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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田 ソラ


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第294話 友を助けるために

 ガルリオン共和国王城の会議室。


 重苦しい空気が室内を満たしていた。長机を囲むのは共和国の首脳陣と家族。


 ガルヴァン。 リゼ。 ルナ。 フィーナ。  そして、リオン。


 机の中央には、一通の手紙が置かれている。ゼルファから届いた救援要請だった。


 しばらく沈黙が続いた後、ガルヴァンが腕を組んだまま口を開く。「状況は分かった」


 低い声が会議室に響く。


「だが、本当にやるのか?」


 リオンは迷うことなく頷いた。


「ああ」


 その返答に、ガルヴァンは深いため息を吐く。「相手はお前の故郷、レオルディア王国だぞ」


「分かってる」


「周辺最大級の軍事国家だ」


「分かってる」


「戦争になるぞ」


「分かってる」


 それでもリオンの答えは変わらない。やがて会議室が静まり返る。


 リオンはゆっくりと口を開いた。「俺は昔、レオルディア王国で生まれた」


 全員が顔を上げる。


 リオンの瞳は、遠い過去を見つめていた。


「殺されかけた」

「捨てられた」

「愛した人を殺された」

「追われて殺されかけた」


 淡々と語られる言葉。しかし、その重みは誰にも伝わっていた。


「だから未練はない」


 静かな声だった。そして、机の上の手紙へ視線を落とす。「だがな……」


 脳裏に浮かぶのは工房での日々。何も知らなかった頃。魔導具を作りながら笑い合った時間。失敗だらけだった実験。徹夜続きの研究。ゼルファは確かに友だった。


「ゼルファには借りがある」


 リオンは静かに言う。


「助けを求められた」


 そして、迷いなく続けた。


「なら助ける」


 それだけだった。


 リゼが優しく微笑む。「あなたらしいですね」


 ルナも頷く。「そうですね」


 フィーナも珍しく反対しなかった。「私も賛成です」


 リオンが少し驚く。「聖女なのに?」


 フィーナは真面目な顔で答えた。「友人を見捨てる方が、神はお嫌いになります」


 その言葉に、リオンは小さく笑った。するとガルヴァンが表情を引き締める。


「なら準備が必要だな」


「ああ」


「まずは日本側との調整だ」


 全員が頷いた。


 共和国最大の強み。それは日本との交易関係だった。


 燃料。機械。資材。医薬品。そして、各種装備。


 戦争を行う以上、日本との調整は避けて通れない。

 

 その日の午後、日本との外交施設。リオンは日本側担当官と向かい合っていた。


 外交官は神妙な表情で話を聞いている。


「なるほど……戦争ですか」


「ああ」


 リオンは頷いた。


「目的は友人の救出だ」


 外交官は苦笑する。


「少々、規模が大きすぎませんか?」


「俺もそう思う」


 本心だった。だが、それでも止まるつもりはない。


 外交官は資料をめくりながら言う。


「共和国との貿易についてですが」


「一時停止をお願いしたい」


  リオンは頭を下げた。


「軍事行動中はスキルの輸送に安全を保証できない」


「なるほど」


 外交官も理解を示した。


「日本政府へ報告します」


「頼む」


 短い沈黙が流れる。やがて担当官が問いかけた。


「勝てますか?」


 リオンは少し考えた。レオルディア王国。大国。強国。軍事国家。普通に考えれば、勝てる相手ではない。


 リオンは正直に答えた。「分からん」


 担当官が静かに頷く。

 

 だが、次の言葉には確かな自信があった。「だが、負ける気はない」


 担当官は苦笑した。「そうですか」

   

 その夜。王城のバルコニー。リオンは一人、夜空を見上げていた。


 そこへガルヴァンがやって来る。「決めたな」


「ああ」リオンは頷いた。「ゼルファを助ける。そして、レオルディア王国と戦う」


 ガルヴァンは苦笑する。「また面倒なことになったな」


「毎回だろ」


「違いねぇ」


 二人は顔を見合わせて笑った。だが、その目は真剣だった。


 遠くグランゼル王国では、今も戦火が広がっている。


 友が助けを求めている。ならば行くしかない。


 ガルリオン共和国王リオンは、静かに拳を握った。


「待ってろ、ゼルファ」


 その呟きは夜風に溶けて消えていく。


 そして、共和国史上最大規模の戦争が、ゆっくりと幕を開けようとしていた。 




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