第337話 ガルリオン魔導博覧会
魔導列車の開通は、ガルリオン共和国だけの話では終わらなかった。
リオンは各国へ一通ずつ招待状を送り、新しい時代の幕開けをその目で見てもらおうと考えた。
招かれたのは、グランゼル王国、セルトリア王国、レオルディア王国をはじめとする周辺諸国の王族や使節団、そして各地で活躍する商人たち。
共和国建国以来、最大規模となる催し、 その名は『第一回 ガルリオン魔導博覧会』
開催当日、王都はかつてないほどの賑わいを見せていた。
駅には魔導列車が次々と到着し、遠方からの来賓を迎え入れる。
初めて列車に乗った者たちは、窓の外を流れる景色に目を丸くしていた。
「……静かだ。」
「しかも、速い。」
「馬車とは比べものにならないな」
「これが噂の魔導列車か……」
驚きの声があちこちから聞こえてくる。
リオンは巨大な路線図を広げ、各国の王や使節団へ説明を始めた。
「この鉄道は王都だけのものではありません。」
路線図には、現在の線路だけでなく、未来の計画まで描かれている。
「将来的には各国との国境まで線路を延ばし、国と国を結ぶ予定です。」
その言葉に会場がざわめいた。
今まで何週間もかかっていた移動が、数日、あるいはそれ以下になるかもしれない。
物流は活発になり、人も物も今まで以上に行き交うようになる。
商人だけではない、旅人や学者、職人たちも自由に各国を訪れられるようになるだろう。
各国の王たちは顔を見合わせ、大きく頷いた。
これは単なる鉄道ではない、大陸の未来を変える道だった。
博覧会の会場には、共和国が開発した最新の魔導具が数多く並んでいた。
魔導冷蔵庫、魔導洗濯機、魔導照明。
日本との共同開発によって生まれた品々も展示され、多くの来場者が足を止める。
「これは家庭でも使えるのですか?」
「はい。魔石一つで長期間稼働します!」
質問攻めにあっているゼルファは、額の汗を拭きながらも嬉しそうだった。
「こちらが最新型の魔導冷蔵庫です! 食料を長く保存できるので、商人の皆さんにも好評なんですよ!」
隣ではミレナも来場者へ丁寧に説明を続けている。
研究所の展示ブースは一日中人が途切れることなく、大盛況だった。
夜になると、王都の灯りが少しだけ落とされる。
静まり返った夜空へ、一発の花火が打ち上がった。
ドォン――!
続いて二発、三発、色鮮やかな光の花が夜空いっぱいに咲き誇る。
「きれい……」
「こんな祭りは見たことがない」
各国の来賓たちは子どものように空を見上げ、歓声を上げていた。
リオンも腕を組みながら微笑む。
「やっぱり日本の花火は、人の心を動かすな」
その横でルナは目を輝かせ、リゼも静かに夜空を見上げていた。
翌日は武術大会。
共和国だけでなく、各国から集まった剣士や冒険者たちが腕を競い合う。
観客席は満員、試合が始まるたび、大きな歓声が競技場を包んだ。
そして、司会者が勢いよく叫ぶ。
「続きまして、本大会をさらに盛り上げてくれる特別ゲストの登場です!」
その言葉を聞いた瞬間、リオンの胸に嫌な予感が走る。
「……まさか」
軽快な音楽が流れ始める、そして、現れたのはクマ神様の着ぐるみだった。
『我は神なりー!』
両手を振りながら陽気に踊る姿に、子どもたちは大興奮する。
「クマ神様だー!」
「かわいいー!」
さらに何体もの着ぐるみが現れ、一斉に踊り始めた。
その光景を見た瞬間、リオンの笑顔が消えた。
「……」
隣にいた聖女フィーナも同じ表情をしている。
「……」
二人はゆっくりと顔を見合わせた。
「思い出した……」
リオンが遠い目で呟く。
「ええ……」
フィーナも力なく頷いた。
「あの地獄みたいな一か月を……」
二人の目は完全に死んでいた、その様子を見たリゼとルナは、必死に笑いをこらえて肩を震わせる。
一方でラミたちは着ぐるみに飛びつき、一緒になって踊り始めていた。
「クマ神様ー!」
子どもたちの笑顔に包まれる会場とは対照的に、リオンとフィーナだけは複雑そうな顔を浮かべていた。
こうして第一回ガルリオン魔導博覧会は、大きな成功を収めた。
各国との技術交流は一気に進み、鉄道の共同整備計画も具体的な話し合いが始まる。
商人たちは新たな交易路の誕生を歓迎し、各国の王も「争うより協力する時代だ」と口を揃えた。
戦争ではなく交易、武力ではなく技術、魔導列車は人だけではなく、国と国との信頼までも運び始めていた。
その後も共和国の内政は安定し、ガルリオン共和国は大陸屈指の経済国家として、その名を広く知られるようになる。
博覧会の最後、賑わう会場を見渡しながら、リオンは穏やかな笑みを浮かべた。
「……これが、俺の目指していた国なんだ」
戦いの日々を思えば、目の前の光景は夢のようだった。
そのとき、遠くから陽気な音楽が聞こえてくる。
『我は神なりー!』
クマ神様の着ぐるみたちが、今日も元気いっぱいに踊っていた。
それを見つけたリオンとフィーナは、ほぼ同時に視線を逸らす。
「……あれだけは、もう勘弁してほしい」
「本当に、それだけは」
二人の切実な願いに、周囲は堪えきれず大きな笑い声を上げた。
平和な時代には、こんな笑い話がよく似合うのだった。




