第328話 ヘリオスの天罰
翌朝。
王都はいつもと変わらない朝を迎えていた。
……ただ一人を除いて。
「いやああああっ!」
教会の奥から響いた悲鳴に、神官たちは一斉に駆け出した。
「フィーナ様!」
「どうなさいました!」
勢いよく部屋の扉を開けた神官たちは、その場で動きを止める。
「……え?」
「な、何ですか、それは……」
部屋の中央には、巨大なクマのぬいぐるみが立っていた。
いや、違う。
中から聞こえてくる声は、間違いなくフィーナだった。
「助けてください~!」
丸い耳に、ふわふわの体。大きな肉球の付いた手で頭を引っ張っているが、ぬいぐるみはびくともしない。
「脱げません!」
腕を引っ張っても、体をよじっても結果は同じだった。
神官たちも慌てて手伝う。
「失礼します!」
「一、二の、三!」
全員で引っ張る、しかし、ぬいぐるみは少しも動かなかった。
「解除魔法を解呪も試してください!」
浄化、解除、解呪。
思いつく限りの魔法をかけても、効果はまるでない。
その時だった。
『我は神なり』
どこからともなく聞き覚えのある声が響く。
神官たちは思わず顔を見合わせた。
「まさか……」
「神罰、なのでしょうか」
誰も笑えなかった。
一方その頃。
王城では兵士がリオンへ報告を届けていた。
「……本当なのか?」
「はい。フィーナ様がクマのぬいぐるみ姿になり、どうしても脱げないそうです」
リオンは兵士の顔を見つめる。
数秒の沈黙。
そして、「ぶっ!」盛大に吹き出した。
「本当にやったのか、ヘリオス!」
椅子にもたれ、大笑いする。
「ははははっ!仕事したじゃねぇか!」
笑いが止まらない。
兵士は必死に表情を崩さないよう耐えていた。
同じ頃、教会の祭壇が淡く光を放つ。
「神託です!」
聖女が慌てて祭壇の前へ進み、厳かに読み上げた。
「創造神ヘリオス様より神託」
礼拝堂にいた者全員がひざまずく。
「フィーナは子供たちを笑顔にする奉仕を行え」
フィーナが目を丸くする。
「……え?」
聖女は続きを読む。
「期間は、神が満足するまで……そんなぁ……」
その場にへたり込み、項垂れるフィーナ。
こうして神罰は正式に決定した。
その日の午後、王都の広場には、子供たちの笑い声が響いていた。
「クマさんだー!」
「かわいい!」
クマ姿のフィーナは子供たちに囲まれ、手を振る。
「こんにちは……」
絵本を読み聞かせ、一緒に遊び、踊り、記念写真まで撮られる。
「クマさん、ぎゅー!」
「は、はい……」
子供たちは大喜び。
当のフィーナだけが半泣きだった。
「どうして私がこんな目に……」
少し離れた場所では、リオンたちがその様子を眺めていた。
リオンは腕を組み、満足そうに頷く。
「ざまあみろ」
思わず漏れた一言に、リゼが吹き出す。
「ヘリオス様も、意外と容赦がありませんね」
ルナも笑いながら頷いた。
「でも、子供たちは本当に楽しそう」
広場には笑顔があふれている。
フィーナは泣きそうな顔で、それでも子供たちへ手を振り続けた。
「また来てねー!」
「は、はい……」
こうして彼女は、本人の意思とは関係なく、王都で一番人気の「クマのお姉さん」として知られるようになったのだった。




