閑話 精霊会議その二:誰だよ移動式にしたの
精霊域。
人間には見えない精霊たちの集会所。中央には相変わらず《精霊門》が浮かんでいた。しかし、何かがおかしい。
『……』『……』『……』
精霊たちは無言だった。なぜなら、門が動いていた。
ふわふわ。ふわふわ。勝手に。
『誰だよ移動式にしたの』火の精霊イグニスが真顔で言った。
『リオン』土の精霊ノームが即答した。
『やっぱり』『やっぱり』シルフとウンディーネも同時に頷く。
数日前、リオンが何気なく言ったのだ。
『固定だと不便じゃね?』と。
その結果、精霊たちは頑張った。頑張りすぎた。そして完成した。移動式精霊門。
『便利ではある』ウンディーネが認める。
『便利ではあるんだけど管理項目が三倍になった』ノームが死んだ目で言った。
位置情報、高度情報、転移先座標、安全確認、魔力調整、接続確認、許可確認、不法侵入確認。
『胃が痛い』
『精霊に胃あったっけ?』
『気分の問題』
イグニスは疲れていた。
その時、精霊門がふわりと動く。
『あっ』
『また動いた』
『誰か呼んだ』
門は空中をゆっくり移動する。まるで散歩しているようだった。
『門が散歩するな』ノームが呟く。
『でも便利なんだよね』シルフが言う。
『北部の森の奥でも開けるし、王都の城壁の上でも開ける。リオンの家の前でも開ける』
『ゼオンの寝室前でも開ける』
一瞬、全員が固まった。
『待って』
『それダメじゃない?』
『ダメだね』
『絶対ダメ』
ウンディーネが即座に規約を取り出した。どこから出したのかは誰も知らない。
【精霊門利用規約第七条。プライバシーの保護。寝室前への設置は禁止】
『追加した』
『できた?』
『なぜ?こんな問題が……』シルフが聞く。全員が遠い目をした。
『リオン』
『リオン』
『リオン』
その頃、王都。リオンはくしゃみをした。「はっくしょん!」何故か背筋が寒かった。
一方、精霊域では会議が続いていた。
『あと問題』ノームが手を挙げる。『移動式になってから門の迷子が増えた』
『は?』
『門が』
『門が?』
『迷子』
沈黙。
『門が迷子になるの?』
『なる』
『なんで?』
『自律移動機能』
『消せ』満場一致だった。
その時だった。移動式精霊門が突然光り出す。
『ん?』
『誰か来る?』
『誰だろ』
次の瞬間、門が開いた。現れたのはラミだった。
「おっ、見つけた」
『うわ』
『最悪の来訪者』
『帰って』
『帰って』
「なんで!?」ラミは不満そうだった。
しかし、精霊たちは知っている。ラミが来る時、大体ろくなことにならない。
「そういえばさ」ラミが笑顔で言った。「この門、空飛べる?」
『は?』
嫌な予感しかしなかった。
「龍に付けたら面白そうじゃない?」
沈黙。精霊たちは顔を見合わせる。
『却下』『却下』『却下』『却下』
満場一致だった。
その後、規約第十二条【精霊門を龍に装着して飛行させてはならない】が追加されたという。




