第326話 クマ神神殿計画
数日後、王城の会議室。
リオンは席に着くなり、小さくため息をついた。「……嫌な予感しかしない」
向かいには、いつになく目を輝かせたフィーナが座っている。
その表情を見た瞬間、リオンは確信した。(ろくでもない話だ)
「リオン様、ひとつ提案があります!」
「聞きたくない」
「まだ何も言ってません!」
「その顔を見れば分かる」
即答され、フィーナは頬を膨らませた。
「せめて聞いてください!」
そう言うと一枚の大きな設計図を机いっぱいに広げる、立派な石造りの建物、高い柱、広い礼拝堂。
そして、中央には、これでもかと言わんばかりに巨大なクマの像が鎮座していた。
リオンは数秒黙って眺める。
「……これ、何だ?」
フィーナは満面の笑みで胸を張った。
「クマ神神殿です!」
「却下」一秒も迷わなかった。
「えぇっ!? まだ説明もしてないのに!」
「説明を聞く必要がない」
リオンは設計図の中央を指差す。
「なんで熊が神殿の真ん中にいるんだ」
「神々しいでしょう?」
「そこが問題なんだよ!」
フィーナは諦めない。「神聖な雰囲気がありますし、奇跡が起きるかもしれません」
「起きなくていい」
「参拝客も増えて!!」
「増やすな!」思わず机を叩く。
「ヘリオス教会だけで十分だ!これ以上わけの分からない宗教施設を増やしたら、国が混乱する!」
フィーナは「むぅ……」と唸りながら腕を組む。「でも、クマ神様には神聖が宿っていますし……」
「だから余計に危ないんだ」リオンは頭を抱えた。「本物っぽいから笑えないんだよ」
二人はしばらく睨み合った。
やがてフィーナは小さく息を吐き、肩を落とす。
「……分かりました」
「お?」
「神殿は諦めます」
「よし!」
リオンは思わず拳を握った。
「話が分かるじゃないか」
ようやく終わった、本気でそう思っていた。
翌日、王都の市場を視察していたリオンは、人だかりを見つけた。
「クマ神様人形ですよー!」
「新作もありますよー!」
嫌な予感しかしない、恐る恐る近づくと、屋台には木彫りや陶器、布製など、さまざまなクマ神様人形がずらりと並んでいた。
そして、店番をしているのはもちろん。
「……フィーナ」
「あっ、リオン様!」満面の笑みで手を振るフィーナ。
リオンは頭を押さえた。「何してる」
「神殿は諦めましたので」
「そこまでは知ってる」
「代わりに人形を販売しています!」
「代わりになってない!」
周囲の客が思わず笑う、フィーナは真面目な顔で言った。
「これは観光客向けのお土産です」
「うちの国、そこまで観光地じゃないだろ」
「これからなります!」
「何を根拠に……」
その時だった。
「ください!」子供が一体買っていく。
「ありがとう!」
続いて親子連れ。
「可愛いわね。二つお願いします」
さらに旅人まで足を止めた。
「土産に良さそうだな」
次々と売れていく、リオンは唖然とした。「……なんで売れるんだ」
近くにいた商人が笑う。
「可愛いですからね」
「そうか?」
「踊るやつなんて特に人気ですよ。ですが高くて普通に見る事しか出来ませんが……」
「そんな機能付けた覚えはあるけど……」
そこへラミが駆け込んできた。
「フィーナ!」
「ラミ?」嫌そうな顔になるリオン。
「これ全部ちょうだい!」ラミは笑顔でお金を出す。
「全部?」リオンは心の中で(金はどからでた)と考えた。
「十個!」ラミは元気一杯だ。
フィーナは笑顔で包み始める。
「毎度ありがとうございます!」
「おい待て!」リオンは慌てて止める。
「そんなに買ってどうする!」
「子供たちに配る!」
「配るな!」叫んだ時には、もう遅かった。
ラミは人形を抱えて元気よく走り去っていく。「ありがとー!」
その背中を見送りながら、リオンは力なく肩を落とした。「もう止まらないな……」
夕方。
フィーナが売上表を持って執務室へ飛び込んできた。「リオン様!」
「今度は何だ……」
「完売しました!」
「……全部?」
「全部です!」さらに紙をもう一枚差し出す。「追加注文まで来ています!」
リオンはしばらく無言だった、やがて天井を見上げ、複雑な顔で笑う。
「まさか、本当に商売になるとはな……」
フィーナは嬉しそうに頷いた。
「大成功です!」
その夜。
王城の窓から市場を見下ろすと、子供たちがクマ神様人形を手に走り回っていた。
「我は神なり!」
「供物を捧げよー!」
いつの間にか物まねまで流行している。
リオンは苦笑しながら夜空を見上げた。
「……まあ、神殿を建てるよりはマシか」
そう自分に言い聞かせるしかなかった。
こうしてクマ神様人形は、リオンの意思とはまったく関係なく、ガルリオン共和国を代表する人気土産へと成長していくのだった。




