↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

346/433

閑話 護衛はつらいよ


 ガルリオン共和国の王族護衛隊。


 それは数ある任務の中でも、選び抜かれた者だけが任される栄誉ある仕事だ。


 王族の命を守り、常に最前線に立つ。そんな誇り高い任務……のはずだった。


「ラミ様! そんなに走ったら危ないよ!」


「わーい!」


 王都の市場をラミが元気いっぱいに駆け抜ける。


 少し後ろではゼオンが必死に追いかけ、そのさらに後ろからは、よちよち歩きのリオナが一生懸命ついていく。


「まってぇ!」


 転びそうになりながらも笑顔を浮かべるリオナを見て、市場の人々も思わず頬を緩めた。……だが、そのさらに後ろでは。


「急げ!」

「ラミ様を見失うな!」


 精鋭護衛隊が汗だくになって追いかけていた。


「なんで毎回こうなるんだ……!」 

  

 一人がぼやく。


「愚痴を言う暇があったら足を動かせ!」


 隊長の一喝が飛ぶ。


 王族護衛は、今日も全力疾走から始まる。


 ようやく追いついたと思った矢先、ラミは屋台の前でぴたりと足を止めた。


「あっ! これ食べたい!」


 串焼きを指差したかと思えば、「果物も!」次は色鮮やかな果物屋。


「あっ、おもちゃ!」木彫りの人形を見つけると、目を輝かせる。


「全部ください!」


 店主は満面の笑みだ。

「ありがとうございます!」

 

 ……そして、ラミは当然のように後ろを振り返る。「お願い!」


 護衛たちと目が合った。「……はい」


 一人が静かに財布を取り出す。隊長が肩を叩いた。「経費で落ちる」


「でも今は自腹ですよね……」


「そうだ」


 財布から銀貨が消えていく音が、妙に切なかった。


「ありがとう!」ラミは満面の笑み。


 もちろん悪気など一切ない。


「隊長」


「なんだ」


「今日だけで何回払いました?」


「数えるな」


「もう財布が軽いです」


「あとで返ってくる」


「"あとで"なんですよ……」若い護衛は遠い目をした。


 その時だった。


「あっ!」


 ラミが何かを見つける。「猫!」細い路地へ一直線。


「待って!」ゼオンも飛び出し、「きゃー!」リオナまで笑いながら追いかける。


 隊長が頭を抱えた。「またか!追え!」


 市場中を護衛たちが駆け抜ける、八百屋の店主が笑う。「今日も元気だねぇ」


「元気すぎます!」護衛の叫びが市場に響いた。


 ようやく捕まえたと思えば、今度は橋の上だった。


「お魚!」ラミは欄干から川を覗き込む。


「危ないです!」護衛が慌てて支える。


 するとラミは振り返って笑った。


「向こう行こう!」また走り出す。


「待ってくださーい!」護衛隊も全力で追いかける。


 市場の人々は、その様子を見て笑っていた。


「今日も護衛さんは大変そうだね」

「平和ってことさ」


 そんな声があちこちから聞こえてくる。


 昼頃になると、護衛たちはすっかり疲れ切っていた。


「はぁ……」

「足が……」


「これ、本当に護衛任務ですか?」若い隊員が肩で息をする。


 隊長は苦笑しながら答えた。「戦場より疲れる日もある」


「否定できません……」全員が静かに頷いた。


 その時。


 小さな石につまずき、ゼオンが前へ倒れそうになる。


「坊っちゃん!」


 一人の護衛が素早く抱き上げた。


「大丈夫ですか?」


 ゼオンはにっこり笑う。

「ありがとう!」


 その笑顔だけで、不思議と疲れが吹き飛ぶ。


 一方、リオナは護衛の指をぎゅっと握って離さない。


「きゃっ」


「お嬢様、今日はよく歩きましたね」


 眠そうに目をこするリオナを見て、護衛たちの表情も自然と緩んでいった。


 夕暮れ、王城へ戻る道。


「明日も遊ぶ!」ラミはまだ元気いっぱいだった。


「もちろん!」ゼオンも負けじと返事をする。


 その横では、遊び疲れたリオナが護衛の肩ですやすやと眠っていた。


 その寝顔を見て、隊長は思わず笑みを浮かべる。


「……平和だな」


 戦争もない、魔物の襲撃もない、聞こえてくるのは子どもたちの笑い声だけ。


 隣を歩く護衛も頷いた。

「ええ。本当にいい国です」


 隊長は前を走るラミを見つめながら苦笑する。「……ただし、護衛だけは楽じゃないがな」


 その言葉に護衛たちは顔を見合わせ、思わず笑った。


 明日もきっと、ラミは元気いっぱいに町を駆け回るだろう。


 ゼオンもリオナも、その後を楽しそうについていく。


 そして、今日と同じように精鋭護衛隊は全力で走り続ける。


 それが、ガルリオン共和国で一番忙しく、そして誰よりも子どもたちの笑顔を近くで見守れる。


 少しだけ幸せな護衛任務なのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。