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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第316話 凱旋と財務担当官

 数日後。


 ガルリオン共和国王都。王城前の広場は、多くの人々で埋め尽くされていた。


 空から近づいてくるヘリの姿が見えると、歓声が一気に広がる。


「陛下だ!」

「帰ってきたぞ!」

「共和国軍だ!」

「勝ったんだ!」


 手を振る人々。肩車された子供達。兵士達の家族。商人達。誰もが笑顔だった。


 窓からその光景を眺めながら、リオンは静かに息を吐く。


「……帰ってきたな」思わず漏れた言葉だった。


 戦争が始まってから、本当に色々なことがあった。


 戦場を駆け回り、他国を守り、他国の復興にも首を突っ込み、気が付けば毎日書類と格闘していた。


 本当に長かった。


 隣ではリゼが穏やかに微笑んでいる。「皆さん、嬉しそうですね」


「ああ」


 ルナも窓の外を見ながら頷く。「ちゃんと帰ってこられてよかったです」


 その言葉にリオンも素直に頷いた。


 ゼオンとリオナは窓際に張り付いて歓声を眺めている。


「すごい人だ!」「いっぱいー!」 二人とも大興奮だ。


 ラミも負けていない。「見ろ見ろ! みんな手を振ってるぞ!」


「お前が振られてるわけじゃないぞ」


「細かいことは気にするな!」


 いつも通りだった。その騒がしさが妙に心地良い。


 やがてヘリが着陸する。

 続いてトラックも次々と広場へ入ってきた。

 荷台が開かれる。

 中から現れたのは大量の木箱だった。

 箱が開封されるたび、人々の間からどよめきが上がる。

「金貨だ……」

「宝石もあるぞ」

「すごい量だ……」

 戦利品や賠償金、回収した財貨の数々。

 まさに宝の山だった。

 リオンは少しだけ胸を張る。

 正直に言えば、苦労した。

 戦争も大変だった。

 復興支援も大変だった。

 その後の交渉はもっと大変だった。

 だから少しくらい達成感を味わってもいいはずだ。

 そう思った。

 その時だった。

「陛下」

 後ろから声がした。

 聞き覚えのある声だった。

 リオンの背筋に嫌な汗が流れる。

 振り返る。

 そこには一人の男が立っていた。

 共和国財務局長、バルド。

 いつも通り身だしなみは完璧。

 そして。

 笑顔だった。

 だがリオンは知っている。

 この男の笑顔が一番危険だということを。

「お帰りなさいませ」

「……ただいま」

「ご無事で何よりです」

「ありがとう」

「少々お時間をいただけますか?」

「後で駄目か?」

「今です」

 即答だった。

 逃げ道は無かった。


 数十分後、王城の会議室。


 リオンは椅子に座りながら、目の前の帳簿の山を見ていた。


 戦争は終わったはずなのに、なぜか別の戦場へ連行された気分だった。


 バルドは静かに資料を広げる。「まず確認します」


「どうぞ」


「今回の戦争で使用した弾薬」


「大量に使った」


「燃料」


「これも大量に使ったな」


「食料」


「食料は大切だった」


「医療費」


「金貨何万枚使ったかわからんな」


「輸送費」


「これは以外と安くすんだ」


「復興支援費」


「仕方ない出費だった」


 返事をするたびに嫌な予感が強くなる。

バルドは最後の資料を開いた。


 そして、穏やかな笑顔のまま言う。「国家予算が吹き飛ぶ寸前でした」


 リオンは静かに視線を逸らした。


「陛下」


「なんだ?」


「なぜ三万を超える敵軍との戦争に介入したのですか?」


「友人を見捨てたくなかった」


「なぜ復興支援を?」


「困っていた人を見捨てられなかった」


「食料支援は?」


「腹を満たせば希望があるから」


「医療支援は?」


「死にかけている人は見捨てられん」


「無償提供ですね?」


「……そうだな」


 バルドは両手で顔を覆った。「陛下」


「なんだ」


「共和国は慈善団体ではありません」切実な声だった。


 リオンも少し申し訳なくなる。実際、かなり無茶をした自覚はある。


 しかし、バルドの説教はまだ終わらなかった。


「しかも、帰国後の国庫残高ですが」資料が机に置かれる。「こちらです」


 リオンが覗き込む。確かに危ない。かなり危ない。というか想像以上に危ない。


「……思ったより減ったな」


「思ったよりではありません」バルドは疲れ切った顔で言った。


「財務局全員で胃薬を飲みながら計算していました」


「すまんな」


「本当にそう思うなら次は計画的にお願いします」珍しく本音が漏れていた。


 その時だった、会議室の扉が勢いよく開く。


「査定が終わりました!」担当官が駆け込んでくる。


 全員の視線が集まった。


 リオンも思わず身を乗り出す。「どうだった?」


 担当官は資料を確認する。そして、深呼吸した。


「今回、回収した財貨と賠償金を全て換算した結果!!」


 部屋が静まり返る。


「黒字です」


 一瞬、誰も反応できなかった。


「……今なんて?」リオンが聞き返す。


「黒字です」


「本当に?」


「はい」担当官も少し興奮していた。


 バルドが資料を奪うように受け取る。計算する。もう一度計算する。さらに別の資料と照合する。


 数分後。


 椅子にもたれながら天井を見上げた。「……黒字だ」


 信じられないものを見るような顔だった。


 リオンは思わず立ち上がった。


「よし!」


 思った以上に嬉しかった。友人達を助けた。戦争にも勝った。復興支援もした。そして、国庫も守れた。これ以上ない結果だ。


 だが、バルドはゆっくり顔を上げる。


「陛下」


「なんだ?」


「結果だけ見れば成功です」


「だろう?」


「ですが」


 その一言でリオンの笑顔が引きつる。


「二度と同じことはしないでください」


「そんなにか?」


「そんなにです」即答だった。


 会議室にいた全員が頷く。財務局員達など涙ぐんでいる。それだけ大変だったのだろう。


 その夜。


 王城では盛大な帰還祝いの宴が開かれた。


 兵士達は勝利を祝い。家族達は再会を喜ぶ。笑い声が絶えない。


 リオンも久しぶりに肩の力を抜いて酒を飲んでいた。


 リゼが微笑み。ルナが呆れながらも笑う。


 ゼオンとリオナは眠そうになりながらも宴を楽しんでいる。


 ラミは料理を抱えて走り回っていた。


 平和だった。本当に久しぶりの平和だった。


 そんな賑やかな会場の端でバルドは一人、酒を飲みながら静かに呟く。「黒字で本当に良かった……」


 その表情は戦争に勝った将軍よりも安堵していた。


 それを見たリオンは苦笑する。戦場では強大な敵とも戦った。数万の軍勢ともぶつかった。


 だが、帰ってきて改めて思う。最も怒らせてはいけない相手はたぶん財務担当官なのだろう。


 少なくとも、今のリオンにはそう思えて仕方がなかった。




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