、間違っています。」
「…………。」
リオンが振り返る。
「ラミ?」
「……。」
「お前。」
「……はい。」
「適当に説明したな?」
「…………はい。」
リオンの額に青筋が浮かぶ。
「よし。」
「え?」
「帰ったら説教だ。」
「やだー!」
ラミが逃げ出す。
「待て!」
リオンも追いかける。
「お父さん怒ってる!」
「当たり前だ!」
「精霊の都市の説明をしたじゃん!」
「全部嘘だっただろ!」
「ちょっとだけ!」
「全部だ!」
精霊たちは二人を見ながら大笑いしている。
リゼは呆れながらも笑っていた。
「……ラミらしいですね。」
ルナも苦笑する。
「怒られるのを避けようとして、余計に怒らせちゃいましたね。」
アレリーナはゼオンを見る。
「あなたも大変ね。」
「うん……。」
ゼオンは苦笑した。
そして精霊の女王も、そんな親子のやり取りを眺めながら微笑む。
「……なるほど。」
「これが精霊王を育てた家族なのですね。」
その横では。
「ラミ! 止まれ!」
「いやー!」
今日も北部森林地帯には、親子の騒がしい声が響いていた。




