第338話 小さな冒険者たち
北部森林地帯。
昼下がりの穏やかな陽射しが森を照らしていた。
見た目が幼児になった、アレンは大きく息を吸い込み、ゆっくりと目を閉じる。
「……いくよ」
その小さな体を黒い光が包み込んだ、眩い光が収まるとそこには漆黒の鱗を持つ小さな黒龍が立っていた。
以前のように暴れることはない、ゆっくりと翼を広げ、アレンは自分の意思でその姿を保っていた。
「わぁ!」ラミが思わず拍手をする。
「すごいじゃん! 前よりずっと上手!」
ゼオンも目を輝かせる。
「本当に自分で変身できるようになったんだ!」
リオナは嬉しそうに駆け寄った。
「アレン、かっこいい!」
褒められたアレンは照れくさそうに鼻を鳴らし、人の姿へ戻る。「えへへ……」
その様子を見守っていたアレリーナは、胸を撫で下ろした。
「まだ完璧じゃないけど……焦らなくていいよ。」
そう言って優しく頭を撫でる。
「少しずつできるようになってる。それだけで十分だから。」
「……うん!」アレンは嬉しそうに頷いた。
その笑顔を見て、アレリーナも自然と微笑む、我が子が一歩ずつ成長している、母親として、それが何より嬉しかった。
昼食を食べ終えると、ラミが木の枝を一本拾い上げた。
剣のように構えると、元気よく宣言する。
「よーし!」
三人が振り向く。
「今日はみんなで冒険に行こう!」
「行く!」ゼオンが真っ先に賛成した。
「リオナも行く!」リオナも両手を上げて大喜びする。
アレンは黒龍へ変身すると、小さく翼を広げた。「がおー!」
その姿にラミが笑う。
「じゃあ決まり!」
四人は顔を見合わせると、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「内緒で行こう!」
「うん!」
誰にも気づかれないように、こっそり森の奥へ歩き出した。
最初は、本当に楽しい冒険だった。
「見て見て!」リオナが色鮮やかな花を見つける。
「きれい!」ラミは花を髪に飾ってあげた。「似合ってる!」
リオナは照れながら笑う。
ゼオンは木の実を見つけて木に登る。
「これ食べられるかな?」
「あとでお母さんに聞こう!」ラミが笑いながら答えた。
アレンは黒龍の姿で低く飛び回り、三人の頭の上をぐるりと旋回する。
「すごーい!」子どもたちの笑い声が森いっぱいに広がった。
「本当に冒険者になったみたい!」
ラミの一言に、三人も元気よく頷いた。
しかし、楽しい時間は長くは続かなかった。
「あれ?」ラミが足を止める、辺りを見回しても、見覚えのある景色がない。
「……こっちだっけ?」
ゼオンも周囲を見渡す。
「違うと思う……。」
少しずつ笑顔が消えていく、リオナは不安そうにラミの服を掴んだ。
「ラミお姉ちゃん……帰れるよね?」
その小さな声に、ラミは笑顔を作ろうとした。「だ、大丈夫!」
そう言ったものの、自分でも道が分からない。
胸の鼓動が速くなる、その時だった。
グルルルル……。
低く響く唸り声、三人は同時に振り向いた。
木々の隙間から現れたのは、大人ほどもある巨大な魔物だった。
鋭い牙、太い爪、黄色く光る瞳が、子どもたちをじっと見つめている。
リオナが震えた。「こ、怖い……。」
ゼオンはすぐにリオナの前へ立つ。
「大丈夫。僕が守る。」
ラミも震える手で木の枝を握り締めた。
「みんな、下がって。」
アレンは黒龍の姿のまま前へ出る、まだ幼いがそれでも家族を守ろうと、魔物を睨み返した。
森を吹き抜ける風だけが静かに音を立てる、誰も動けなかった。
一方、その頃、ガルリオン共和国王城。
執務室で山積みの書類と格闘していたリオンの前に、一体の精霊が勢いよく飛び込んできた。
『リオン!』
その慌てぶりに、リオンは嫌な予感を覚える。
「どうした!」
『ラミたちがいない!』
「……何?」
『四人で森へ行っちゃった!』
リオンの顔色が変わった。
「ラミ!マジか?」
ちょうどその時、リゼが飛び込んでくる。「ゼオンが見つかりません!」
続いてルナ。「リオナもいません!」 その声は今にも泣き出しそうだった。
さらにアレリーナも駆け込む。
「アレンも一緒なの!?」
部屋の空気が一瞬で凍りつく、リオンは迷わず剣と銃を掴んだ。
「精霊門を開け!」
眩い光が執務室を包む、門が開くと同時に、リオンは飛び込んだ。
「急ぐぞ!」
リゼ、ルナ、アレリーナも続く。
「ラミ!」「ゼオン!」「リオナ!」
「アレン!」
必死に子どもたちの名前を呼ぶ声が、静かな森へ響き渡っていった。




