第291話 古竜の話し合い
北部森林地帯。
カミリアの泣き声は未だに続いていた。
「うぅぅぅ……」
赤髪の龍姫は木の切り株へ座り込み、完全に落ち込んでいる。リゼがお茶を差し出した。「どうぞ」
「ありがとうございます……」すっかりしおらしくなっていた。
一方、少し離れた場所では。
「やり過ぎたか?」リオンが小声で聞く。
「少しだけな」アレリーナも認めた。
「少しだけか?」
「少しだけだ」
ロケットランチャーを持ち出した時点で少しではない気もしたが、お互い深く考えないことにした。
その時だった。森の奥から重厚な声が響く。
「やはりこうなったか」
「父上……」全員が振り返り、アレリーナが顔をしかめた。
そこに立っていたのは古竜ウロボロスだった。人型の姿ではあるが、その存在感は相変わらず圧倒的である。
「ウロボロス様……」カミリアが顔を上げる。
「うむ」
ウロボロスは周囲を見渡した。リオン、アレリーナ、リゼ、ルナ、カミリア。最後にアレン。アレンは何も知らずに寝ていた。「すぅ……」本人だけは平和だった。
ウロボロスは深くため息をつく。「話し合いをしよう」
「嫌な予感しかしない」リオンが即答した。
「するな」アレリーナは言う。
「する」ウロボロスも譲らない。
すると精霊たちが騒ぎ始めた。
『会議だー』
『また会議ー』
『椅子並べるー』
数分後、なぜか広場には円卓が用意されていた。もはや誰も突っ込まない。全員が席へ着く。アレンだけはアレリーナの膝の上だった。完全防御である。
「さて」ウロボロスが咳払いをする。
「さてじゃない」リオンが即座に返す。しかしウロボロスは気にしない。
「まず確認する」カミリアを見た。「お前はアレンをどうしたい」
カミリアは一瞬迷い、真面目な顔になる。「一緒に幸せになりたい」
場が静かになった。
「龍族として興味があるのも事実です。ですが、それ以上に……」カミリアは眠るアレンを見る。「初めて見た時から気になったのです」
アレリーナは不機嫌そうだったが黙って聞いていた。
「では次」ウロボロスは今度はリオンを見る。「お前は何が気に入らん」
「全部」即答だった。
「全部!?」カミリアがショックを受ける。
「アレンはまだ赤ん坊だ。将来どうなるかも分からん。なのに婚約者だの何だの言われても困る」リオンは腕を組んだ。真っ当な意見だった。
「私も同意見です」リゼも頷く。
「本人の意思が最優先です」ルナも続く。
「その通りだ」ウロボロスは満足そうだった。珍しくまともな流れだった。
しかし、次にウロボロスはアレリーナを見る。「お前は?」
「母親だ」
「うむ」
「以上だ」
全員が納得した。母親だった。それ以上の理由はいらない。
「父親としては?」ウロボロスがリオンへ聞く。
「同じだ」即答だった。
「親馬鹿ですね」「重症です」リゼとルナが呆れた顔をする。
「「うるさい」」リオンとアレリーナが同時に返した。息がぴったりだった。
「なるほど」ウロボロスは笑い、少し考えた後に結論を出した。「婚約は無しだ」
「えっ」カミリアが固まる。
「アレンは赤子だ。本人の意思など存在せぬ。よって婚約話は無効」
カミリアは肩を落とした。しかし、ウロボロスは続ける。「ただし」
全員が顔を上げた。
「友人になることまで禁止する必要はない」
沈黙。
「友人?」リオンが眉をひそめる。
「会いに来るくらいなら良かろう」ウロボロスは笑った。
リゼとルナが顔を見合わせる。それくらいなら問題ない。アレリーナも少し悩む。
「……変なことをしなければ」
「しない!」カミリアが即答した。ものすごい勢いだった。
「本当か?」リオンは疑わしい目で見る。
「本当だ!」
若干怪しかった。しかし、その瞬間、アレンが「きゃー♪」と笑った。
全員が見る。そして、なぜか場の空気が少し和らいだ。
「よし」ウロボロスが満足そうに頷く。
「何がよしなんだ」
「話し合いは成功だ」古竜はそう断言した。
リオンは納得していなかったが、少なくとも今すぐ戦いになることはなさそうだった。
ウロボロスはそれだけでも十分な成果だった。




