表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田 ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

310/314

第298話 生かしてくれ

 ナルディの臨時治療所。


 リオンは言葉を失っていた。「……ゼルファ」


 ベッドに横たわる男。間違いなくゼルファだった。しかしかつて魔導具を作りながら笑っていた面影は薄い。顔は痩せこけ、全身に包帯、呼吸は弱く、意識もない。生きていること自体が奇跡だった。


「撤退する民を逃がすため、最後まで後方に残りました」アメリアが静かに言う。


 リオンは拳を握った。ゼルファらしい。馬鹿なほどお人好しだった。


 ベッドの周囲には他にも負傷者がいた。兵士、老人、子供。誰もが限界だった。医薬品も足りない、治療師も足りない、時間も足りない。


「このままじゃ助からねぇな……」ガルヴァンが重い声で呟く。


 リオンはしばらく黙っていた。そして決断する。「スキルを使う」


「やるのか」ガルヴァンが顔を上げる。


「ああ」


 リオンは外へ出た。ナルディの広場。住民たちが不安そうに見守っている。


 スキルを発動した。「《家移転》」


 光が広がる。空間が歪む。次の瞬間、ゴゴゴゴゴゴ!!


 マンションタイプの一室が出現した。ナルディの住民たちが騒然となる。


「なんだこれは!」 

「箱みたいな家だ!」

「リオン公王の家だ!」


 リオンは構わない。玄関を開ける。「運び込め!」


 狼族たちが動いた。ゼルファを運び、重傷者を運び、危篤患者を運ぶ。助かる可能性が低い者から優先する。次々と家の中へ運ばれていく。


 リオンは机へ向かい、紙を取り出してペンを握った。日本語で書く。大きく、何度も。


【生かしてくれ。治療を頼む。金は払う】


 短い文章だった。しかし、必死だった。

さらに金貨を積み上げる。一枚、二枚、三枚。やがて山になる。


「おい……」

「いくらあるんだ……」


 ナルディの兵士たちが息を呑む。誰にも分からない。リオン自身も数えていない。今はそんなことどうでも良かった。


「生きろ」ゼルファの顔を見る。「死ぬな」


 返事はない。それでもリオンは言った。

「まだ借りを返してねぇだろ」


 そして、家を日本側へ戻した。


 一時間後、再び召喚。家が戻ってくる。中を確認する。ベッドが空いており、手紙が置かれていた。日本語だった。


【治療中。追加患者がいれば送ってください】


「助かったか」リオンは息を吐く。完全ではない。しかし希望はある。なら続ける。


「次だ」


 再び重傷者を運び込み、再び金貨を置き、再び家を送る。


 二回、三回、四回、五回。何度も何度も繰り返した。


 ナルディの広場は慌ただしい。共和国兵、ナルディ兵、治療師。全員が走り回る。夜になっても終わらない。


「お前……」


「なんだ」


「金貨置きすぎだ」ガルヴァンが疲れた顔で言う。


「知らん。人命の方が大事だ」リオンは即答した。それだけだった。


 アメリアはその光景を見ながら呆然としていた。「これが……共和国……」


 常識では考えられない。異世界と日本を繋ぎ、重傷者を送り、治療を受けさせる。まるで奇跡だった。しかしリオンにとって今は奇跡ではない。友人を助けるための手段だった。


 夜明けが近付く。何度目かの《家移転》を終えたリオンは空を見上げた。


「頼むぞ」


 誰に言ったのか。日本の医師たちか、神か、運命か。自分でも分からない。


 ただ一つだけ、絶対に諦める気はなかった。ゼルファを、そしてナルディの人々を、ここで見捨てるつもりはなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ