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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第318話 クマ神様、再び



 ゼルファたちがガルリオン共和国へ到着してから数日後。


 王都郊外の広場には、大量のトラックが並んでいた。


 ナルディやリベストへ帰る人々を送り届けるためだ。


 共和国軍の兵士たちが慌ただしく動き回っている。


「荷物の確認をお願いします!」

「順番に乗車してください!」

「忘れ物はありませんかー!」


 あちこちから声が飛ぶ。日本で治療を受けた人々は、皆どこか晴れやかな表情をしていた。


 戦争を生き延びた。家族と再会する事が出来る。そして、今、故郷へ帰る。


 それだけで十分だった。


 リオンは少し離れた場所からその光景を眺め、小さく息を吐く。


「これでようやく一区切りだな」


「ああ」隣に立つゼルファも頷いた。


 ナルディもリベストも、まだ復興の途中だ。


 少なくとも前へ進み始めている。それが何より大きかった。


 ただ、他の人々が故郷へ帰る中、ゼルファだけは共和国に残ることになっていた。


 その日の午後、王城の工房。


 久しぶりにリオンとゼルファは二人きりだった。


 机の上には魔石や工具、魔導回路の部品が散らばっている。


 そして、湯気の立つお茶。昔から変わらない光景だった。


「懐かしいな」リオンが言う。


「確かにな」ゼルファも笑った。


 まだリオンが王になる前、工房に入り浸っては、二人で魔導具を弄っていた頃を思い出す。


 戦争も政治も関係ない。面白い物を作って遊んでいた時代だ。


「で?」ゼルファが身を乗り出す。「最近は何作ってたんだ?」


 その瞬間、リオンの口元が妙に歪んだ。嫌な予感しかしない笑みだった。「見せてやる」


 棚の奥から取り出されたのは、小さな木彫りの熊だった。


 なぜか妙に神々しい。ゼルファは首を傾げる。


「……なんだこれ」


「クマ神様」


「説明になってない」


 リオンは熊の背中に魔石をはめ込んだ。

ぽわっと光り始めた。しかも、無駄に神々しい。


『我は神なり』低い声が響く。


 ゼルファの動きが止まった。


『崇めよ』さらに光る。


『祈れ』もっと光る。


『供物を捧げよ』


 工房中が神殿みたいになった。


 数秒の沈黙。


「ぶっ……!」ゼルファの肩が震えた。「ははっ……ははははは!!」次の瞬間、大爆笑だった。


 机を叩きながら笑い転げる。


「なんだこれ!」


「だからクマ神様だ」


「そういう問題じゃない!」


『我は神なり』


「やめろ!」笑いながらゼルファがツッコミ。


『供物を捧げよ』


「無駄に完成度高いな!」笑いが止まらない。ゼルファは腹を抱えて椅子から落ちそうになっていた。


 ようやく落ち着いた頃には、二人とも疲れていた。


 ゼルファは目尻の涙を拭う。「お前、本当に王様なんだよな?」


「なんだその確認は」


「王が作る物じゃないだろ」


「自信作なんだが」


「方向性が終わってる」


 再び笑いが込み上げてきたらしい。ゼルファは肩を震わせていた。


 リオンもつられて笑う。こうしてくだらないことで笑い合うのは、本当に久しぶりだった。


 戦争のことも死にかけたことも今だけは忘れられた。

 

 夜。


 工房にはリオンだけが残っていた。机の上には問題のクマ神様。


『我は神なり』


「……イラ」


『崇めよ』


「……イライラ」


『供物を捧げよ』


「……うるさい」


 昼間は面白かった。確かに面白かった。

冷静になって考えてみる。


 王が夜中に一人で作った物としてどうなのか。


 答えは酷かった。


「なんでこんなの作ったんだ俺……」


 リオンはハンマーを手に取った。「よし、壊そう」


『我は神なり』


「知るか」振り下ろそうとした、その時だった。


 工房の扉が勢いよく開いた。


「おーい!」


 聞き覚えのある声。リオンの嫌な予感センサーが反応する。


「ラミか……」


 案の定だった。骸骨ヘルメット姿のラミが元気よく飛び込んでくる。


 そして、一瞬でクマ神様を発見した。


「あっ!」目が輝いた。


 非常にまずい。


「待て」


「面白そう!」


「待て!待て!」


「欲しい!」


「待てって言ってるだろ!」


 しかし、遅かった。ラミはクマ神様を抱え上げる。そして、全力疾走。


「じゃあねー!」


「待てェェェ!!」リオンも追いかける。


 ラミの逃げ足は異常に速かった。廊下の向こうから声が聞こえる。


『我は神なり』


「神様だー!」


『供物を捧げよ』


「すげー!」


 リオンはその場で膝をついた。最悪だ。


 その夜。


 王城のあちこちから奇妙な声が聞こえていた。


『我は神なり』

『崇めよ』

『供物を捧げよ』


「神様だー!」


「だから違う!」リオンの叫びも混じる。

しかし、誰も聞いていなかった。


 翌朝、中庭へ行ったリオンは頭を抱えた。


 ゼオン。リオナ。アレン。そして、ラミ。


 四人が仲良く輪になって座っている。中心にはクマ神様。


『我は神なり』


「おおー!」


『供物を捧げよ』


「はい!」


 ゼオンがおやつのクッキーを置いた。リオナは楽しそうに尻尾を振っている。赤ん坊のアレンまで不思議そうな顔で参加していた。


 完全に遊び道具だった。リオンは深いため息を吐く。


「昨日のうちに壊しておけばよかった……」


 もう遅い、子供たちにとってクマ神様は、ただの魔導具ではなくなっていた。


 お気に入りのおもちゃ。そして、謎の神様である。


『供物を捧げよ』


「クッキー!」


『よろしい』


「喋ったー!」大歓声が上がる。


 その様子を見ていたリオンは、もう諦めるしかなかった。


 クマ神様は今日も元気だった。


 作者であるリオンの意思など、もはや誰も気にしていなかったのである。




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