第290話 泣き虫赤龍
決闘開始から三十分後。海上。
そこでは一方的な光景が広がっていた。
『嫌ャャャャャャ!?』赤龍カミリアが必死に逃げていた。その後ろから。
『待たぬ!!』聖龍アレリーナ。
さらに「止まれぇぇぇ!!」ロケットランチャーを構えたリオン。
追いかける側がおかしかった。
海面を掠めるように飛ぶカミリア。『決闘ではないだろうこれはぁぁぁ!!』
『決闘だ』アレリーナが真顔で言う。
『どこがだ!!』カミリアは叫ぶ。
アレリーナは容赦がない。リオンも容赦がない。「うちの息子に勝手に婚約者名乗ったんだから覚悟しろ!」
『だから龍族では普通だと言っただろう!?』
「知らねぇよ!!」
ドォン!!
近くの海面で爆発。巨大な水柱が上がる。『ぎゃああああ!?』カミリアは半泣きだった。もはや戦いではない。追いかけ回されているだけである。
数分後。『もう嫌だぁぁぁぁ!!』
カミリアは進路を変えた。一直線、北部森林地帯へ。
北部森林地帯。リゼとルナはアレンを見ながらお茶を飲んでいた。
「今日は静かですね」
「珍しいです」
その時、空から悲鳴が聞こえた。『助けてぇぇぇぇぇ!!』
「ん?」「なんでしょうか?」
次の瞬間、赤龍カミリアが墜落するように降りてきた。
ズドォォォン!!
地面が揺れる。光に包まれたカミリアは人型へ変化した。赤髪の女性の姿。涙目である。
「助けてぇぇぇぇ!!」そのままリゼの後ろへ隠れた。
「え?」リゼが固まる。
「は?」ルナも固まる。
さらに空から白銀の巨体。聖龍アレリーナ。そして背中にはリオン。物凄い勢いで降下してくる。
ズゥゥゥン!!
着地。風が吹き荒れる。アレリーナは人型へ戻った。
「逃げるな」「嫌だぁぁ!!」
カミリアは泣いていた。本当に泣いていた。リゼの服を掴んで離さない。
「怖かった!」
「何があったんですか?」
「聞くな」リオンが即答した。
「聞かぬ方が良い」アレリーナも腕を組む。
「絶対ろくでもないですね」ルナは確信した。
その時、アレンが目を覚ました。「きゃー♪」
カミリアの目が輝く。「あっ!」近付こうとした瞬間。
「駄目だ」アレリーナ。「駄目だ」リオン。二人同時だった。
「なんでぇ!?」カミリアが涙目になる。
「なんでもだ」「帰れ」「帰れ」「帰れ」
二対一だった。カミリアの目に涙が溜まる。「ひどい……」
「ひどくない」「ひどい!」「帰れ」「帰れ」再び二人同時。
「うわぁぁぁぁん!!」カミリアはついに本格的に泣き始めた。
「泣いてしまいましたよ?」リゼが困る。
「泣いきましたね」ルナも呆れる。
しかし、リオンもアレリーナも微妙な顔だった。
「なんか罪悪感あるな……」リオンと呟く。
「フン、少しだけな……」アレリーナは鼻を鳴らす。
だがアレンへ近付こうとするカミリアを見ると。「帰れ」「帰れ」
やはり結論は変わらなかった。
こうして北部森林地帯には、赤龍カミリアの大泣きする声がしばらく響き続けたのだった。




