第335話 魔導列車、出発進行!
長く続いた戦乱は終わりを告げ、ガルリオン共和国はようやく「未来」を語れる国になっていた。
王城の執務室。
大きな机いっぱいに広げられた設計図を前に、リオンとゼルファは真剣な表情で向き合っていた。
「……本当に実現できるのか?」
複雑な図面を見つめながら、リオンが静かに問いかける。
ゼルファは設計図の一部を指でなぞり、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「できる。魔石を動力にすれば蒸気も石炭も必要ない。日本の鉄道技術と、この世界の魔導技術。その二つを組み合わせれば、きっと誰も見たことのない乗り物になる」
しばらく設計図を見つめていたリオンは、小さく笑った。
「夢物語じゃなく、本当にやれるって顔だな」
「もちろん」
「なら、やろう」
その一言で、共和国史上最大規模の公共事業が動き始めた。
工事は一年近く続いた。
日本からは測量技術や線路建設のノウハウが提供され、共和国の職人やドワーフたちは朝から夜遅くまで汗を流した。
谷には橋が架けられ、険しい山にはトンネルが掘られる。
一本、また一本と線路が延びるたび、人々は歓声を上げた。
王都と主要都市。
そして、北部森林地帯。
これまで何日もかかっていた道のりが、一つの線路で結ばれていく。
その光景を見た老人は涙ぐみ、子どもたちは完成前の線路を見ながら目を輝かせていた。
「本当に列車が走るんだって!」
誰もが、新しい時代の始まりを感じていた。
そして、迎えた試運転の日。
朝日を浴びて銀色に輝く魔導列車が、静かにホームへ姿を現す。
魔石エンジンが淡い青白い光を放ち、低く唸るような音が響いた。
ゴォォォ……。
ゆっくりと車輪が動き始める。
次の瞬間、列車は滑るように加速し、草原へ飛び出していった。
窓の外では景色が流れるように後ろへ消えていく。
リオンは前世、思い出しおもわず笑みを浮かべた。
「……速いな」
馬では決して味わえない速度だった。
向かいに座るゼルファも嬉しそうに頷く。
「馬車とは比べものにならん。人も荷物も一度に大量に運べる。共和国はもっと便利になる」
リオンは窓の外を眺めながら、小さく息を吐いた。
「戦争で壊した国を、今度は俺たちの手で豊かにする……ようやく、その一歩を踏み出せたな」
ゼルファは黙って頷き、二人は固く握手を交わした。
魔導列車の運行が始まると、共和国は目に見えて変わり始めた。
朝に収穫された野菜は、その日のうちに王都の市場へ並ぶ。
商人は都市を短時間で往復できるようになり、商売の幅も大きく広がった。
北部森林地帯からは木材や鉱石が大量に運ばれ、日本との交易もこれまで以上に活発になる。
市場には各地の名産品が並び、人々の笑顔も増えていった。
税収も右肩上がりに伸び、共和国の財政はかつてないほど安定していく。
財務担当官は報告書を抱え、興奮を隠せない様子で執務室へ飛び込んだ。
「陛下! 今年の税収は過去最高を記録しました!」
その言葉に、リオンは静かに微笑む。
「そうか……」
報告書を閉じると、窓の外へ視線を向けた。
「ようやく戦争じゃなく、産業で国を豊かにできるようになったんだな」
その声には、王としての安堵がにじんでいた。
そして、迎えた開通式当日。
王都駅には朝早くから多くの国民が詰めかけ、色鮮やかな旗が風にはためいている。
ホームにはリオン、リゼ、ルナ、アレリーナ、ゼルファ、ミレナをはじめ、多くの来賓が並び、式典は盛大な雰囲気に包まれていた。
リオンは演台へ立ち、集まった国民をゆっくり見渡す。
「この魔導列車は、人と人をつなぎ、町と町を結び、共和国の未来を切り開く希望の道だ」
一拍置き、力強く締めくくる。
「この列車が、ガルリオン共和国の未来を運び続けることを願う!」
大きな拍手が駅中に響き渡った。
ゼルファは照れくさそうに笑いながら運転席へ乗り込み、窓から親指を立てる。
「それじゃあ、出発進行!」
魔導ホーンが高らかに鳴り響き、列車がゆっくりと動き始めた。
誰もが笑顔だった。
その瞬間、「陛下ぁぁぁぁっ!!」
駅の反対側から、一人の兵士が息を切らしながら全力で駆け込んできた。
鎧は土埃にまみれ、顔色は青ざめている。
リオンはすぐに表情を引き締めた。
「どうした!」
兵士は肩で荒く息をしながら叫ぶ。
「た、大変です! 開通式で、大きなトラブルが発生しました!」
さっきまで祝福の空気に包まれていた駅は、その一言で一瞬にして静まり返る。
笑顔は消え、人々は不安そうに顔を見合わせた。
新時代の幕開けを祝うはずの日に、思いもよらぬ事件が幕を開けようとしていた。




