第292話 毎日来る赤龍
話し合いから数日後。リオンは一つの事実を思い知った。
龍族は極端だった。本当に極端だった。
なぜなら……。
「おはよう!」朝、赤龍カミリアが来た。
翌日。「おはよう!」また来た。さらに翌日。「おはよう!」やっぱり来た。そして一週間後。「おはよう!」当然のように来た。
「毎日来てないか?」リオンは真顔だった。
「毎日来ているな」アレリーナは不機嫌だった。非常に不機嫌だった。ものすごく不機嫌だった。
「友達になるだけだと言った」
「なってるな」
「なっている」
実際問題、カミリアは約束を守っていた。婚約者とは言わない、アレンを連れ去ろうともしない、変な話もしない。ただ毎日来るだけだった。
「それはそれでどうなんだ……」リオンは頭を抱えた。
しかし、当の子供たちには大好評だった。
「カミリアー!」ラミが飛び付く。
「来たぞ」カミリアは笑う。
ゼオンも嬉しそうで、リオナもすぐに懐いた。龍族というより、大きなお姉さん扱いだ。
精霊たちも集まってくる。
『カミリアー』
『遊ぼー』
『飛ぼー』
「今日は何をする?」すっかり馴染んでいた。
「馴染みすぎだろう……」アレリーナだけが苦々しい顔をしている。
「そうだな」リオンも同意した。
そして、問題はアレンだった。カミリアはアレンを見ると笑顔になる。「おー」
「きゃー♪」アレンも笑う。相性は悪くない、むしろ良い。それがアレリーナには気に入らなかった。
「むぅ……」母親として複雑だった。
さらに数日後。ラミがとんでもない提案をした。
「家作ろう!」全員が首を傾げる。
「家?」
「うん!」ラミはカミリアを指差した。「毎日来るんだから住めばいい!」
カミリアが固まる。リオンも固まる。アレリーナは顔を引き攣らせた。「待て」
しかし、ゼオンが賛成した。「きゃ!」
リオナも賛成した。「わぅ!」
精霊たちも賛成した。
『作るー!』
『家だー!』
『家ー!』
多数決だった。そしてなぜか建築計画が始まった。
三日後。北部森林地帯の一角に新しい家が建っていた。木造二階建て、人型用サイズ。精霊たちとエルフたち、ドワーフたちまで協力した結果、妙に立派な家になった。
「本当に作った……」カミリアは呆然としている。
「作ったな」リオンも呆れていた。
「これで毎日来ても大丈夫!」ラミは満足そうだった。
「元から来てたぞ」ガルヴァンならそう突っ込んでいただろう。残念ながら不在だった為、リオンが突っ込んだ
カミリアは家を見上げる。少しだけ嬉しそうだった。「いいのか?」
「もう住民みたいなものですから」リゼが微笑む。
「今さら追い返す方が面倒です」ルナも笑った。
「確かにな」リオンも否定できなかった。
その時、アレンが小さな手を伸ばす。「きゃー♪」
カミリアは思わず笑顔になった。「ただいま」
その言葉に、アレリーナの眉がぴくりと動く。「待て」
全員が振り向いた。アレリーナは腕を組んでいる。「誰が家を与える許可を出した」
静寂。誰も答えない。ラミが手を挙げた。「私!」
「ラミか……」アレリーナは頭を抱えた。
そして、リオンを見る。「お前は止めなかったのか」
「気付いた時には完成してた」
「役立たず」
「酷くね?」アレリーナはちょっと泣いた。
しかし家の前で嬉しそうにしているカミリアを見て、遊んでいるゼオンたちを見て、笑っているアレンを見てアレリーナは大きくため息をついた。
「……まぁいい」
完全には認めていない。しかし追い出す気もなかった。
「ありがとう」その姿を見たカミリアが笑う。
「礼は言うな」アレリーナは顔を背ける。しかし耳だけ少し赤かった。
こうして北部森林地帯には新たな住人が増えた。
赤龍カミリア。龍族の姫でありながら気付けばすっかり、共和国の騒がしい仲間の一人になっていた。




