第336話 開通式の大騒動
「へ、陛下! 大変です!」
開通式の最中、一人の兵士が人混みをかき分けながら駆け込んできた。
肩で大きく息をし、顔は真っ青だ。
ただ事ではない様子に、祝賀ムードだった駅の空気が一変する。
リオンは兵士の前へ歩み寄った。
「何があった!」
「北部森林地帯行きの第一便が……出発できません!」
「故障か?」
「い、いえ!」
「では事故か?」
兵士は何度も首を横に振る。
「線路が塞がれています!」
その一言で、リオンの表情が険しくなる。
「魔物か!」
「違います!」
「じゃあ何だ!」
兵士は一瞬ためらい、小さく息を吸った。
「……ドラゴンです。」
「…………は?」
リオンだけでなく、その場にいた全員の思考が止まった。
駅員に案内され、一行はホームの先へ急ぐ。
そして、その光景を見た全員が言葉を失った。
線路のど真ん中、赤龍カミリア、白龍アレリーナ。そして、小さな黒龍アレン。
三頭が仲良く並び、気持ちよさそうに眠っていた。
「…………」
「…………」
さっきまで賑やかだった駅が、水を打ったように静まり返る。
ゼルファは額に手を当て、大きくため息をついた。
「よりによって……なんで線路なんだよ……」
カミリアは大きないびきをかきながら熟睡している。「ぐぅ……すぅ……」
アレリーナも翼を体に寄せ、穏やかな寝顔を浮かべていた。
アレンは二頭に挟まれ、安心しきった表情で小さく寝息を立てている。
そのあまりに平和な光景に、怒るより先に力が抜けた。
リオンは額を押さえながら呟く。
「……誰だよ。」
一拍置いて、さらに深いため息をつく。
「誰が線路の上で寝ろなんて言ったんだ……」
「はーい!」
元気よく手が上がった、全員の視線が、一斉にラミへ向く、ラミは悪びれる様子もなく笑顔だった。
「みんなで日向ぼっこしてたら、そのまま寝ちゃった!」
リオンはゆっくりと天を仰いだ。
「……ラミぃ(線路に魔力が流れて暖かいのか?)」
疑問と呆れと諦めが入り混じった声だった。
リゼは思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えている。
ルナは口元を押さえながら肩を震わせていた。
駅員たちは恐る恐るドラゴンへ近付く。
「お、お客様ー! 起きてくださーい!」
返事はない、鐘を鳴らしてみる。
カラン、カラン。
それでも起きない、今度は魔導ホーンを鳴らした。
ブオォォォーーッ!
カミリアは一度だけ寝返りを打ち、また気持ちよさそうに眠り始めた。
駅員は苦笑いを浮かべる。
「……よほど気持ちよかったんでしょうね」
リオンはアレリーナの前まで歩いていき、そっとしゃがみ込む。
「アレリーナ。」
優しく頭を撫でる、白い耳がぴくりと動いた。「……ん……リオン?」
ゆっくりと目を開けたアレリーナは、まだ夢の続きを見ているような表情だった。
「おはよう。」
「……おはよう」
眠そうに返事をしたあと、周囲を見回す。
ホーム、線路、大勢の人。そして、止まったままの魔導列車。
「あ……」
数秒遅れて状況を理解した。
「ご、ごめんなさい!」
慌てて飛び上がる、その拍子にアレンも目を覚ました。
「がお?」
眠そうに首を傾げる姿に、見物していた子どもたちから思わず笑い声が漏れた。
一頭だけ動かない。「ぐぅぅ……」カミリアである。
リオンは肩を軽く叩く。「カミリア。」返事はない。
「起きろ。」……反応なし。
完全に熟睡していた、リオンは諦めたようにアレリーナを見る。
「アレリーナ。」
「うん。」
「頼めるか?」
アレリーナは無言で頷くと、大きく尻尾を振り上げた。
次の瞬間、バシィィン!
「ぎゃああっ!?」
乾いた音が駅中に響く、飛び起きたカミリアは頭を押さえながら叫んだ。
「な、何するのよ!」
アレリーナは腕を組み、呆れたように言う。
「線路の上で寝るから。」
「……え?」
カミリアは周囲を見渡した、止まった列車、大勢の観客、兵士たち。
そして、苦笑いするリオン。
「…………」
数秒の沈黙。
「……やっちゃった。」
その一言に、駅中が大きな笑いに包まれた。
三頭が線路から退くと、ホームには自然と拍手が湧き起こる。
ゼルファは額の汗を拭きながら苦笑した。
「まさか開通初日の遅延理由が『ドラゴン三頭による昼寝』になるとは思わなかった」
リオンも笑いながら肩をすくめる。
「間違いなく歴史に残るな」
「教科書には載せないでほしくない」
二人は顔を見合わせ、思わず笑った。
やがて魔導列車は改めて汽笛代わりの魔導ホーンを響かせる。
ゆっくりと車輪が回り始めると、ホームから大きな歓声が上がった。
人々は手を振り、子どもたちは列車を追いかけるように走っていく。
共和国初の魔導列車は、多くの期待と笑顔を乗せ、北部森林地帯へ向けて走り出した。
その姿を見送りながら、リオンは穏やかに微笑む。
「……これも平和だからこそ起きる騒動なんだろうな」
隣ではリゼが優しく笑い、ルナも大きく頷いた。
今日もガルリオン共和国は、どこか騒がしく、そして平和だった。




