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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第313話 家族が来た日

 リベスト奪還から数週間。


 総督府の執務室では、今日もリオンが書類の山と格闘していた。


「食料支援の報告書……」一枚めくる。


「復興計画の修正案……」さらに一枚。


「道路補修の予算申請……」また一枚。


「追加予算の再審査……」


 思わず机に額をぶつけたくなる。戦争は終わった。だが、仕事は終わらない。


 むしろ戦争中より増えている気さえした。


 隣ではガルヴァンも同じような顔をしている。


「帰りたいな……」


「奇遇だな。俺もだ」


 二人は顔も上げずに答えた。


 そんな時だった。


 突如、大気を震わせるような轟音が響く。


 窓ガラスが激しく揺れ、机の上の書類が舞い上がった。


「何だ!?」リオンが立ち上がる。


「敵襲か!?」ガルヴァンも慌てて窓へ向かう。


 二人は反射的に外を見た。


 そして、「「……は?」」と言葉を失った。


 青空の中を巨大な影が三つ飛んでいる。白銀。深紅。漆黒。誰が見てもドラゴンだった。


 街中は大騒ぎになっていた。


「りゅ、龍だ!」

「三体もいるぞ!」

「終わった!」

「逃げろー!」


 住民達が慌てて走り回る。兵士達も顔を青くして弓を構えている。無理もない。普通なら国が滅ぶ前触れだ。


 だがリオンは別の意味で頭を抱えていた。


「いや……」


 白い龍を見る。「アレリーナだ。」

 

 赤い龍を見る。「カミリア」

 

 黒い龍を見る。「おいおい!アレンかよ」


「リゼかルナか?……」


 黒龍の背には二人の女性と子供の姿と全力で両手を振っている小柄な影。


「ラミィィィ!?」


 骸骨ヘルメットが陽光を反射していた。

間違いない。本人だった。


 三頭の龍は総督府前の広場へ降り立った。


 巨大な翼が風を巻き起こし、地面が揺れる。


 兵士達が思わず後ずさる。住民達も遠巻きに様子を見守っていた。しかし、龍達に敵意はなかった。


 白龍が光に包まれる。現れたのはアレリーナだった。


「久しぶりだな、リオン」


 まるで近所へ買い物に来たかのような口調だった。


「久しぶりですむ登場じゃないだろ」


 リオンは思わず突っ込む。


 その隣では赤龍が人の姿へ変わる。カミリアが勢いよく現れた。


「来たぞー!」


「何しに来た」


「遊びに!」


「帰れ!この野郎!」即答だった。


 カミリアは頬を膨らませる。「ひどくないか!?」


「お前まで来る必要がどこにある」


「アレンと一緒がいい!」


「そういう問題じゃない」リオンは頭痛を感じた。


 一方。


 黒龍のアレンはそのまま座っている。まだ幼いとはいえ龍は龍だ。広場のかなりの面積を占領していた。


 そんなアレンの背からリゼが降りてくる。


「お疲れ様です」柔らかな笑顔。


 その顔を見ただけで肩の力が少し抜けた。


 続いてルナも降りてくる。


「ちゃんと食べていますか?」


 開口一番それだった。


「一応な」


「一応じゃ駄目だめでしょう」


 呆れながらも心配そうな顔をしている。


 その時だった。「リオンー!」聞き慣れた声、次の瞬間にはラミが飛びついてきた。


「ぐっ」


 勢いのまま抱きつかれ、リオンはよろめく。


「久しぶりー!」


「苦しい」


「元気だったかー!」


「だから苦しい」


 まったく聞いていない。だがその騒がしさが妙に懐かしかった。

 

 さらに後ろから小さな足音が聞こえる。

 リオンが視線を向けた。


 そこにいたのは「父上!」ゼオンだった。


 そして、「とーさま!」リオナも負けじと走ってくる。


 一瞬。


 リオンの表情が柔らかくなる。気付けば両腕を広げていた。


 二人は勢いよく飛び込み、そのまま抱き上げられる。


「久しぶりだな」


 自然と笑みがこぼれた。ここ最近、自分でも忘れていた感覚だった。


 戦争。復興。政務。終わらない会議。積み上がる問題。そんなものばかり見てきた。


 だが今は違う、腕の中に子供達がいる。


 ただそれだけで、張り詰めていたものが少しずつほどけていく。


 後ろでガルヴァンが苦笑した。「やっぱり違うな」


「何がだ」


「お前の顔だよ」リオンは眉をひそめる。


 ガルヴァンは肩をすくめた。「さっきまで死んだ魚みたいな目をしてたのに」


「失礼な」


「今はちゃんと父親の顔してる」


 反論しようとして。結局できなかった。

ゼオンが嬉しそうに話し続けている。リオナは抱っこされたまま笑っている。


 ラミは横で騒いでいる。ルナが笑う。リゼが穏やかに見守る。アレリーナは静かに立っている。


 そして、カミリアは市場へ突撃しようとしてルナに首根っこを掴まれていた。


「離せー!」


「駄目だ」


「なぜだ!」


「迷子になるからだ」


「私は子供じゃない!」


「共和国では何時も迷ってただろ」


「うっ」図星だった。周囲から笑いが漏れる。


 夕暮れ。


 総督府の庭には家族達の笑い声が響いていた。


 オレンジ色の光が皆を優しく照らしている。


 リオンはその光景を静かに眺めていた。久しぶりだった。心から安堵できたのは。


 隣に立つガルヴァンが口を開く。「良かったな」


 リオンはすぐには答えなかった。ただ、庭で笑う家族達を見つめる。


 そして、小さく笑った。本当に久しぶりの笑顔だった。


 問題はまだ山ほどある。復興も始まったばかりだ。


 明日になれば、また書類の山と戦うことになるだろう。


 それでも今はいい。会いたかった家族がここにいる。


 それだけで、張り詰めていた心は十分救われていた。




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