表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田 ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

308/311

第296話 懐かしい旗

 ヘリがナルディへ到着した時には、すでに戦いが始まっていた。


 上空から見下ろした光景に、機内の空気が凍り付く。


「……酷いな」ガルヴァンが低く呟いた。


 ナルディ。グランゼル王国第二の都市。

本来なら数万人が暮らす大都市だ。


 だが今、その姿は変わり果てていた。黒煙が各所から立ち上り、城壁の一部は崩壊している。


 郊外では炎が燃え広がり、人々が必死に避難している姿が見えた。


 そして何より城壁の外には無数の軍勢が広がっていた。


 レオルディア王国軍。数千どころではない。兵士たちは地平線の彼方まで続いている。


「間に合ったか……?」リオンは窓の外を見つめた。


 まだナルディは陥落していない。しかし、このままでは時間の問題だった。

 

 その時、前方で強烈な閃光が走る。


ドォォォン!!


 魔法が轟音と共に城壁の一角が吹き飛んだ。


「まずい!」狼族の兵士が叫ぶ。


 防衛線は確実に押し込まれていた。


 リオンは即座に決断する。「攻撃する」


 ガルヴァンも迷いなく頷いた。「ああ」


 もう躊躇している時間はない。


「機首を下げろ!」


「了解!」


 操縦士が応じる。ヘリは大きく機体を傾け、戦場へ向かって急降下した。


 レオルディア軍はまだこちらに気付いていない。


 そして、リオンが命令を下す。「撃て!!」


 次の瞬間、機関銃が火を吹いた。


ダダダダダダダダダ!!

 

 銃弾の雨が地上へ降り注ぐ。レオルディア兵たちが次々と倒れ、陣形が崩れた。


「敵襲だ!!」

「空だ!」

「何だあれは!?」


 悲鳴と混乱が戦場を駆け巡る。当然だった。この世界にヘリコプターは存在しない。空飛ぶ鉄の塊など、彼らにとっては悪夢そのものだ。


 狼族の兵士たちも次々と射撃を開始する。


ダダダダダ!!パン!!パン!!


 自動小銃と狙撃銃が火を噴き、地上の部隊を次々と薙ぎ払っていく。


 混乱は瞬く間に広がった。リオンも窓から身を乗り出す。


「左の魔導兵を潰せ!」


 照準を合わせる。パン!!一発。


 魔導兵が崩れ落ちた。魔法の詠唱が途切れる。


 城壁上の兵士たちから歓声が上がった。


「援軍だ!」

「どこの軍だ?」

「空から来た!!」


 士気が一気に回復していく。


 だがその時だった。リオンの視線が、ある一点で止まった。「……あ?」


 遠く。敵本陣の中央。一つの旗が風になびいていた。黄金の獅子。赤い盾。見間違えるはずがない。


 それはアルベール領の旗だった。

 リオンの表情が消える。


「どうした?」


 ガルヴァンが問いかける。返事はない。


 リオンはただ、その旗を見つめ続けていた。


 やがて静かに口を開く。「アルベール家だ」


「何?」ガルヴァンも窓の外へ目を向ける。そして、理解した。「まさか……」


 リオンの脳裏に、遠い過去の記憶が蘇る。

 

 レオルディア王国。アルベール領。貴族たち。仲が良かった使用人たち。幼い頃に過ごした日々。


 そして、兄。エドワード・アルベール。

腹違いだが血の繋がった兄だった。

 

 恋をした人を奪われ。決闘までした。決して良い思い出はない。


 領地を追われてから、一度も会っていない。生きているのかどうかさえ興味が無かった。


「兄貴か……」小さく呟く。


 感動はなかった。懐かしさもほとんどない。胸の奥から湧き上がるのは、ただ静かな怒りだった。


 ゼルファは助けを求めている。ナルディは燃えている。罪のない人々が死んでいる。その侵略軍の中にアルベール領の旗がある。


「そうか」


 リオンはゆっくりと息を吐いた。そして、ライフルを握り直す。


 ガルヴァンが横目で見る。「リオン」


「分かってる」


 その声は冷静だった。だが、ガルヴァンには分かる。長い付き合いだ。リオンは本気で怒っていた。「感情で動くなよ」


「動かないさ」リオンは淡々と答える。


 窓の向こうでは、アルベール領の旗が風に揺れていた。


「ただな……」リオンは小さく笑う。その笑みは氷のように冷たい。「ゼルファを助けた後で、少し話を聞く必要はありそうだ」


 その言葉を聞いたガルヴァンは、心の中で深いため息を吐いた。(兄貴殿。今のうちに逃げておけ)


 そう思わずにはいられない。


 なぜなら、リオンが本気で怒った時に何が起こるのかを、誰よりも知っているからだ。


 ヘリはナルディ上空を旋回し続ける。戦場の熱気はさらに激しさを増していく。


 そして、リオンは最後まで視線を逸らさなかった。


 懐かしい故郷の旗。かつて自分が生まれ育った家の紋章。


 それは今や、敵軍の象徴として戦場にはためいていた。 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ