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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第315話 帰還、そして押し付けられた仕事

 リベスト奪還から三ヶ月。


 総督府の前では、共和国軍の撤収作業が進んでいた。


 トラックが荷物を積み込み、兵士達が慌ただしく行き来する。


 離陸準備中のヘリの回転音も聞こえてくる。


 その光景を眺めながら、リオンは静かに息を吐いた。「……やっと帰れる」


 誰に聞かせるでもない呟きだった。


 戦争が始まってから、どれだけの時間が過ぎただろう。


 前線で戦い。国を救い。復興を手伝い。

山のような書類と戦い続けた。


 終わったわけではない。問題はまだ残っている。


 それでも、一つの区切りには辿り着けた。


 その事実だけで肩の荷が少し軽くなった気がした。


 一方その頃。


 家族達は完全に帰省旅行の帰りのような空気になっていた。


「父上ー! 見てください!」


 ゼオンがアレンと一緒に走ってくる。巨大な黒龍の子供と競争しているつもりらしい。


 もちろん体格差が酷い。アレンは気を遣ってのそのそ歩いていた。


「とーさまー!」


 リオナはルナに抱っこされたまま元気よく手を振る。


 ラミに至っては朝から落ち着きがなかった。「帰るぞー!」


 ヘリの周囲を走り回る。


「だから落ち着け」


「帰るぞー!」


「聞け」


 リオンは額を押さえた。だが、自然と苦笑してしまう。


 こういう騒がしさも、ずいぶん久しぶりだった。


 リゼはそんな様子を見て楽しそうに笑っている。


 アレリーナも腕を組みながら静かに見守っていた。


 そして、「これも運べばいいのか?」カミリアが金貨箱を軽々と持ち上げる。


「待て待て待て」兵士達が慌てる。


「手伝いだぞ?」


「善意なのは分かる」


「なら問題ないな!」


「問題しかない」


 ドラゴンが人型で荷物運びをしている光景は色々と駄目だった。周囲の兵士達も苦笑している。


 その頃。


 総督府の会議室では最後の引き継ぎが行われていた。


 席に着いているのはリオン、ガルヴァン、アメリア、サルファの四人。


 長かった戦後処理の締めくくりである。

 リオンは机の上の資料を閉じた。


「じゃあ後は頼んだ」


 その一言に嫌な予感が詰まっていた。

 ガルヴァンは無言で続きを待つ。


「グランゼル王国との復興協議」


「……ああ」


「レオルディアとの国境問題」


「分かった」


「商人往来再開の調整」


「うむ」


「賠償関係の整理」


「……ピキ」


「復興計画の最終監督」


「……ピキピキ」


「各都市との連絡調整」


「……ブチ」


 ガルヴァンの表情が消えた。「待て」


「何だ」


「今の全部か?」


「全部だ」即答だった。


 会議室が静まり返る。


「お前は帰るんだよな?」


「ああ」


「家族と一緒に?」


「そうだ」リオンは笑顔になった。


「俺は?」


 リオンは真面目な顔で答えた。「頑張れ」


 数秒の沈黙。


 そして、「ふざけるなぁぁぁぁ!!」


 会議室が揺れた。アメリアとサルファは思わず身を引いた。


 二人ともガルヴァンがここまで感情を爆発させる姿を初めて見た。


「誰のせいで仕事が増えたと思ってる!」


「俺だけじゃないだろ」


「お前だよ!」


「半分くらい?」


「九割九分だ!」迷いのない即答だった。


 リオンは少し考え込む。「……八割」


「一割しか変わってない!」ガルヴァンが机を叩いた。


 アメリアは堪えきれず吹き出す。サルファも肩を震わせていた。


 長い間張り詰めていた空気が、ようやく少しだけ和らぐ。



 しばらく文句を言い続けた後、ガルヴァンは大きく息を吐いた。怒るのも疲れたらしい。


「……分かった」


「おお」


「やる」


「助かる」リオンは素直に頷く。


 するとガルヴァンが指を一本立てた。


「ただし条件がある」


「何だ?」


「共和国に戻ったら休暇を寄越せ」その言葉には切実な願いが込められていた。


「何日だ」


「一か月」


「長くないか?」


「一か月」


「頼む。二週間でお願いします」


「一か月」


「三週間でどうだ。(ほぼ一ヶ月じゃん)」


「一か月」


「……分かった」


 ガルヴァンはようやく満足そうに頷いたがその顔色は良くない。


 すでに山積みの仕事を想像しているのだろう。アメリアは少し同情した。


 昼過ぎ。


 出発の時間がやって来た。ヘリのプロペラが勢いよく回り始める。風が吹き荒れ、兵士達の服を揺らした。


 リオンは最後に振り返る。


 アメリアとサルファが並んで立っていた。


「後は任せた」


 アメリアが深く頭を下げる。「必ず復興を成功させます」


 その目には以前の不安はなかった。覚悟が宿っている。 


 サルファも頷いた。「次に会う時は戦争の話じゃなく、交易の話でもしたいものだ」


「それが一番だな」リオンは笑った。


 本当にそう思った。戦争より商売の方がずっと平和だ。

 

 ヘリへ乗り込む。リゼ。ルナ。ゼオン。リオナ。ラミ。そして、人型に戻った黒龍の赤ん坊のアレン。全員が揃った。


 その時だった。


「私も乗るぞー!」カミリアが当然のように乗り込もうとする。


 しかし、首根っこを掴まれた。


「駄目だ」アレリーナだった。


「なぜだー!」


「お前は飛べるだろう」


「乗りたい!」


「飛べ。家族ぶるな」


「嫌だ!」


 最後まで騒がしい。兵士達の笑い声が響く。


 やがてヘリはゆっくりと浮かび上がった。地面が離れていく。総督府が小さくなり、街並みが遠ざかる。


 リオンは窓の外を眺めた。戦場だった場所。礫だらけだった街。


 今は少しずつ人の営みを取り戻している。


 終わった。少なくとも今は長い戦争も長い出張もようやく一区切りだ。


 その時、ふと下を見る。総督府の前にガルヴァンが立っていた。


 両腕には大量の書類。遠目でも分かるほど不機嫌な顔。


 まるで世界の不幸を一人で背負わされたような表情だった。


 リオンは静かに視線を逸らした。見なかったことにする。


「帰ろう」ぽつりと呟く。


 リゼが微笑み、ルナも頷いた。子供達は窓際ではしゃいでいる。


 ようやく帰れる。家族と一緒に自分達の国、ガルリオン共和国へ。


 一方その頃。


 地上に残されたガルヴァンは、遠ざかるヘリを見上げながら小さく呟いた。


「……絶対に一か月休んでやる」


 その声は風に流され、空へ消えていった。




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