↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田✴ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

320/435

第307話 懐かしき再会と停戦の使者

 リベスト奪還から三日後。


 街は少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。


 もっとも、元通りには程遠い。


 焼けた建物。崩れた倉庫。人の姿が消えたままの通り。


 戦争が終わったわけではないと、街そのものが語っているようだった。


 それでも市場には人が戻り始めていた。


 露店を広げる商人。野菜を並べる農民。  久しぶりに笑顔を見せる子供たち。


 小さな活気だったが、それが嬉しかった。


 市場通りを歩いていたリオンは、その様子を眺めながら息を吐く。


「少しは街らしくなってきたな」


 隣のガルヴァンも頷いた。


「ゼロからやり直すよりはマシだろうな」


 その時だった。


「おーい!」


 聞き覚えのある声が飛んできた。リオンは振り返る。


 そこに立っていた老人を見て、一瞬誰だか分からなかった。


 白髪。深い皺。杖をついた細い身体。


 だが、その笑い方だけは昔のままだった。


「……嘘だろ」思わず声が漏れる。


 老人は肩を竦めた。


「久しぶりに会った相手への第一声がそれか?」


「いや、だって……」


 リオンは近付く。

 そして改めて顔を見る。


「ハロルドか」


「そうだ」


 老人が笑った。その瞬間、昔の面影が重なる。


 リオンがまだ五才だった頃、ロベルトを助けてリベストまで護衛で付いて行き。ゼルファと出会い魔導具を作りハロルドに買い取りしてもらいハロルド経由で稼いでいた。


 その時によく世話になった商人だった。


「生きてたんだな」


「お前なぁ」ハロルドは呆れた顔をする。

「それはこっちの台詞だ」


「確かに」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 ガルヴァンはその様子を見て目を丸くしている。


「知り合いだったのか」


「昔な」


「昔じゃない。だいぶ世話してやっただろう」


「護衛の賃金ケチったくせに」


「教育だ」


「商人らしい商人だな」


 ハロルドが声を上げて笑う。久しぶりだった。戦争のことを忘れて笑ったのは。


 その後、近くの食堂へ移動した。昼時を少し過ぎていたため客は少ない。


 テーブルに座ると、ハロルドの表情が少し真面目になる。


「街は酷い有様だ」


 リオンも頷いた。見れば分かる。建物は直せる。だが、人は簡単には戻らない。


「食料が足りん」


「だろうな」


「商人も減った」


「それも分かる」


「農地も荒れてる」


「それもだろうな」


「聞いてるのか?」


「全部予想通りだからな」


 リオンが答えると、ハロルドは苦笑した。


 そして、少しだけ声を落とす。


「冬が来る前に立て直さないと死人が出る」


 冗談ではなかった。リオンはしばらく考えた。いや、実際には数秒だった。


「食料を送る」


 ハロルドが目を瞬く。


「即答か」


「ナルディにも送ってる。リベストにも送る」


「タダでか?」


「タダではない」


 リオンは笑った。


「恩を売る」


「ははっ」


 ハロルドが吹き出した。


「相変わらず商売が下手だ」


「うるせぇ」


 だが、本当は分かっていた。見捨てられないだけだ。昔からそうだった。


 午後。


 リベスト総督府。軍議が開かれていた。

地図を囲み、各指揮官が集まる。敵軍は後退を続けている。


 今なら押せる。誰もがそう考えていた。


「国境まで進軍可能です」斥候が報告する。


 サルファも頷いた。「ここで攻めるべきだ」


「主導権はこちらにある」ガルヴァンも賛成する。


 リオンも地図へ視線を落とした。


 このまま進めばレオルディア王国本土が見えてくる。


 兄もいる。決着は近い。その時だった。


コンコン。


 扉が叩かれる。

 兵士が慌てた様子で入ってきた。


「使者です!」


 全員の視線が向く。


「レオルディア王国より停戦交渉の申し入れです!」


 室内が静まり返った。そして、扉が開く。一人の老人が入ってきた。

 

 銀髪。整えられた髭。年老いてなお背筋は真っ直ぐだった。


 その姿を見た瞬間、リオンの思考が止まる。


 懐かしい。あまりにも懐かしかった。幼い頃。メイドが死んで屋敷で居場所がなくなった時、決闘のやり方を教えてくれた人。


 唯一、何も聞かず決闘状を書いてくれて立会人にもなってくれた。その老人が目の前にいた。


「……祖父様」自然と口から漏れた。


 老人も足を止める。そして、小さく笑った。


「久しぶりだな、リオン」


 その声を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなる。


 何年ぶりだろうか。十年以上会っていないはずだった。


 レオナルド伯爵は席に着く。リオンも向かいに座った。しばらく互いに顔を見ていた。


「立派になったな」祖父が言う。


 リオンは肩を竦めた。


「そっちは老けたな」


「当然だ」レオナルド伯爵が笑う。


「お前が出て行ってから随分経つ」


 その言葉に、少しだけ昔を思い出した。


 家を飛び出した日。


 祖父は俺を迎え入れようとしてくれたが俺は断った、一人の時間が必要だった。


「今日は世間話をしに来たわけじゃないんだろ」リオンが言う。


 祖父は頷いた。そして、表情を引き締める。


「停戦を提案したい」


 軍議室の空気が変わった。


「レオルディア王国はこれ以上の戦争を望まない」


「条件次第では講和も可能だ」


 ガルヴァンが目を細める。「信用できるのか?」


 レオナルド伯爵は落ち着いたまま答えた。「信用できぬなら、私はここへ来ておらん」


 その言葉には重みがあった。老人は命を懸けてここへ来ている。だからこそ軽い言葉ではない。


 リオンは黙り込む。兄との因縁。王国との戦い。失ったもの。守ったもの。様々な思いが頭を過ぎる。


 そして、ゆっくり口を開いた。


「話だけは聞こう」


 祖父は小さく頷いた。


「それで十分だ」


 剣ではなく言葉。戦場ではなく交渉の席。


 リオンは祖父の顔を見ながら静かに息を吐いた。


 この先の言葉次第で長く続いた戦争の行方が決まるかもしれなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。