閑話 ラミの名案(特別版)
これは、リオンのもとへ家族が押しかけ……もとい、会いに行く少し前の話である。
ガルリオン共和国王城。
中庭の一角で、ゼオンとリオナは並んで腰を下ろしていた。
いつもなら庭を走り回っている二人が、今日は妙に静かだ。
その様子に気付いたラミが首を傾げた。
「どうした?」
ゼオンは少し迷ってから答えた。「父上、まだ帰ってこないから」
リオナも小さく頷く。「とーさま、いない……」
どちらも元気がない。
ラミは二人の隣に腰を下ろした。戦争が終わってから随分経つ。なのにリオンは帰ってこない。
ナルディの復興。リベストの復興。各国との交渉。共和国からの支援。
子供達には詳しいことは分からない。
ただ、父親が長い間帰ってきていないという事実だけは分かっていた。
ゼオンが空を見上げる。「父上、忙しいのかな」
「おしごと……」リオナも膝を抱えながら呟いた。
ラミはしばらく考える。そして、珍しく真面目な顔になった。
「ふむ……」
数秒後、ぱっと立ち上がる。
「よし!」
二人が顔を上げた。ラミは満面の笑みだった。
「会いに行こう!」
ゼオンが目を瞬く。
「会いに?父上に?」
「そう!」ラミは元気よく頷いた。「会えないなら会いに行けばいいんだ!」
あまりにも単純だった。だがラミらしい発想でもあった。
十分後。
リゼとルナが話をしていた部屋の扉が勢いよく開いた。
「大変だ!」
飛び込んできたラミに、リゼが驚いて顔を上げる。
「どうしたの?」
ルナも振り返った。
ラミは真剣そのものの顔だった。
「ゼオンとリオナが寂しそう!」
二人は思わず顔を見合わせる。それは知っていた。むしろ気付かないはずがない。
父親が何か月も帰ってきていないのだ。
寂しいに決まっている。そして、正直なところ、リゼも会いたかった。ルナも会いたかった。かなり会いたかった。
だが大人には大人の事情がある。距離の問題もある。簡単に行ける場所ではないのだ。
ところがラミは勢いよく机を叩いた。
「だから!」
二人が身構える。
「会いに行こう!」
やっぱりそう来たと二人は苦笑した。
「気持ちは分かるけど……」
「どうやって行くんだ?」
ルナが現実的な疑問を口にする。「ナルディまでかなり遠いぞ」
馬車でも相当な日数がかかる。普通ならそこで話は終わる。
だが、ラミは違った。満面の笑みを浮かべる。
そして、胸を張って宣言した。「竜!!」
部屋が静まり返った。リゼが瞬きをする。ルナも瞬きをする。
ラミだけが自信満々だった。「竜!」
「……」
「竜だよ竜!!」
「……」
「飛べる!速い!」なぜか勝ち誇った顔だった。
リゼは額を押さえた。ルナは深いため息をつく。嫌な予感しかしない。
「ラミ」リゼが静かに尋ねる。
「何?」
「誰に頼むつもりなの?」
「アレリーナ!」即答だった。
「あとカミリア!」予感が強まる。
「それとアレン!」最悪だった。
ルナが真顔になる。「待って」
「何?」
「アレンは赤ちゃんだぞ」
「でも飛べる!」
「飛べるけど駄目だ」
「なんで?」
「赤ちゃんだからだ!」ルナの全力のツッコミだった。
ラミは納得していない。飛べるなら問題ないじゃないか、という顔をしている。
その頃。
北の森林地帯ではアレリーナが木陰で昼寝をしていた。
カミリアは川で魚を追いかけている。
アレンはゼオン達と遊んで疲れ、丸くなって寝ていた。
三頭とも知らない。
自分達が今まさに移動手段として計画されていることを。
夕方。
王城では急遽家族会議が開かれていた。
参加者はリゼ、ルナ、ラミ。
さらに呼び出されたアレリーナとカミリア。
議題は一つ。
リオンに会いに行く方法。発案者はもちろんラミ。
そして、提案された移動手段は「竜!」ラミが誇らしげに言った。
アレリーナは無言で額を押さえる。ルナも頭を抱える。リゼも苦笑いしかできない。
ただ一人。
ラミだけが嬉しそうだった。良い案を思いついたと本気で信じている。
その姿を見て、アレリーナは静かに空を見上げた。「……嫌な予感がする」
「奇遇だな」ルナが頷く。「私もだ」
リゼも同意した。
だが、その予感は残念ながら正しかった。
この時点で既にリベストを大混乱に陥れる「ドラゴン家族訪問計画」は、着実に動き始めていたのである。




