第342話 精霊王ゼオン
精霊の都市。
巨大な大樹の中に造られた謁見の間では、妙に張り詰めた空気が漂っていた。
リオンとリゼは、まだ武器を手にしている。
その向かいには、精霊の女王。
そして、その間に挟まれるようにゼオンが立っていた。
「……父さん。」
「なんだ?」
「もう武器、しまっていいんじゃない?」
「説明を聞いてからだ。」
「母さんも?」
「もちろんです。」
リゼも即答する。
「ゼオンにいきなり求婚した理由を聞くまでは、納得できません。」
「……はい。」
精霊の女王は困ったように頷いた。
女王は静かに立ち上がった。
「まず、皆様にお伝えしなければならないことがあります。」
広間に集まっていた精霊たちが一斉に静かになる。
「ゼオン様は…」
一拍置く。
「私たち精霊族にとって、特別な存在です。」
リオンが眉をひそめる。
「特別?」
「はい。」
女王はゼオンを見る。
「ゼオン様は、精霊王です。」
「…………。」
リオンが固まった。
リゼも固まる。
当のゼオンはというと。
「……僕?」
自分を指差している。
「精霊王?」
「そうです。」
女王が微笑む。
「この都市にいるすべての精霊が、あなたを王として認めています。」
「いやいやいや。」
ゼオンは慌てて首を振る。
「僕、何もしてないよ?」
その瞬間、周囲の精霊たちが一斉に声を上げた。
『してるよ!』
『いつも助けてくれる!』
『僕たちの話を聞いてくれる!』
『森の動物にも優しい!』
『何より、僕たちの声がちゃんと聞こえる!』
ゼオンは困ったように笑う。
「それくらい普通じゃない?」
リオンは思わず額を押さえた。
「……お前な。」
リゼも苦笑する。
「昔からそういうところがありますね。」
女王は話を続ける。
「精霊王とは、最も強い精霊という意味ではありません。」
「では?」
リオンが尋ねる。
「精霊たちの心をまとめる存在です。」
女王はゼオンを見る。
「精霊族は、王を力だけでは選びません。」
「その者が精霊を理解し、精霊もまた、その者を信頼できるか。」
「それが最も重要なのです。」
周囲の精霊たちがゼオンの周りに集まる。
『ゼオン様!』
『精霊王様!』
『大好き!』
「ちょ、ちょっと待って!」
ゼオンが慌てる。
「僕、王様になった覚えないよ!」
ラミが笑う。
「ゼオン、王様だったんだ!」
「僕も知らなかったよ!」
リオナも楽しそうに笑った。
「ゼオン王様!」
アレンまで、
「がおー!」
と鳴く。
「アレンまで!」
ゼオンは真っ赤になった。
リオンは女王を見る。
「……それで。」
「はい。」
「なぜ求婚した?」
女王は少し恥ずかしそうに答えた。
「精霊王であるゼオン様には、将来、精霊族を導いていただくことになります。」
「なるほど。」
「そして私は精霊の女王です。」
女王は少しだけ頬を赤くする。
「ですから……その……。」
「まさか。」
リオンの目が細くなる。
「精霊王と精霊女王だから、結婚した方がいいと思ったのか?」
「……はい。」
リオンの額に、また青筋が浮かんだ。
ピキッ。
「それは政治的な理由か?」
「いえ。」
女王は真剣な顔で答える。
「最初はそう考えていました。」
「最初は?」
「ですが、ゼオン様本人と話しているうちに……。」
女王は少し微笑む。
「本当に好きになってしまいました。」
「……。」
リオンが黙る。
リゼも黙る。
ゼオンは完全に固まった。
「え……。」
耳まで真っ赤になる。
「好きって……。」
ラミがニヤニヤする。
「ゼオン、告白されたね。」
「ラミ!」
リオンは深く息を吐いた。
「……まあ、事情は分かった。」
剣を鞘へ戻す。
リゼも武器を下ろした。
「ですが、ゼオンはまだ子供です。」
「承知しています。」
「本人が望まない限り、婚約も結婚も認めません。」
リオンがはっきりと言う。
「それは精霊王でも同じだ。」
女王は頷いた。
「もちろんです。」
ゼオンは両親を見る。
「父さん、母さん……。」
リオンはゼオンの頭に手を置いた。
「お前が精霊王だろうが、俺たちにとっては息子だ。」
リゼも微笑む。
「そうよ。」
「王様だからって、一人で何でも決めなくていいの。」
ゼオンは少し照れながら笑った。
「……うん。」
すると、精霊たちが一斉にゼオンの前へ集まってきた。
『精霊王様!』
『これからもよろしくお願いします!』
『一緒に遊ぼう!』
「うん!」
ゼオンは笑顔で答える。
その姿を見ながら、リオンは小さく呟いた。
「まさか……うちの息子が精霊王だったとはな。」
リゼも苦笑する。
「本人が一番分かっていないのが問題ですけどね。」
「そこはこれから教えていけばいい。」
リオンは笑う。
精霊の女王も微笑んだ。
こうして。
ゼオンが精霊族の頂点に立つ存在。
精霊王であることが、正式に明らかになった。
ただし本人はというと。
「ねえ父さん。」
「なんだ?」
「精霊王って……何すればいいの?」
「……。」
リオンは少し考えた。
「まずは、帰って母さんに怒られないようにすることだな。」
「それ、王様の仕事なの?」
精霊の都市に、子供たちの笑い声が響いた。




