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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


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第312話 帰れない王様

 三国和平条約が締結されてから、一ヶ月が過ぎた。


 本来なら、リオンはとっくにガルリオン共和国へ帰国しているはずだった。


 だが現実は違う。


「帰らせません」アメリアが満面の笑みで言い切った。その笑顔が妙に怖い。


「帰るな」隣ではサルファまで頷いている。


 こちらは疲労で目の下に隈ができていた。


 リオンは額を押さえた。「……なんでだよ」


 場所はリベスト総督府の執務室。

 朝一番からの会話である。


 アメリアは待っていましたとばかりに書類の束を机へ積み上げた。


「復興計画の確認です」


「昨日やった」


「避難民帰還計画です」


「今日も輸送隊を出してる」


「食料配給計画です」


「進行中」


「商人誘致計画です」


「ハロルドが動いてる」


 リオンは机に肘をついた。「だから帰らせろ」


 本音だった。心の底から帰りたかった。

リゼの顔が見たい。ルナにも会いたい。子供たちは元気にしているだろうか。


 アレリーナもいる。

 ラミもいる。


 問題児は山ほどいるが、それでも帰りたかった。


 しかし、現実は甘くない。


 戦争は終わったが、復興は始まったばかりだった。


 グランゼル王国もレオルディア王国も疲弊している。


 そして、その両国を支えているのがガルリオン共和国だった。


 食料。医薬品。農具。建築資材。輸送車両。


 ありとあらゆる物資が共和国から運び込まれている。


 当然、その代償も大きかった。


 リオンはふと思い出したように顔を上げる。


「そういえば金は?」


 アメリアの視線が泳いだ。「……頑張っています」


「あるのか?」


「…………」


「聞いてるか?あるのか!」


「ありません」


 リオンは天井を見上げた。知っていた。

なんとなくそんな気はしていた。だが改めて言われると胃が痛い。


 それからの日々は、戦争中と大差なかった。


 朝はナルディへ向かう。


 戦場に残された武器や弾薬の回収作業。

この作業は徹底的に回収した。


 放置しておけば事故や犯罪の原因になるとともに他国にガルリオン共和国の技術を渡さない為だ。地味だが重要な仕事だった。


 昼からはリベストに向い。避難民支援。物資配給。住宅再建計画を行い。


 夕方には《家移転》を使い、日本から届く支援物資を受け取る。


 そして、夜。


 待っているのは書類だった。机の上に積み上がる書類。減ったと思ったら増える書類。片付けても増える書類。


 まるで魔物だった。


 隣の席でガルヴァンが呟く。「なあ」


「なんだ」


「戦争、終わったよな?」


「終わったはずだ」


「なんで俺たちこんなに忙しいんだ?」


「知らん」


 二人とも死んだ魚のような目をしていた。


 数日後。


 ハロルドが執務室へやって来た。分厚い帳簿を抱えている。その時点で嫌な予感しかしなかった。


「計算終わったぞ」


「聞きたくない」


「聞く義務がある」


「嫌だ!」


「ワガママは許さん」


 逃げられなかった。

 ハロルドは帳簿を開く。


「支援総額」ぺらり。


「輸送費」ぺらり。


「医薬品費用」ぺらり。


「食料費」ぺらり。


「建材費」ぺらり。


 数字が並んでいた。見た瞬間に頭が痛くなる数字だった。


 リオンは帳簿を閉じた。「無理だ」


「現実を見ろ」ハロルドは楽しそうだった。


 殴りたくなるくらいに。


「戦争って金かかるんだな……」リオンが呟く。


 ガルヴァンが呆れた顔をした。「今さらか」


「共和国の財務官が泣くぞ」


「俺も泣きたい」本気だった。


 夜。


 執務室の窓から街を見下ろす。復興は少しずつ進んでいた。市場には活気が戻り始めている。


 子供たちの笑い声も聞こえる。食料不足も以前ほど深刻ではない。確実に前へ進んでいた。それは素直に嬉しかった。


 だが。


「帰りてぇ……」思わず本音が漏れる。


 引き出しを開く。


 そこに以前、ゼオンが描いた家族の絵が入っていた。


 何度も見返したせいで端が少し折れている。


 自分。リゼ。ルナ。子供たち。みんな笑っていた。


 その絵を見ていると、戦場でも復興でも感じなかった寂しさが込み上げてくる。


「今頃何してるかな……」ぽつりと呟いた時だった。


 机の上に新しい書類が置かれる。

 顔を上げる。

 ガルヴァンだった。


「無理だな」


「何がだ」


「帰国」


 嫌な予感がした。


「なんで」


「アメリアが来る」


「最悪だ」


 直後。


 執務室の扉が開いた。案の定だった。アメリアが笑顔で入ってくる。その手には、さらに分厚い書類の束。


「リオン様」


「なんだ」


「少しご相談が」


「帰る」


「今は止めてください!」


「帰らせろ」


「駄目です!!」即答だった。


 リオンは机に突っ伏した。


 遠く離れた共和国を思い浮かべる。家族の顔。仲間たちの顔。温かい食卓。騒がしい日常。どれも今は手の届かない場所にある。


 戦争には勝った。和平も結んだ。復讐にも決着をつけた。


 それなのに。


「なんで最後の敵が書類なんだ……」




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